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アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その10 Live Adventures of Mike Bloomfield & Al Kooper篇2

前回の記事の自己レスのようなものですが、一晩眠ったら、ノーマン・ロックウェルによるもう一枚のアルバム・カヴァーを思いだしました。So this is Christmas.

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フレッド・ウェアリング「'Twas the Night Before Christmas」装画:ノーマン・ロックウェル

Live Adventuresのカヴァーとは異なり、こちらはノーマン・ロックウェルを有名にした、やや様式化したスタイルです。

ロックウェルという人は、詰まるところ「古き良きアメリカのイメージを新たにつくりだした」のだと理解しています。画家はだれでも絵がうまいので、それだけでは売れません。ピカソがキュビズムを必要としたように、ロックウェルは独特の様式化によって、ひとつのペルソナをつくりだし、生きる道を見つけたのでしょう。その意味で、北斎的ではなく、広重的な絵描きです。

しかし、ものをつくる人間は一定の幅で揺れ動くもので、ロックウェルも、ときおり「古き良きアメリカの捏造者」のペルソナを脱ぐことがあるように思います。それがLive Adventuresのカヴァーの、非ロックウェル的簡素さ(いつものような「演出」がない。ロックウェルは本質的に「状況を描く画家」であり、物語作家的画家なのだが、ここでは物語も環境も捨て、顔しか描いていない)であり、ビジネスを離れた彼の地がでたのだと思います。

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ノーマン・ロックウェル画「Barber」 クリスマス・アルバムを探す過程で遭遇した。これはおおいに好み。小さくてわからないだろうが、向こうの部屋ではヴァイオリンやチェロをプレイしている。クリックすると拡大されるのでご自分の目でどうぞ。バーバー・ショップ・カルテットという言葉があるが、あれは素人が4パートのハーモニーを歌うことをいうはずで、楽器をプレイすることはそう呼ばないのではないか? デイモン・ラニアンの短編にバーバー・ショップ・カルテットというか、「バー・カウンター・カルテット」(いまつくったインチキ語)の話がある。ラニアンらしい奇妙なストーリーだったが、タイトルを忘れてしまった。

目に映ったものを解釈し、物語として再構成するといういつもの手続きを捨て、見たものをそのまま描いた美しさが、画家自身によって「Blues Singers」と題されたLive Adventuresの絵にはあります(ただし、アル・クーパーは、実物よりすこし膨らませてくれと頼んだそうな。あのころは痩せすぎていたからだろう)。

◆ 3X7=21 ◆◆
Live AdventuresのR&Bカヴァーはどういうわけかディスク1のB面に集中していて、ここまではトラック順にやっていますし、今日も前回のつぎのトラックからいきます。

サンプル Michael Bloomfield & Al Kooper "That's Alright Mama"

いまはそれほどでもありませんが、これを買った中学3年のときには、イントロのドラム・リックが大好きでした。譜面にすればどうということはないのですが、スネアからタムタム、フロアタムへと流す4分3連をクレッシェンドにしている、つまり、弱く入ってあとのほうにいくほど強くしているのが非常に効果的です。ドラムはタイムの楽器でもありますが、抑揚の楽器でもあるのです。

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ファースト・コーラスが終わって、セカンド・ヴァースへという移行部で、アル・クーパーがミスっていますが、そこはまあライヴということで。

このトラックは結局、だれのプレイがどうこうというより、一体になって突進するところが最大の魅力でしょう。ライヴでは、客を熱くするこういうアップテンポの派手な曲が必要です。Fillmore East: The Lost Concert TapesにもThat's Alright Mamaは収録されていますが、ドラムが下手だと、こういう曲はただバタバタ騒々しいだけで、音楽になりません。

You know 3 times 7, that makes 21

というラインの意味がわからず、ちょっと調べました。聖書からの引用だとすると、21というのは完全性の象徴なのだそうです(いや、21は「完全数」ではないので誤解なきよう)。3と7という素数をかけることにどれほど神秘的な意味があるのやら。もうひとつ、成人のシンボリズムというのも、この歌にあてはめられるかもしれません。いや、ぜんぜん別のことを云っている可能性のほうが高いでしょうね。

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◆ アーサー・クルーダップ ◆◆
That's Alright Mamaのオリジナルはアーサー・ビッグボーイ・クルーダップです。Crudupを「クラダップ」と読んでいる盤があります。見た目からしてクルーダップ以外に読みようがないのですが、それでもまちがえる人がいるのだから、イギリス人男性による発音の例をあげておきます(中段左側の青い小さな三角をクリックする)。まったく、ウェブは楽です。こういうことを調べるのも面倒だし、わかっていることでも、他人を納得させるのは厄介だったりしたのですが、いまや一発です。

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ブルーズマンにはよくあることですが、ビッグボーイ・クルーダップのThat's Alright Mamaは何種類もあるようで、わが家でも2ヴァージョン出てきてしまいました。ステレオは新しすぎるに決まっているので、モノのほうをアップしました。YouTubeで、SP盤をかけているクリップを見ましたが、同じ音だったので、これがオリジナルだと思います。収録している盤もブルーズ研究みたいな、「学術盤」(なんてものはないが)かよ、というセットです。

先にお断りしておきますが、たんなるブルーズにすぎないので、聴いてしまったあとで文句を云わないでください。

サンプル Arthur "Big Boy" Crudup "That's Alright Mama"

この曲を有名にしたのはエルヴィス・プレスリーです。ただし、サン・セッションなので、ドラムレスだから、わたしはそれほど好きではありません。エルヴィスは60年代はじめ、陸軍除隊直後、バディー・ハーマンがストゥールに坐ったトラックがいい、という外道なので、わたしの云うことは気にしないでください。メイクミー、ノーウィット、なんて盛り上がりますぜ。



ビートルズも、ポールのリードで、BBCでやっていますが、それは省きます。うちにあるものでは、マーティー・ロビンズのものも悪くありませんが、ぜひに、というほどでもないので、これもやめておきます。つまるところ、こういう「曲」は楽曲としてどうこうということはなく、どうやるかにほぼすべてがかかっているといえます。ブルームフィールド=クーパー盤だけあれば、わたしには十分。

◆ R&Bインスト ◆◆
思いこみというのは強固なものです。いや、強固だからこそ「思いこみ」と呼ぶのでしょうけれど。当家のこのシリーズに反応して、ツイッターでGreen Onionsをあげた方がいらして、ちょっと虚を衝かれたように感じ、ワンテンポ遅れて、そういやそうだな、と思いました。

わたしはギター・インストが好きなので、ものごとをギター・インスト的に歪めて見る傾向があります。Green Onionsをどこかに分類するとしたら、オルガン・インストかギター・インストに丸を付けると思います。

でも、考えてみると、Soul ShotsというライノのR&B編集盤LPシリーズ(11枚)のインスト篇というのがあって、マーキーズとかバーケイズ(Soul Finger)などと一緒にMG'sもおさまっていました。

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曲はGreen Onionsではなく、Time Is TightとGroovin'でしたが、それはここではどうでもいいことで、問題はR&Bインストゥルメンタルというのは厳として存在するということです。

バーケイズ Soul Finger


バーケイズというバンドが存在したのは事実として、それとは関係なく、この盤を録音したのはMG'sでしょう。これがアル・ジャクソンじゃなかったら、いまここで切腹してみせます。ぜったいに大丈夫だから、強いことをいっちゃいますが、小林正樹の『切腹』みたいに竹光だってかまいませんぜ。

切腹するとまではいいませんが、ギターだってスティーヴ・クロッパー間違いなしです。ベースはダック・ダン、オルガンはブッカーT、って、いやだから、MG'sだっていうのです。MG'sがプレイしたものに、バーケイズの名前をつけただけでしょう。オーティス・レディングのツアー・バンドに箔をつけてやろうという親心か、はたまた、MG'sのだれかが、こんな馬鹿っぽい曲をやったことを知られるのは恥ずかしいといったか、事情は知りませんが、とにかくこれはMG's、ピリオド。

◆ 長ネギのように見えて長ネギにあらず ◆◆
寄り道終わり。元の話。ということで、Green OnionsもR&Bカヴァーに繰り入れることにしました。シンプルな曲で、ジャムにはもってこいですが、それだけにプレイヤーの力がストレートにあらわれます。

サンプル Michael Bloomfield & Al Kooper "Green Onions"

アル・クーパーの基本的な姿勢が「マイケルを前面に押し立てる」なので、やっぱりブルームフィールドがガンガン行きます。高音部で強いピッキングをしているときに、なにやら変なノイズが聞こえます。またケーブルかコネクターでしょうかね。ひょっとしたら、あまり強くピッキングするものだから(弦をしばいている!)、手がブリッジかどこかにぶつかっているのかもしれません。

どうであれ、じつにホットなプレイで、一見不似合いな曲でも、やっぱりマイケル・ブルームフィールドはいつものようにマイケル・ブルームフィールドです。

Green Onionsのオリジナルは、いうまでもなくブッカーT&ザ・MG'sです。



MG'sはいつでも盛り上がります。この日のアル・ジャクソンはむやみにハイ・ピッチのチューニングで、これはこれで「へえ」です。しかし、なんというひどい終わり方。ずっと「巻き」がでていたのでしょうか。

◆ クラウス・オーゲルマン他のカヴァー ◆◆
やや珍かもしれませんが、アントニオ・カルロス・ジョビンやレスリー・ゴアの譜面を書いたアレンジャーのクラウス・オーゲルマンのヴァージョンをサンプルにしてみました。

サンプル Claus Ogerman "Green Onions"

イントロがペギー・リーのFeverみたいで笑いました。オーケストラでやるにしても、オルガンとギターをはずさなかったのは正解だと思います。

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いわれないとわからないライトニン・ホプキンズのヴァージョンなんていうのもありました。なんだか、お座敷芸のような……。



この写真ではギブソンJ-160Eをプレイしています。なんだ、仲間だったのか。

YouTubeにはないものを、と考えると、わが家にはマシュー・フィッシャーのものがあります。

サンプル Mathew Fisher "Green Onions"

盤を手放したのでわからなくなってしまいましたが、British Beat All-Starsとかなんとかいう名前で、お父さんたちが小遣い稼ぎにツアーをやっているようで、そのバンドによるものです。ギターはだれだったか、知っているバンドのプレイヤーでした(意味のないセンテンス!)。プリティー・シングスだったか……。

マシュー・フィッシャーはすばらしいドロウバー・セッティング(言い換えればトーン、サウンド)で売ったプレイヤーですが、このGreen Onionsも、やはり、マシューらしく独特の音色でやっています。ハモンドはドロウバー・セッティングが死命を制します。

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あとはブルース・ジョンストンのものもありますが、これはフェンダー・ピアノでやっているところが変わっていますが、それだけのことで、とくに面白くもないし、ファイン・プレイもありません。

それから、アル・クーパーは近年のアルバム、Black CoffeeにもライヴのGreen Onionsを収録しています。

無理だろうと思っていましたが、やっぱり一曲こぼれてしまったので、もう一回、Live Adventuresをつづけることにします。


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アル・クーパー&マイケル・ブルームフィールド
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Backstage Passes & Backstabbing Bastards: Memoirs of a Rock 'n' Roll Survivor
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by songsf4s | 2010-11-23 23:59