ニック・デカロのItalian Graffitiのオリジナル5 Wailing Wall

毎日綱渡りですが、今日は落ちるかもしれないという、危うい時間帯に書いています。なんてことをいっていないで、さっさと書こう!

Italian Graffitiはおおむね好判断が生んだ楽しい盤だといえます。なんでそんな曲を選んだの、といいたくなるようなものはありません。歌に関してはアマチュアなのだから、アマチュアでもボロを出さないですむような曲を見つくろっていますし、オリジナルが圧倒的にすばらしく、「カヴァー無用」のハンコがペタンと押してあるようなものは選んでいません。

そのなかで、もっともわからない曲は今日のWailing Wallです。なんでカヴァーしたのでしょうか。名前からはそうとは思えないのですが、元をたどればジュイッシュだから、この「嘆きの壁」の曲を歌ってみたかった、なんていう理由ぐらいしか想像できません。

ニック・デカーロ Wailing Wall


これ単独で聴けば、べつに悪いことはないと感じると思います。しかし、先にトッド・ラングレンのオリジナルを聴いていた場合は、なんでまた、と云いたくなります。

サンプル Todd Rundgren "Wailing Wall"

ニック・デカーロ盤Wailing Wallには、気に入らない点がいくつかあります。まず、アレンジらしいアレンジをしていないこと。ほとんどストレート・カヴァーというか、コピー同然です。ベースを入れているとか、フルートを加えているとか、瑣末な違いはありますが、全体の印象は非常によく似ています。基本的には両者ともバラッドのピアノ弾き語りです。

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シンガーの持ち味がまったく違うなら、こういうストレート・カヴァーも、まあ、百歩譲ってよしとしないわけではないのですが、ニック・デカーロは、歌については無難にやるのが精いっぱいの素人です。サウンドで勝てなければ、いや、勝ち負けの問題ではないというなら、サウンドで「差異をつけられなければ」、オリジナルを上まわれる公算ははじめからゼロです。フランク・シナトラがビング・クロスビーをカヴァーするような、名人上手だけに許されるハイレベルの勝負のできるシンガーではないのですから。

トッド・ラングレンがビング・クロスビーのような不世出のシンガーだなどとはだれもいいません。しかし、こうして聴いてみると、やはりシンガーとしてやっていける人と、素人の差は歴然としています。

これまでの記事で賞賛してきたように、このアルバムでのニック・デカーロのヴォーカル・アレンジは、派手さはないものの、神経の行き届いたもので、彼のシンガーとしての弱点をうまくカヴァーしています。

しかし、それをいうなら、トッド・ラングレンは手ごわい相手です。すばらしいヴォーカル・アレンジャーだなどと誉めた文言は読んだことがありませんが、わたしははじめからトッドのハーモニーの扱いが好きでした。いくつかクリップをいってみます。

トッド・ラングレン It Wouldn't Have Made Any Difference


この曲のコーラス(but it wouldn't have made any difference if you loved me, you just did not love me)で聴かれるような変態技まで繰り出してくるのだから、まっとうなアレンジャーが立ち向かって勝てる相手ではないのです。トッドのはアレンジャーのアレンジではなく、アーティストのアレンジなのだから、はじめから「強度」がちがいます。

トッド・ラングレン Can We Still Be Friends


トッド・ラングレン Baby Let's Swing-The Last Thing You Said-Don't Tie My Hands


Baby Let's Swingは初期の曲ですが、いろいろやっています。はっきりと感じ取れるのは、ビートルズの強い影響があることで、それでわれわれには近しいヴォーカル・アレンジに思えるのでしょう。

わたしがヴォーカル・アレンジの上手い下手をいったりすると大笑いするお客さんたちがいるだろうから、そういうレベルのことはいいません。でも、「楽しい」アレンジではあることはまちがいありません。わたしはトッドを聴くと、いつもシング・アロングしたくなります。それもリード・パートではなく、ハーモニー・パートをです。

トッド・ラングレン I Saw the Light


この曲は「わたし、ふつうにやってもうまいんです」というところでしょうか。ストレートなヴォーカル・アレンジもけっこうです。

脇道に入りますが、わたしはトッドのドラミングが大好きで、いつか「トッド・ザ・ドラマー」というのをやろうと思っています。タイムがどうの、テクニックがどうの、というのではなく、非常にクリエイティヴなドラミングをするところが、さすがは一介のプレイヤーとは違う、プロデューサーのドラミングだと感じ入ります。歌が必要とするドラミングを知っているドラマーです。

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And from dawn till dark...

てな寄り道はともかくとして、ニック・デカーロが挑むには、トッド・ラングレンはもっとも都合の悪い相手でした。アレンジャーとしても優れているトッドが、ほとんどなにもしなかった曲だから、ニック・デカーロもなにもしなかったのは、まあ、わからなくはありません。シンプルにやるべき曲だという判断自体は肯定できます。でも、なにかしないとトッドには勝てないでしょうに。ほっといたら不戦敗です。

はじめの話に戻りますが、やり方が悪かったというより、なぜこういう、どうにもやりようのない曲を選んだのか、という問題なのです。ユダヤ人だから、ぐらいしか、わたしには思いつきません(おかしなことに、トッド自身がユダヤ人かどうかははっきりしない)。

Italian Graffitiは、オリジナルに対して、おおむねパー以上の成績を上げていますが、トラック5にして、ニック・デカーロはバンカーにはまってボギーを叩いたと思います。


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ニック・デカーロ
イタリアン・グラフィティ
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トッド・ラングレン
ラント:ザ・バラッド・オブ・トッド・ラングレン(K2HD/紙ジャケット仕様)
ラント:ザ・バラッド・オブ・トッド・ラングレン(K2HD/紙ジャケット仕様)


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by songsf4s | 2010-12-17 22:22