ニック・デカロのItalian Graffitiのオリジナル7 Getting Mighty Crowded

B面のオープナー、Angie Girlに関する記事は書いたのですが、前回のWailing Wallと似たような話になってしまったので、これは後まわしにし、今回はB面の2曲目、Getting Mighty Crowdedへと進みます。

ニック・デカーロ Getting Mighty Crowded


このアルバムに収録されたなかでもっとも好きな曲ですが、出来は微妙なところです。ヴァースは歌いにくいところがなく、素人でも大丈夫なのですが、いっぽうで、ただ歌ったのでは面白くもなんともなく、ニック・デカーロの歌は聴いていて、ちょっとつらいものがあります。

コーラスは無難にやっていますが、ここはだれでも無難に歌えるだろうというパートです。問題はブリッジ(I'm saving you the trouble of putting me down/Start on the double/I'm gonna shop around)で、ここは難所です。putting me downなんか、聴いていてハラハラしてしまいます。ここが歌えるかどうかを基準にキーを決めたのでしょうが、いかにもギリギリ、これ以上は無理という感じで、排気量の小さい小型車はつらいなあ、という雰囲気です。

◆ ベティー・エヴァレット盤 ◆◆
うちにあるGetting Mighty Crowdedでもっとも古いのはベティー・エヴァレット盤で、これがオリジナルなのだろうと思います。クリップは山ほどあるのですが、マスタリングに問題のあるトラックなので、いちおうすべて聴き、もっとも好ましいものを選びました。

ベティー・エヴァレット Getting Mighty Crowded (stereo)


音の差はアップローダーの問題というより、使用した盤のマスタリングの差に由来しているのだろうと思います。うちにある3種はすべて大きく異なり、これならまあ許せるか、というのは、Sweetest Feeling: A Van McCoy Songbook 1962-73という、作者であるヴァン・マコーイの作品集に収録されたモノ・ヴァージョンです。

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いわゆる「ハイ・ファイ」なのは、It's in His Kiss - The Very Best of the Vee-Jay Years (1962-1965)というベスト盤収録のヴァージョンです。ステレオ定位も各パートの分離もよく、きれいな音です。

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もうひとつのThe In Crowd - The Story of Northern Soulというオムニバスに収録されたものは上記2種の中間で、分離は悪いものの、そこそこ強い音になっています。

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ノーザン・ソウルというイギリス方言は気にしないでください。たぶん、サザーン・ソウルの対立概念のつもりででっち上げられた言葉で、シカゴ、NYなどのR&B、サザーン・ソウルにくらべれば相対的に洗練されたソウル・ミュージックを指すようです。どうでもいい概念なので、イギリスでローカルにそういう言葉が通用しているのね、イギリス人てアホだな、ぐらいに理解しておけば十分です。

さっきから、なにを問題にしているかというと、ミックスダウンさえよければ、わたしはベティー・エヴァレットのオリジナルがあれば、この曲はほかにヴァージョンを必要としない、と考えているのですが、現実にはどのヴァージョンも不満足だということです。どのヴァリアントも、みな(当方の希望する水準にくらべれば)低音が薄くて、もっと持ち上げろ、とスペクターみたいに叫んでしまいます。

話は飛びますが、ハニーズのThe One You Can't Haveには大きく分けて2種類のマスタリングがあるのはご存知ですよね?

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たとえばライノのガール・グループ・アンソロジーに収録された、ブライアン・ウィルソンによるオリジナル・ミックスと、たとえばハニーズのベスト盤(Capitol Collector's Seriesという困った「タイトル」)やブリル・ビルディング・サウンドのアンソロジー・ボックスなどに収められた、ハニーズの希望に添って全面的にやり直したミックスという2種類です。

サンプル The Honeys "The One You Can't Have" (true to Brian Wilson's original mix, mono)

サンプル The Honeys "The One You Can't Have" (remix, stereo with much more drums)

どこがちがうかというと、ハニーズの希望でやり直したリミックスでは、ハル・ブレインなどのバックトラックを思いきり前に出し、ヴォーカルと対峙する形にしたことです。たしかにこのほうが現代的で、ブライアンのミックスはビートが弱すぎたと納得します。

だいたいブライアン・ウィルソンは、とくに初期はヴォーカルの人で、サウンドの重要性をほんとうの意味で理解していたとはいえないと感じます。ハル・ブレインのすごみが感じられるトラックは少なく、ビーチボーイズでもハルはやっぱりすごかったと納得したのは、ペット・サウンズ・ボックス収録のバックトラック群を聴いてからのことです。

ビーチボーイズ Sloop John B. (track only)


はじめてこれを聴いたときは、ハル・ブレインとキャロル・ケイがすごいんでひっくり返りました。子どものころは、ヘナチョコ腑抜け根性なしサウンドと馬鹿にした曲が、歌をとって裸になってみたら、すんげえグラマーだったんだから、まったく信じがたいことでしたよ。

では、The One You Can't Haveの歌を消すとどうなるか?

The One You Can't Have (track only)


すばらしい! ハルに惚れ直します。もともとこのトラックは大好きで、ベスト・オヴ・ハル・ブレインを編むならぜったいに欠かせないと思いますが、歌なしになると、美しさはいや増します。

バックビートは重ねているところがあると思っていましたが、エンディングに登場するハル・ブレインのシグネチャー・プレイ、豪快なstraight sixteenth against shuffle(シャッフル・ビートに逆らう16分のパラディドル)も、ダブル・トラックでやっていることが、これを聴くとよくわかります。いや、すげえ!

もうひとつ、このトラックで好きなのは、ストップ・タイムからの戻りの一打目のスネアです。もちろん遅れてしまったのではなく、意図的に遅らせているのですが(これもハルのシグネチャー・プレイ。たとえばママズ&ザ・パパズのGlad to Be Unhappyでもやっている)、こういう遅らせ方というのは、訓練でどうにかなったりするものではなく、センス以外のなにものでもないだけに、やっぱりハルのドラミングはきれいだなあ、と惚れ惚れします。

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長い長い寄り道終わり、ベティー・エヴァレットに戻ります。云いたいことはもうおわかりでしょう。Getting Mighty Crowdedの既存ミックスは、いずれもブライアンのオリジナル・ミックスによるThe One You Can't Haveのようなもので、バックトラック、とくにドラムが不当にミックスアウトされていて、おそろしく古めかしい音になっているのです。

ハニーズのように、ベティー・エヴァレットも、会社にミックスをやり直すように要求すれば、決定盤Getting Mighty Crowdedができあがると思います。プロダクション段階ではちゃんとやっているのに、ポスト・プロダクション段階での判断ミスの結果、なんだかなあ、薄味だなあ、もうちょっとなんとかならないのか、というモヤモヤした気分の残るトラックができあがってしまったと感じます。

◆ アラン・プライスのホワイターR&B ◆◆
Getting Mighty Crowdedは長年のフェイヴァリットなのですが、最初に聴いたヴァージョンは、ベティー・エヴァレットでもなければ、ニック・デカーロでもありませんでした。アラン・プライスのソロ・デビュー盤、The Price to Playに収録されたヴァージョンです。

サンプル Alan Price "Getting Mighty Crowded"

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ドラムがちょっとタイムの早い人で、グルーヴが寸詰まりになっていますが、まあ、そのあたりはご寛恕を願います。

どちらがいいか迷いましたが、低音をもちあげた新しいミックスのAnthology収録ヴァージョンをアップしました。LPのときはもっとずっと軽い音で、その軽さが魅力でもありました。

「ブルー・アイド・ソウル」なんていうのは軽く超越し、たんなる白人のポップにまで帰納させてしまったのは、むしろトゥール・デ・フォルスというべきではないか、なんて思ったものです。ロバート・パーカーのBare Footin'のカヴァーなんか軽いこと軽いこと、カシアス・クレイの「蝶のごとく軽く」てなもんです。

アラン・プライス Barefootin'


オリジナルだって重くはありませんが、ここまでペラペラではありません。でも、繰り返しますが、The Price to PlayというアルバムのR&Bカヴァーは、軽さこそが身上で、アラン・プライスが後ろ足で砂をかけて出てきたバンド、アニマルズのエリック・バードンのネチャネチャとしたネバつきとはみごとに手を切っています。

アラン・プライス I Can't Turn You Loose


これがオーティス・レディングの曲かよ、です。R&B味は微少、ロック味の濃いカヴァーで、ここまで味がちがえば、これはこれでいいじゃないか、と思います。代表作であるI Put a Spell on Youは、この方向性の延長線上に生まれました。



黒っぽさなんかクソ食らえという白さです。こういうやり方だっていいじゃないか、です。

あちこちに話が飛んで、もうギリギリの時間になってしまったので、ちょっと書き残しがありますが、それは次回にでも補足することにして、本日はここまで。


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by songsf4s | 2010-12-18 23:48