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カーティス・メイフィールド・ソングブック2 People Get Ready

今日もなにも考えず、リストアップしてあった曲のひとつ、People Get Ready拾い上げて検索し、結果ウィンドウにリストアップされた各種ヴァージョンをプレイヤーにドラッグしただけでスタート。

こちらは前回のYou Must Believe Meとちがって、それなりに有名な曲なので、クリップがそろっていて、自前のサンプルは最小限ですみそうです。

◆ 決定版なし ◆◆
まずは、オリジナル・ヒット・ヴァージョン、いうまでもありませんが、インプレッションズ盤から。

インプレッションズ


Spanish Harlemなどと一緒で、すごい、完璧なアレンジ、なんていうふうにはならず、どうやってみても、うーん、なんかちがうなあ、もうすこしどこかをどうにか整えられないだろうかと、落ち着きの悪さが気になる曲で、決定版というのはありません。だから、逆にいうと、いつもはあまり好かないインプレッションズも、この曲は、まあ、こんなものでいいか、やりようがないもんな、と感じます。

いきなり時代は飛んで、このヴァージョンでPeople Get Readyを知った、という人も多いであろう、ジェフ・ベック盤。

ジェフ・ベック&ロッド・ステュワート


といって貼りつけたはいいけれど、ロッド・ステュワートは苦手、このヴァージョンは好みません。ベックのギターもとくにどうということもないプレイで、ベックとロッド・ステュワートという組み合わせという話題性だけで売ろうとしたのでしょう。じっさい、当時、MTVでクリップを見たときも、へえ、ベックがねえ、と思いました。まあ、ロッド・ステュワート嫌いだからそう思ったのかもしれません。「ほかにいくらでもシンガーなんかいるのに、よりによってロッド・ステュワートなんかとやるこたねーだろーに」です。

◆ 影の男 ◆◆
われわれの世代の多くは、ヴァニラ・ファッジのヴァージョンでPeople Get Readyを知ったのではないでしょうか。バンド小僧のあいだでは大ヒットとなった、彼らのデビュー盤に収録されていました。

ヴァニラ・ファッジ


高校のときにはもうそれほど好きではなくなっていたのですが、はじめてヴァニラを聴いた中学生のときは、ほんとうにビックリしました。あのサイケデリックど真ん中の時代には、しじゅうそういうものが出現したのですが、それでも、ヴァニラ・ファッジの出現はショッキングで、「ああ時代は変わる」と溜息が出ました。

その後、こういうスタイルもクリシェに堕していきますが、出現の時点では、それまでにないタイプのアレンジ、プレイでした。カーマイン・アピースのドラミングにも、ティム・ボガートのベースにも、その後興味を失ってしまいましたが、はじめて聴いたときは、なにしろ十五歳、すごく興奮しました。

なにが面白かったかというと、抽象的にいえば、パラダイムを壊されたことです。4小節のイントロがあり、ヴァースに移行するときに2分音符分か1小節のフィルインを入れる、ヴァースからコーラスに行くときも同様、コーラスからヴァースに戻るときにも、というようなドラミングのパラダイムがありました(いまでもあるといっていいだろう)。

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だから、はじめて聴いた曲でも、ここでフィルインが来るな、つぎはここだろう、という調子で予測できるのが、ロックンロール・ドラミングというものでした。バックビートだけの「空の小節」と、フィルインを入れるに適した場面というのが、きれいに分別されていたのです(むろん、意想外のところでフィルインを入れるといった例外はあった。いまは一般論をいっているにすぎない)。

ヴァニラ・ファッジの曲でも、そういう概念が完全に破壊されたわけではありません。しかし、たとえば、People Get Readyのイントロのドラミングをとっても、どう表現したものかと思います。伝統的な2&4(=トゥー・エンド・フォー、すなわち2拍目と4拍目のバックビートないしはダウンビートないしはアフタービート)ではないのは、だれにでもわかります。しかし、フィルインでもありません。ダウンビートのヴァリエーション(「2」を8分2打に分解するWalk Don't Runのパターンもバックビートの一種である)とはいえない、「パターンにおさまらない空の小節」といったところでしょうか。

フィルインも変なものがあります。Ticket to Rideで何回か使った、スネアの4分3連を小節の前半だけで打ち切り、後半はハイハットを叩く、つまり、フィルインの尻をシンバルで軽くしてしまうなどというのは、あの時代のロックンロールにあっては「異常」でした。

ヴァニラ・ファッジ Ticket to Ride


もちろん、この直後にジョン・ボーナムを聴いて、こっちにも異常な奴がいる、しかも、アピースよりずっとハイテクニックだ、と思うわけですが、とにかく、1968年の時点では、カーマイン・アピースのプレイは革命的に聞こえました。

全体のアレンジにしても、それまでの概念から大きく逸脱していて、その意味でもヴァニラ・ファッジはパラダイム破壊者でした。People Get Readyも、イントロだけで約2分半あります。たいていのヒット曲は2分半あればエンディングまでいけるわけで、当時としては、これまた異常な手法でした。長い曲というのはありましたが、そういうのは中間に長いインプロヴがあるというパターンで、ジャズの古くさい手法を引きずったクリシェにすぎませんでした。ヴァニラのように、曲によって構成をドラスティックに変化させるバンドなど、それまでになかったといっていいでしょう。むろん、ビートルズがRevoleverとPeppersをリリースしなければ、そういう変化の土台は形成されなかったわけですが。

そういうヴァニラの手法のショウケースとして選ばれた曲は、みな素材にすぎないので、オリジナルと比較してみてもあまり意味はないのですが、それにしても、あとからインプレッションズのPeople Get Readyを聴いたときは、気持がけつまずきました。

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高校に入ってヴァニラに関心を失ったのは、直接的には、Near the BeginningとRock'n'Rollというアルバムがおそろしく退屈だったからです。あと知恵でいうと、なぜ退屈と感じたかといえば、ただラウド&ヘヴィーなだけで、デビュー盤や3枚目にあったインテリジェンスが雲散霧消していたからですが、その原因は、ずっと後年になってやっと理解できました。

つまり、ヴァニラ・ファッジという学生バンドには、あのデビュー盤を構成するだけのインテリジェンスはもともとなかったのです。ああいうサウンドを構想したのは、シャドウ・モートンだったのでしょう。だから、ライヴにはインテリジェンスのかけらもなかったのです。むろん、モートンとは関係のない、カクタスも、ベック・ボガート&アピースも、近年の再結成ヴァニラも、みな幼稚で、聴いていられません。いや、つまり、逆にいえば、みな聴くだけは聴いたということですが!

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ジョージ・“シャドウ”・モートンの適当な写真は見つからなかった。これはジャニス・イアンのサイトで見つけたもので、キャプションがなかったが、ジャニスとたぶんモートン。ジャニス・イアンのファンというわけでもなく、SFもジェイムズ・ティプトリーが死んだころに関心を失ってしまったが、ジャニスはSFを書いているのだそうな。ゲイだということなので(となるとAt Seventeenの歌詞の解釈も変わるのか?)、ティプトリーの短編のような、レスボス島が宇宙サイズに拡張されたような、男には怖い話を書いていたりして。

◆ ペット・クラークとアル・グリーン ◆◆
と書いたところで時間がなくなったので、ここまでで一回アップし、残りはパラグラフ単位であげていくことにします。

YouTubeには、チェンンバーズ・ブラザーズをはじめ、まだいくつもカヴァーがあるのですが、そのへんはわが家にはないので、ご興味のある向きは検索なさってみてください。

YouTubeにはないもので、ちょっと面白いのはペトゥラ・クラークのヴァージョン。

サンプル Petula Clark "People Get Ready"

全体のムードはジェフ・ベック盤に近いのですが(ベック=ステュワート盤はペット盤を参照したということか?)、あれほどテンポを落とさず、妙な重みを出そうとしなかったことは好ましく感じます。ペットらしい後口のよいヴァージョンです。メンフィス録音なのでしょうが、手元にあるのはオリジナル盤ではないので、メンバーなどはわかりません。シタール・ギターも魅力的。

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なんだか眠ってしまいそうなので、残りは簡単に。アル・グリーンのヴァージョンも、聴きどころがあります。

サンプル Al Green "People Get Ready"

相方の女性シンガー(ローラ・リー。Hot Waxのアンソロジーでちょっともっているだけ)はあまり好みではありませんが、アル・グリーンの声は、全盛期を過ぎてもやはり魅力を失っていません。ドラムが妙ちきりんなのも楽しめます。

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うわあ、ほんとうに船を漕ぎそうになったので、写真の貼り付けは明日に持ち越しとして、これにて就寝。


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by songsf4s | 2010-12-02 23:49