ニック・デカロのItalian Graffitiのオリジナル1 Under the Jamaican Moon

12月12日は小津安二郎の誕生日にして命日でした。還暦の誕生日に息を引き取る人というのは、そうはいないでしょう。1212なんていう数字の並びも、いかにも小津らしく整然とし、端正です。

といって、べつに小津関連の企画を用意していたわけではありません。今年の秋は小津のカラー三部作を一気にやろうか、なんて思わなくもなかったのですが、それだけの元気はありませんでした。

でも、せっかくだから、ちょいとサンプルなどいってみましょうか。小津ファン以外は聴かないほうがいいと思いますが、インタヴューと『秋日和』のほんのささやかなダイジェスト。それでもランニング・タイムは11分を超えます。

サンプル 小津安二郎『秋日和』オーディオ・ダイジェスト

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ざっと説明しておきます。冒頭は小津安二郎監督の謦咳。つぎの女性は岡田茉莉子です。『秋日和』の岡田茉莉子はじつにけっこうでした。彼女が「父」といっているのは俳優の岡田時彦、戦前の小津映画の常連でした。その縁から小津は岡田茉莉子をかわいがったようです。背後で流れている曲は斎藤高順による『秋日和』のテーマ。

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その先は映画からのダイジェストです。まず、法事のあとの精進落とし、柳橋あたりの料亭の場面です。登場するのは原節子、司葉子、佐分利信、中村伸郎、北竜二の五人です。

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『秋日和』より、柳橋あたりの料亭の場面。左から司葉子、原節子、北竜二、佐分利信、中村伸郎。

「そりゃいかんな」ではじまるのは、ラーメン屋で佐田啓二と司葉子が話す場面。なんだかむやみに奥行きのないバーカウンターみたいなテーブルが不思議で、気になって気になって落ち着かなくなるシーンです。

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ノックの音、「はい、どなた?」の返事ではじまるのは、原節子、司葉子の親子が住むアパートに岡田茉莉子がおとずれたところです。

最後はもう終盤、司葉子が佐田啓二と結婚する前に、親子で旅をするのですが(『秋日和』は『晩春』のリメイクみたいなものなので、これは『晩春』の京都旅行にあたる)、これは、エーと、中禅寺湖、いや、榛名湖かな、湖のそばの茶屋で氷かなにか食べる場面だったと思います。ちょっと記憶あやうし。

原節子が「なんかかんか買ってきて」というのを聴いていて、「なんかかんか」という言葉を最近、耳にしていないことに気づきました。「なにやかにや」のほうがまだ使われているような気がします。「なんかかんか」はたぶん関東でしか使わない言葉なのでしょう。

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音だけにしてみると、小津安二郎と野田高梧の書く台詞の美しさがいっそう際立ち、思わず暗誦してしまったりします。そういう映画脚本というのは、そうたくさんはないでしょう。

◆ ニック・デカロ盤 ◆◆
カーティス・メイフィールド・ソングブックに予定していたあと2曲は、It's All RightとFor Your Precious Loveですが、やるにしても、いずれ後日ということにします。It's All Rightは二種類しかなくて簡単なので、時間がなくて焦っているときにでもやるかもしれません。

For Your Precious Loveは、ジェリー・バトラー、インプレッションズ、カーティス・メイフィールドのいずれにとっても代表作でしょう。でも、わたしは、この曲はつねに「歴史のお勉強」と思って聴いてきただけで、いいと思ったことはありません。そのわりにはヴァージョン数がむやみにあって、たぶん永遠にペンディングとなるでしょう。

ということで、move on drifter, drifter move on、てな感じで、つぎの企画に移ります。カヴァーとオリジナルというのは昔からよくやっているゲームだから楽でして、また同工異曲です。またしてもR&Bカヴァー&オリジナルをやろうかと思ったのですが、ポップ系で一拍入れてから、そのあとでやることにしました。

ということで、タイトルに書いたとおり、ニック・デカロ(デカーロ)のItalian Graffitiを箸休めにします。とくに乱さなければならない理由はないので、LPの曲順にしたがってオリジナルを検討していくことにします。

それではアルバム・オープナー、Under the Jamaican Moonです。オリジナルに重心をおくので、ニック・デカロ盤については、クリップがあればそれを使うことにして、サンプルはアップしません。

ニック・デカロ Under the Jamaican Moon


さすがにオープナーにするだけあって、Italian Graffitiというアルバムでもっともうまくいったトラックだと感じます。ベーシック、ストリングスともにアレンジはけっこうですし、プレイヤーもみなきちんとやっています。

しかし、パフォーマーが気にするのはヴォーカルでしょう。とくに、ニック・デカーロのような素人の場合、ほかのことはともかく、歌のどこかにひどく気に入らないところがあったりすれば、オープナーにしないのが人間の心理です。

レンディション以前に、Under the Jamaican Moonは、ヴォーカル・アレンジの段階で成功していると感じます。ヴァースはストレートに歌っているようで、なにかしたとしても、ビートルズのいうADR、フランジングで声を厚くしているだけでしょう(カレン・カーペンターは異常に強くフランジングをかけて分厚くしている。あれが地声だと思ったら大間違いのコンコンチキ。機械がつくったロボット声)。

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ニック・デカーロの歌は素人丸出し、あまりうまくありません。彼はそのことをよく承知していたはずで(まあ、シェリー・ファブレイよりはうまいが!)、その弱点をどう補うかをつねに考えていたにちがいありません。結局、それがこのアルバムの仕上がりのよさにつながったと思います。素顔はちょっと見られないけれど、化粧と着こなしのうまい人工美人LP。

ファースト・コーラス(But under the Jamaican moon/Everything's dim from view/Now you, now you can play the fool)に入ると、ダブル・トラックを使っていることがわかります。これがじつに微妙で、ひょっとしたら、ヴァースからずっとダブル・トラックだったのが、あまりにも薄い重ね方でそれと認識できず、コーラスではズレたところがあるために、コーラスだけダブル・トラックを使っていると感じるにすぎないのではないか、という疑問が湧くほどです。ほんとうに、どちらとも判断しかねます。

セカンド・コーラスもダブル・トラックに思えますが、ここではさらにハーモニーも加え、変化を持たせています。サード以降のコーラスも、セカンドをほぼ踏襲して、now youにアクセントをつけています。ずっとハーモニーをつけるわけではないし、メロディー・ラインとは関係のないウーアー・コーラスでもないこのヴォーカル・アレンジは、なかなか繊細で、この曲のグッド・フィーリンに大きく寄与しています。

◆ スティーヴン・ビショップ盤 ◆◆
オリジナルはスティーヴン・ビショップなのか、リア・カンケルなのか知りませんが、うちにあるのはビショップ・ヴァージョンのみなので、こちらをサンプルにします。

サンプル Stephen Bishop "Under the Jamaican Moon"

微妙なところなのですが、バランシング、ミックス・ダウン、マスタリングからいうと、わたしはこちらの音のほうを好ましく感じます。楽器編成面からいっても、スタンダップ・ベースとギター・コードが重なったサウンドが気持よく、南国の夏の夜のムードが横溢しています。

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ただ、スティーヴン・ビショップというシンガーの声とシンギング・スタイルが好きか、となると、これがどちらかというと不得手なタイプ、はっきりいって、アルバムを集めようなどとは絶対に思いません。

わたしは清く正しい健全ロックンロール小僧なので、退廃ムードとかアンニュイななんとかといったたぐいは受けつけず、こういう「おまえは無脊椎動物か」みたいな歌を聴いていると、尻がむずむずしてきます。サウンドは好ましい、歌は好ましくない、ピリオド。

リア・カンケルのヴァージョンはYouTubeにあります。わたしの好みからいうと、プレイ、アレンジ、サウンド、そろいもそろって大タワケの問題外、論外、歌は関心外、聴くべきところなし、よって貼り付けず、各自、自助努力されよ。なんでこんなものを聴かなきゃならんのだと大立腹です。

以上、どちらがいいとは決められず、いいとこどりができるなら、ニック・デカーロのヴォーカル・アレンジで、だれか声のいいシンガーが歌い、バックトラックはスティーヴン・ビショップのものを使う、というあたりでしょうか。まあ、どちらのヴァージョンもグッド・フィーリンがあるので、両方楽しめばいいだけのこと、そんなキメラを作る必要はありませんが。


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by songsf4s | 2010-12-12 23:58