前回は、Getting Mighty Crowdedの作者、ヴァン・マコーイのことを少し書いておこうと思ったのですが、時間が足りませんでした。ヴァン・マコーイとは、もちろんあの人です。
ヴァン・マコーイ Do the Hustle
思い出すだけでもゾッとするディスコ時代は、音楽的には死にたくなるような時期でしたが、それでも何曲かは笑ったものがあり、Do the Hustleはそこそこ面白がっていました。いま聴くと、タムタムの録音の仕方が変で、そのあたりにスタジオのヴェテラン、ヴァン・マコーイの技が感じられます。
ソングライターとしてのキャリアが長かった人なので、Getting Mighty Crowdedよりずっと昔から知っていた曲もあります。
バーバラ・ルイス Baby I'm Yours
バーバラ・ルイスは大好きなので、これはこれでホワーンとしたところが魅力的でけっこうなのですが、しかし、この曲はべつのアーティストで記憶していました。
ピーター&ゴードン Baby I'm Yours
いつもながらピーター&ゴードンのドラマーはすばらしい。当時のイギリスのセッション・ドラマーのベストです。ピーター・エイシャーはドラムのことなんかぜんぜんわかっていないリズム音痴なので、プレイヤーの名前をきかれて、覚えていないと答えていました。そういう人がプロデューサーになったんですからね、アンドルー・ゴールドのような人間の支えがなければ、まともな仕事なんかできなかったでしょう。
脇道ですが、バーバラ・ルイスのもうひとつの代表作をいってみましょう。ガール・グループの時代の曲で五本指に入れるほど好きな曲。
バーバラ・ルイス Make Me Your Baby
NYもがんばればやれるぞスペクタレスク・サウンド、といったあたりでしょうか。ドラムはゲーリー・チェスターです。
これはMIDIで完コピしましたが、再現のむずかしいのはギター・カッティングでした。いま考えれば、ほんもののギターでやったほうがよかったと思います。チャッ、というカッティング・ノイズがつくれないのです。
寄り道終わり。ヴァン・マコーイ作品としては、ルビー&ザ・ロマンティックスのWhen You're Young and in Loveなんかもなかなかキュートで、ハッスル親父の曲とは思えないほどです。やっぱり、ディスコで人格変わったのでしょう。ありがちなことです。ビージーズがああなるなんて、To Love Somebodyのころには想像もつきませんでしたよ。
◆ アーマ・トーマスのWhile the City Sleeps ◆◆
ニック・デカーロのItalian Graffiti、今日はB面の3曲目へと進みます。
ニック・デカーロ While the City Sleeps
Italian Graffiti収録曲のなかで、このWhile the City Sleepsが、オリジナルからもっとも遠ざかったアレンジではないかと思います。アーマ・トーマスのオリジナルと比較してみてください。
サンプル Irma Thomas "While the City Sleeps"
一回聴いたぐらいでは、同じ曲だと認識できるかどうかは微妙ってくらいに赤の他人しています。
この曲の場合、先にニック・デカーロのカヴァーを聴き、アーマ・トーマスのオリジナルを聴いたのはほんの数年前のことなので、オリジナルのアレンジには違和感がありました。しかし、ニック・デカーロがやったものとはべつの曲なのだと思えば、これはこれで悪くないと感じられるようになりました。
アーマ・トーマスの代表作というと、やはりこれでしょうか。
アーマ・トーマス Time Is on My Side
バックグラウンド・コーラスが大袈裟で笑ってしまいますが、こういう風に盛り上げるという方針を立てたなら、照れずにまっすぐ突き進むべきだから、これでいいんじゃないでしょうか。わたしは、ストーンズよりアーマ・トーマス盤のほうが面白いと思います。
◆ 勝負なし ◆◆
アーマ・トーマス盤While the City Sleepsも慣れれば悪くないのですが、それはそれとして、ニック・デカーロの解釈もそれなりに納得のいくものです。
三角関係に踏み込んでしまった語り手が、新しい恋人に密やかに語りかけている歌だからして、テンポを落として静かに歌う、というのはじつにまっとうな方針です。まっとうすぎてつまらない、かもしれませんが。
ただ、歌詞を聴いていると、(わたしが男だからかもしれないが)やはり女性の歌だと感じます。男はこういう形では悩まないのではないかと思うのです。現実にはそういう男がいたとしても、「それらしく感じれる」「似つかわしく感じられる」のはやはり女性だと思います。
ニック・デカーロのバックトラックで女性シンガーが歌うところを想像してみました。しかし、これもぐあいがよくないようです。いかにも女性シンガー向きのソフトなバラッドになり、イヤッたらしくて聴いていられないだろうと思います。甘さのほうに向かってバランスが一気に崩れていくでしょう。
結局、ニック・デカーロ、アーマ・トーマス、ともにちょうどよいサウンドで歌っているのだ、という結論です。しかし、おかしなことに、どちらのほうがメロディーラインの魅力が強調されているかというと、R&B丸出しの無骨なアーマ・トーマス盤のほうです。このへんがサウンドとメロディーの関係の摩訶不思議なところです。
ニック・デカーロ
イタリアン・グラフィティ
ヴァン・マコーイ
Sweetest Feeling: Van Mccoy Songbook 1962-73
ヴァン・マコーイ
The Hustle & The Best Of Van McCoy
バーバラ・ルイス
Platinum Collection
ピーター&ゴードン
Ultimate Collection
アーマ・トーマス
Sweet Soul Queen of New Orleans: Collection