ついこのあいだ、「またまたまたしても佐藤勝・武満徹『狂った果実』 補足の3 これで打ち止め総集篇」という記事で、『狂った果実』に関する話題は終わったはずでした。
しかし、オリジナル記事で、「気になる」と書きながら、解決がついていない問題がまだ残っていました。
これは、パーティーの夜、津川雅彦が岡田真澄の車を借りて北原三枝をドライヴに連れていくシーンですが、このショットはどこで撮影されたか、という問題が残っていたのです。どう考えたって、葉山、逗子、鎌倉のどこかに決まっているので、選択肢はそれほど多くありません。
今日、七里ヶ浜に用があって鎌倉に行ったのですが、その帰りに、ひらめいたのです。『狂った果実』に出てくるドライヴのショットは切通だ、このへんで海の見える切通なんて、ほんの数えるほどだ、ひとつはすぐ近くにある、そこへ行ってみよう、とね。
すぐ近くといったって、相対的なもので、歩くとちょっとしたものなのです。なんて愚痴をいってもしかたありませんな。七里で思いついた切通というのは、鎌倉をご存知の方ならすぐおわかりのように、稲村ヶ崎の切通です。
まずはご存知ない方のために、稲村ヶ崎が鎌倉のどのあたりにあるかを示す大域図をどうぞ。オレンジの線が悪名高き国道134号線です。
つぎに稲村ヶ崎周辺を拡大してみます。
道路より下(南)に突き出た部分が稲村ヶ崎で、公園になっています。昔はこの切通がなく、鎌倉攻めのときに新田義貞がここを越えられずに困ったが、運よく潮が引いて波打ち際を通り、鎌倉に攻め込んだといわれています。
まず、由比ヶ浜寄り(東側)から見た稲村の切通の写真から。
道路は切通の真ん中あたりが一番高く、峠のようになっていて、切通の両側とも坂下になっています。その峠のあたりから西を見て撮影した写真。これが『狂った果実』の撮影場所だと思います。
切通は日陰、向こうはピーカンでキラキラ輝いてよくおわかりにならないでしょうが、肉眼で見たときは、間違いない、ここが『狂った果実』のロケ地だと思いました。
いま考えれば、望遠側でも一枚撮っておけば、道路のカーヴのぐあいがわかったとおもうのですが、撮っているときは映画の構図に近いように、ということと、車の切れ目を待つことに気をとられて、ワイド側でばかり撮ってしまいました。チャンスがあったら撮り直したいと思います。
ニコンのディジタル一眼レフとおっそろしく長い玉の望遠をもって通りかかった方に、ここは夕暮れがきれいですよ、富士山が見えてね、と話しかけられました。そうなんです。富士山が見えないなあ、と思っていたのです。
その方は、わたしはサーフィンの写真ばかり撮っているのだけれど、いまあなたがここで撮っているのを見て、いい場所に目をつけたなあ、と思ってね、と褒めてくださったのですが、残念ながら、ここで撮ろうというのは中平康監督のアイディアだということをお話ししたら、『狂った果実』は若いころに見たとおっしゃっていました。
わたしのオリンパスよりずっと解像力の高いあの方のニコンで撮れば、カーヴの感じがもっとよくわかったでしょうね。ウェブで使う分には十分な写真が撮れるのですが、ときおりこういうことがおきるのはいたしかたないところです。こんどは曇りの日にいって、遠くもはっきりと撮影してこようと思います。