Live Adventuresの1で、左肩にロゴを入れたCDがあることを書きましたが、あとからまたカヴァーを見ていて、この絵を受け取ったアート・ディレクターは困っただろうな、と思いました(コロンビアの美術部のボスはボブ・ケイトーというちょっと知られた人だったが、このときはすでに代替わりをしていた)。
原画が最終的なデザインにほぼ近い形なら、タイトルとアーティスト名を置く場所がないのは明らかです。余裕があるならタイトルを置いたはずなので、たぶん、おおむねあの形だったのだろうと想像します。
だとしたら、できることは二つ。絵を縮小またはトリミングして周囲に余白をつくり、そこにネームを置く、または、最終的にそうなったように、タイトルやアーティスト名はファクトリー・シールにステッカーを貼って補うことにし、フロント・カヴァーにはネームを置かない、です。
ノーマン・ロックウェルの生きたのは、なかばグラフィック・デザインの世界といってよく、純粋なファイン・アートの画家とはいえません。ビジネスをよく知っていたはずなのに、どうしてあのような絵にしたのか、考えてみると不思議なことです。どこのアート・ディレクターも、ロックウェルに依頼するときは、ディレクションなどせず、おまかせだったのでしょうか。
ここまで書いて、もうひとつの可能性に思いあたりました。原画はもっと周囲も描かれていたのに、アート・ディレクターの判断であのようにトリミングした、です。だとしたら、すごいファインプレイ。
いずれにしても、画家だけでは製品はできあがらず、素材をどのように生かすかを考える人の力はやはり大きいことを思いました。
◆ チャイルド・スター ◆◆
なんだか、あとでまた補足が飛び出しそうな気がしないでもありませんが、「アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル」シリーズは今回で完了です。
グランド・フィナーレというより、フェイドアウトという感じのアルバムを最後にもってきました。Super Session、Live Adventures of Mike Bloomfield & Al Kooperにつぐ、3枚目のセッションもの、Kooper Sessionです。
今回のアル・クーパーの相方はシュギー・オーティス、ジョニーの息子です。ジョニー・オーティスの息子なんてやっていると、いろいろなものを目撃したのだろうなあ、と思います。若き日のビリー・ストレンジ御大が、まだぺえぺえでリズム・ギターをプレイしているところなんかも、エル・モンテ・リージョン・スタジアムで見たのでしょう。
いや、仕事場に子どもを連れていかない父親だったのかもしれません。ジェイムズ・エルロイの『わが母なる暗黒』(My Dark Places)によると、リージョン・スタジアムの外では、乱闘なんか毎度のことだったようですから。
ジョニー・オーティスのキャリアなどに踏み込むとまた長い記事になるので、やめておきます。息子のシュギー・オーティスは、父親のようにドラマー、パーカッショニストにはならず、ギタリストになりました。このとき、十五歳だったか、早熟のプレイヤーだったことになりますが、スティーヴ・ウィンウッドも同じ年齢でデビューしているし、ラリー・コリンズはもっとずっと幼いころからプロとしてプレイしています。ギターを離れると、オルガンのビリー・プレストンもお子様タレントでした。
ビリー・プレストンとナット・コールの共演はすばらしいパフォーマンスですが、エンベッドできないので、ご興味があればYouTubeへ。
Nat King Cole with Billy Preston "Blueberry Hill"
さらに時代をさかのぼると、まだ神童がいました。
フランク・“シュガー・チャイル”・ロビンソン with カウント・ベイシー
うへえ。マイケル・ジャクソンとスティーヴィー・ワンダーとスティーヴ・ウィンウッドの3人分ぐらいの才能を合わせたような子どもですなあ。究極のお子様タレント。
◆ 倍かゼロか ◆◆
なんだかずっと枕を書いているようで、なかなか本題に入れませんでしたが、枕は長く、本題は短めに。
Kooper Sessionでカヴァーされた、R&B、ブルーズは3曲。まずインストゥルメンタルから。
サンプル Al Kooper & Shuggie Otis "Double or Nothng"
うーん。コメントを思いつかないまま、オリジナルのMG's盤へ。
サンプル Booker T. & the MG's "Double or Nothing"
オルガンのイントロ・リックを、アル・クーパーが二度ももたついているので、シンプルなフレーズのように見えて、じっさいにはイヤな指の動きなのかと思いましたが、ブッカーTはそういうことは感じさせず、スムーズにプレイしています。
MG'sとしては、とくにすぐれたトラックとは云えず、そこがカヴァーするには具合よく見えたのかもしれませんが、アル・クーパー=シュギー・オーティス盤がなにかを付け加えたようには思えません。
情け容赦ないことをいうようですが、製品というレベルで比較すると、やはりマイケル・ブルームフィールドのあとでは、シュギー・オーティスは弱すぎます。年齢を考え、これからに期待する、という立派な旦那タイプのお客は必要ですが、わたしはパトロンにはなれない人間なのです。
このアルバムは、当時は友だちから借りて聴き、結局、ずっと後年まで手元には置かなかったのは、つまりは、気に入らなかったということです。いま聴き直しても、やはりSuper Session、Live Adventuresにはおよぶべくもないのは明らかです。
◆ 川のそばで道に迷い…… ◆◆
つぎはブルーズ・シンガーによる曲ですが、それほどブルーズの臭みの強くない、ソウル・バラッド寄りのものです。いや、バラッドだとしたら、ヴァースがなくてコーラスだけみたいな曲ですが。
アル・クーパー=シュギー・オーティス Looking for a Home
オリジナルはリトル・バスター、と知っているようなことをいって、じつはこの曲しか知りません。
リトル・バスター Looking for a Home
寄る辺なさが惻々と迫る哀しいレンディションで、年をとるとこういう曲に親しみを感じるようになるのだな、と妙に納得しました。十代だったら気に入らなかったでしょう。
◆ どこでもない場所から1000マイル ◆◆
最後もまたブルーズ、One Room Country Shackです。アル・クーパー=シュギー・オーティス盤は、呆れ返ったアレンジで、わたしは大嫌いです。サンプルは略そうかと思ったのですが、そういうのにかぎってアクセスが多かったりするので(この席亭にしてこのお客あり! 素直じゃない)、いちおうアップしておきます。
サンプル Al Kooper & Shuggie Otis "One Room Country Shack"
わが家にある先行ヴァージョンはバディー・ガイのものです。
バディー・ガイ One Room Country Shack
こちらのほうがはるかに楽しめます。ブルーズはよくわからないので控えめにいっておきますが、ひょっとしたら、すばらしいというべきかも。オリジナルはだれか知りませんが、とにかく、作者であるマーシー・ディー・ウォールトンのクリップを貼りつけておきます。
昔はブルーズを聴かなかったのに、近ごろは妙に腹に堪えたりして、おかしなものだなと思います。この曲もLooking for a Home同様、なんとも身の置きどころのない歌詞で、おおいにへこたれます。
Sittin' here, thousand miles from nowhere
というファースト・ラインは非常に印象的。2000 Light Years from Homeとどっちが遠いかってくらいですが、こちらは起点がnowhereだから、無限大の遠さ。全体のムードとしては、I've Got a Mind to Give Up Livingを思い起こさせます。
そこから連想が横に流れ、ふと、ブルック・ベントンのRainy Night in Georgiaの寄る辺なさを思いだしました。
これで長々と12回にわたってつづけた「アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル」シリーズも完了です。といってすぐに補足があるかもしれませんが、それはそのときのこと、としておきます。
アル・クーパー&シュギー・オーティス
Kooper Session
ブッカー・T&ザ・MG's
Hip Hug Her
リトル・バスター
Looking for a Home
バディー・ガイ
Complete Vanguard Recordings
アル・クーパー自伝増補改訂版
Backstage Passes & Backstabbing Bastards: Memoirs of a Rock 'n' Roll Survivor