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アル・クーパーのポップ・カヴァーとオリジナル ブラッド・スウェット&ティアーズ篇3

レイ・チャールズの人生を描いた映画『レイ』の前半だけ、早送りガンガンで再見しました。初見のときは音楽の出来と録音ばかりを気にしながら見たので、あとのことは忘れてしまいましたが、I've Got a Womanにからまって、変なシーンがあることを今回の再見で改めて認識しました。

トレイラー


I've Got a Woman(映画『レイ』より)


小さなクラブでレイがI've Got a Womanを歌っていると、客のなかの男が、神を冒瀆する歌だと騒ぎはじめるのです。そういう時代があったのでしょう。わたしはI've Gort a Womanを聴いても、ゴスペルのことなどチラとも考えなかったので、呆れてしまいました。

宗教的抑圧というのはじつにやっかいで、われわれの心性に深く根ざすものだから、どうがんばっても駆除しきれないのかもしれません。いっぽうで、抑圧はしばしば創造の原動力になるのもたしかです。でも、苦しい人生を生きてなにかを生むのと、楽な人生を無為に生きるのと、どっちがいいかといったら、南の島で寝転がってウクレレでも弾いて、眠るように生き、眠るように死ぬ人生のほうがはるかに望ましいですな。

◆ よりによって…… ◆◆
さて、BS&Tのカヴァー曲、Morning GloryWithout Herというこれまでの2曲は、オリジナルも子どものときに手に入れました。比較的入手しやすかったということです。

今日はA面のラスト、ランディー・ニューマン作のJust One Smileです。ランディー・ニューマンの名前は知っていましたが、この曲はいったいどこから出てきたのか、当時は知りませんでした。いまならウェブでたちどころにわかるでしょうが(いや、オリジナルに関しては追求がむずかしいことがしばしばあるが)、昔は大変でしたなあ、おのおのがた。ライナーだって、オリジナルがどうのなんて書かないのはごく当たり前だったほどで、知っているか知らないかのどちらかしかなく、調べる手段なんかろくになかったのでしょう。

それではJust One Smile、まずはBS&Tのカヴァーから。

サンプル Blood Sweat & Tears "Just One Smile"

リズム・トラックのアレンジも、ホーンのアレンジも、どちらもかなりの出来です。それはオリジナルと聴きくらべるとさらに明瞭になります。オリジナルは、アル・クーパーが、紙面から苦笑が漂ってきそうな調子で、「よりによって」と表現したジーン・ピトニーです。

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ジーン・ピトニー(左)とヴィニー・ベル。

なにが「よりによって」なのか? アル・クーパー自伝が書かれた70年代後半、ジーン・ピトニーはダサさもダサし、とんでもないout of dateだったということです。「CSI」のあるエピソードで、被害者の車からニール・ダイアモンドのCDが出てきて、若い捜査官が「ニール・ダイアモンドなんか聴いているから死ぬんだ」と馬鹿にしますが、そういう感覚に似ています。

いえ、子どものころはさておき、いまのわたしはニール・ダイアモンドもOKです。ハル・ブレインの派手なドラミングが聴けますから。スー、スーレイモン、スレ、スレ、スーレイモンなんて、一緒に歌っちゃったりします。人間、どこまで堕落できるか、底が知れませんな。

さて、サンプルにするほどのものではないので、ジーン・ピトニーのオリジナルJust One Smileは、つべクリップで片づけます。

ジーン・ピトニー Just One Smile


これだけ時間がたつと、どっちが古いの、新しいの、といっても五十歩百歩、どっちも古いだけにすぎないから、ほとんど意味を成さないし、古くさいもののほうが新鮮に感じられることさえありますが、当時の感覚としては、ジーン・ピトニーのJust One Smileは、おいおい、いまは1967年だぞ、1957年じゃねーぞ、てなあたりでしょう。アレンジ、サウンド、ヴォーカル・レンディション、すべて好みではありません。

でも、楽曲の出来だけはまずまずで、惜しいと思います。アル・クーパーもそう感じたのではないでしょうか。結果から逆算すると、そのように想像できます。BS&TのJust One Smileは、サウンドとしてはオリジナルと完全に手を切ったところで成立しているからです。

いま、アップする直前に、べつのキーワードで検索したら、あらら、というヴァージョンが転がりでてしまいました。

トークンズ(トーケンズ) Just One Smile


うへえ、マヌケなアレンジ。いや、そんなことよりこれは1965年の録音らしいということです。だとしたら、こちらがオリジナルということになります。アル・クーパーはジーン・ピトニーのことしかいっていないので、トークンズ盤の存在は知らなかったのでしょう。と、アル・クーパーに責任転嫁して、オリジナル盤を誤認したミスをうやむやにして通過。

◆ 駄番犬むなしく吠える夜更けかな ◆◆
BS&Tの後続のヴァージョンとしては、ダスティー・スプリングフィールドのものがあります。クリップがあればそれですませるところですが、見あたらないので、自前のサンプルをアップしました。

サンプル Dusty Springfield "Just One Smile"

べつに悪くはないのですが、子どものころからダスティー・スプリングフィールドがあまり得意ではないので、とくにいいとも思いません。あのソフトクリームの三色大盛りみたいな髪型がねえ、って音楽とは関係ないのですが、子どものときに怖いと思ったものはいまでも怖いのです。

このトラックは、メー盤、メー盤とまたメー盤犬が騒々しく吠えているDusty in Memphisに収録されていますが、どこにメー盤がいるのやら、また駄犬が遠吠えしているだけか、です。だいたい、名盤遠吠えの出所はぶくぶく太った駄犬の親玉Rolling Stoneでしょうに。俗物政治雑誌風情がなにをしゃらくさい。

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ただし、ドラムのタイム、プレイ、サウンドはけっこうです。一瞬、メンフィスなんて建前だろ、マッスルショールズで録ったんじゃねーの、ロジャー・ホーキンズみたいじゃん、と思ったほどで、こういうのにはおおいに惹かれます。

ストゥールに坐ったのはジーン・クリスマン、ハービー・マンのMemphis Undergroundに耐えたドラマーです。まあ、だれだってときにはああいう曲をやらなければならないわけで、アル・ジャクソンもサム&デイヴのHold on (I'm Coming)に耐えました。

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左から、レジー・ヤング(こんな人だったのか!)、トミー・コグビル、ジーン・クリスマン、バディー・エモンズ(いまパーソネルを見て、Memphis Undergroundではオルガンをプレイしたことに気づいた)、オスカー・トニー・ジュニア、ドン・シュレーダー、チップス・モーマン。メンフィスのアメリカン・サウンド・スタジオでの一コマだろう。

それから、予算がそこそこあったのか、水準以上のオーケストレーションをしていて、その点も好感がもてます。アレンジャーはいっぱいクレジットされていて、リズム・セクション、管、弦の区分けもわかりません。

◆ エンシェント・ガールへの先祖返り ◆◆
ほかにシーナ・イーストンのヴァージョンがありましたが、しっとりと歌っちゃっていて気色悪いので、クリップは貼りつけません。気になる方はご自分で検索されよ。Modern Girlみたいにパリッと揚げてくれるとよかったのですがねえ。

懐かしくなって、Modern Girlを聴いてしまいました。



この時期はまだシンセの音がひどいことになっていないし(やっぱりヤマハがいかんと思う)、アルペジオの使い方もうまくて、楽しめます。

日々、年をとったなあ、と思いながら生きているのですが、スロウ・バラッド、とくに女性シンガーのものは苦手、というのは子どものころからまったく変化しません。歌はいじらず、こねらず、まわさず、すっと歌うのが最上。


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ジーン・ピトニー
Anthology
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by songsf4s | 2010-11-28 23:54