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ニック・デカロのItalian Graffitiのオリジナル3 Tea for Two前篇

Italian Graffitiはカヴァー曲で構成されたアルバムですが、その内訳は明快で、コンテンポラリーな曲ばかりです。ただし、一曲だけ例外、スタンダードがあります。A面のトラック3、Tea for Twoです。

ニック・デカーロ Tea for Two


こういう曲、こういうアレンジ、こういうサウンドというのは、いかにものは云い様とはいいながら、云い様がないよ、と泣きが入ります。4ビートでしっとりかあ、まあ、そういうのが好きな人も多いね、ピリオド。

しかし、例によってヴォーカル・アレンジには見るべきものがあり、また、この4ビートにはすこし濁りがあるというか、露骨な軟弱ラウンジ・ジャズ風味ではないので、そのあたりは救いです。ニック・デカロは良くも悪くも、つねにあっさりしているのです。

ニック・デカーロは、近年はオミットされることが多い前付けヴァースも歌っています。オリジナル(ないしは初期の形)とはずいぶん文言を変えていますが、省略はしていません。うちにあるものでは、フランク・シナトラがどのヴァージョンでも前付けヴァースを歌っています(また、インストだが、バド・パウエルとジョー・ハーネルもこの部分のメロディーを弾いている)。

1925年というのだから、大正15年=昭和元年に生まれた曲です。当年とって八十五歳のご老体。その老化の過程で、前付けヴァースの歌詞も少しずつ変化していったのかもしれませんし、あるいは、ニック・デカロが古めかしい表現を言い換えてしまったのかもしれません。面倒くさいので比較一覧などしません。つくってもどなたも読まないでしょうから。

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◆ オリジナルというかなんというか…… ◆◆
このブログをはじめたころにそういうことをしばしばやりましたが、スタンダード曲の出自というのは、調べても虚しいばかりです。だいたい、ミュージカルに行き着き、なんだ、これもティンパン・アリー産か、と思うだけなのです。

むろん、Tea for TwoもNo No Nanetteというミュージカルの挿入曲だそうです。ただし、どういうわけか、初演はNYではなく、ロンドンのようです。なぜか、なんて追求するとまた長くなるので、この件はこれ以上深追いしません。

なにしろ亡父がまだよちよち歩きのころの出来事、しかとはわからないのですが、このクリップはどうでしょうか。

Helen Clark and Lewis James "Tea for Two" from the 1925 musical "No No Nanette"


正真正銘のオリジナルかどうかはわかりませんが、なるほど、このあたりが原型だろうと納得する音です。

いつも感心しますが、1920年代、30年代というのは、ぜったいに、スロウに、しっとりと歌ったりなんかしませんねえ。のちにスロウ・バラッドとして定着する曲でも、軽快にやっています。朗々と歌うことはあっても、しっとりとは歌わないのです。まあ、マイクなしで歌うことが多かったから、しっとりと歌うという発想自体がまったくなかったのでしょう。だから、クルーニングというのが一大革新だったことは理解できるのですが……。

スロウ・バラッドというのは50年代の陰謀、といって悪ければ、オーディオ・テクノロジーの進歩に伴う新発明だったとみなしています。まだそんなものがなかった時代を知っているエルヴィスが早々に破壊してくれたから、いまわたしは安閑とバックビートのある音楽に身をゆだねることができるのだなと、タイムラインがひとつズレたスロウ・バラッド並行宇宙を想像して、戦慄したりします。

エルヴィスがいなければ、パット・ブーン王朝が生まれたんですぜ、どうします、オーウェルの1984が天国に見えるほどの、スロウ・バラッド暗黒時代を生きならければならないとしたら? やっぱり反乱をおこすしかありません。エルヴィスがいなくても、だれかがあの役割を担ったことでしょう。

クルーニング創始者ビング・クロスビーの弟、ボブ・クロスビーのヴァージョンはどうでしょうか。シンガーとしてではなく、バンド・リーダーとしてのもののようです。

Bob Crosby - Tea For Two


中身をどうこういう前に、リッピングの高度な技に仰天しました。やっぱり世界にはすごいリッパーがまだいくらでもいるようです。SP盤のリストレーションとしては最高峰ではないでしょうか。

戦前のものはこれくらいにしておきますが、スタンダード化してからのこの曲のイメージとはだいぶ懸け離れていることは、この二種だけでもよくわかります。もとがコメディーの挿入曲だということもあるのでしょうが、軽快にやるものだったのでしょう。

◆ レス・ポール、ドリス・デイ、トニー・モトーラ ◆◆
この調子でやっていると永遠に終わりそうもなくて困りました。今回はあと少しやって、残りは次回ということにします。

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つぎは第二次大戦中、1944年の第一回Jazz at the Philharmonicでの録音。

J.J. Johnson - trombone
Illinois Jacquet, Jack McVea - tenor saxes
Les Paul - guitar
Nat King "Shorty Nadine" Cole - piano
Johnny Miller - bass
Lee (Prez' brother) Young - drums

というなかなか興味深い取り合わせです。ただし、ランニング・タイムは12分を超えるので、辛抱強いレス・ポール・ファン以外にはお勧めしません。音もよくありませんが、これは盤でも似たようなもので、このクリップのせいではありません。



ドリス・デイのヴァージョンはヒットしたようですが、以下のクリップはそのスタジオ録音とは異なる映画ヴァージョン。軽くやっているこちらのほうが、わたしは好きです。

ドリス・デイ Tea for Two (映画ヴァージョン)


なんていっているといつまでも終わりません。そろそろ自前クリップと思うのですが、うちにあるようなものはみなクリップがあって、困りました。ちょっと時代は飛んでしまいますが、ギター・インスト・ファンのために、トニー・モトーラ盤をいってみます。

サンプル Tony Mottola "Tea for Two"

バド・パウエルなどと同じように、トニー・モトーラも前付けヴァースの部分を弾いています。この人の悪い癖で、いらんところで音数が多かったりはしますが、しかし、ギター・インストはやっぱりいいなあ、というトラックです。ほんの一瞬しか活躍しませんが、(たぶんディック・ハイマンの)オルガンもすばらしいサウンドです。

いつの録音かわからなくて、まじめに調べたのですが、すっきりとした解決にはたどり着けませんでした。おそらく、わたしがもっているStardustというアルバムが、オリジナルのリイシューではなく、改題リイシューで、そのため、Stardustで検索すると、みな1992年などという、あらぬ年をいうだけで、正しいリリース年が判明しなかったのだと思います。

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Stardustはたぶん、1973年のアルバム、Warm Feelingsのリパッケージなのでしょう。(I Want to) Make It With You、Theme from Love Story、Watchin' Scotty Grow、For All We Know、It's Too Late、Rainy Days and Mondays、Ifといった収録曲と、1973年というリリース時期の想定は矛盾しません。

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レーベルはProject 3、イーノック・ライトがCommandのつぎにつくったもので、Warm Feelingsというアルバムのプロデューサーもライト自身、ディック・ハイマンなどもプレイしていて、いつものライト=モトーラ人脈による、いつものサウンドです。ふつうのギター・インストはひととおり聴いた、煮詰まった、という方は、トニー・モトーラをはじめとする、CommandやProject 3などのイーノック・ライト関連盤を追及なさるとよろしかろうと思います。

しかし、ニック・デカーロはどこかへ飛んでしまったなあ、でありました。次回もTea for Twoです。


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ニック・デカーロ
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The Complete Jazz At The Philharmonic On Verve: 1944-1949
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トニー・モトーラ
Stardust
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by songsf4s | 2010-12-14 23:58