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アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その9 Live Adventures of Mike Bloomfield & Al Kooper篇1

アル・クーパーの(早すぎた)自伝『Backstage Passes』が引越荷物から出てきたので、拾い読みしました。

CBSのスタッフ・プロデューサーとしての初仕事、Supper Sessionがゴールドになり、それはめでたかったけれど、ティム・ローズのシングルがフロップしたり(あとで大変なコレクターズ・アイテムになったという。稀少になってしまうほど売れなかった)、あれこれあって、つぎの企画をどうするかで、ヒット作に舞い戻ったといっています。

Super Sessionのエディー・ホーは、マイケル・ブルームフィールドの縁でプレイしたのですが、スキップ・プロコップはアル・クーパーの知り合いで、彼が交渉したそうです。ともにPP&Mのトラックでプレイしたどうしですから、似たような場所を廻遊していて、知り合ったのでしょう。

ピーター・ポール&マリー(with スキップ・プロコップ) I Dig Rock and Roll Music


タイムが安定していて、このプレイヤーなら安心して仕事を頼めます。

のちにジェリー・ガルシアのソロ・プロジェクトの相棒となるジョン・カーンは、サンフランシスコ湾を廻遊しているどうしということなのでしょう、ブルームフィールドの推薦で、クーパーは初対面だったそうです。

Live Adventuresはブルーズの多いアルバムで、リハーサルはほとんどなしかと思いましたが、盤にするための企画だから、そこまで不用意ではなく、三日間のリハーサルをしたそうです。場所を提供したのはロック・スカリー、グレイトフル・デッドのマネージャーです。

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スキップ・プロコップのバンド、ポーパーズ

◆ Lord, I want you by my side ◆◆
ダブル・アルバム、Live Adventures of Mike Bloomfield and Al Kooperは、順番からいえば、Super Sessionのつぎのはずだったのですが、先送りにしました。カヴァーの数が多すぎたからです。

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Live Adventures of Mike Bloomfield and Al Kooperのフロント。ノーマン・ロックウェルがアルバム・カヴァーを描いたものはほかにあるのだろうか。近ごろは左肩に妙なロゴをおいたデザインの盤が出回っているらしいが、やはりオリジナルのほうが落ち着く。ロックウェルに肖像を描いてもらうというのはアル・クーパーのアイディア。「ノーミー」とは気が合ったと自伝でいっている。

もちろん、理由は単純、ワン・ショットのメンバーで2時間のステージをもたせるには、単純な構成の、できれば全員がすでになじんでいる曲をやるのが最善だからです。したがってブルーズが多くなります(マイケル・ブルームフィールドのギター・プレイのヴィークルとしての意味合いも強いが)。

Live Adventuresに収録されたすべてのR&Bおよびブルーズのカヴァーを取り上げていると、とんでもないことになるので、適当に端折りながらやります。最初のブルーズ、I Wonder Who(レイ・チャールズ作)は省き、そのつぎのMary Annへと進みます。

サンプル Michael Bloomfield & Al Kooper "Mary Ann"

残念ながら、マイケル・ブルームフィールドのヴォーカルはすばらしいとはいいかねますし、(さらに悪いことに)「うまくないけれど独特の味わいがある」という方向に逃げるのもちょっとむずかしいでしょう。まあ、It's Not Killing Meなんか、それなりに工夫して、思ったよりちゃんと歌っていましたが。

マイケル・ブルームフィールド Next Time You See Me

(最初はカントリーもやっていることと、曲の短さに戸惑ったが、ずっと後年になって、悪くないアルバムと考えるようになった。この曲がベスト。エレクトリック・フラッグがつづいていれば、こんな感じのところに落ち着いたかもしれない)

マイケル・ブルームフィールド Don't Think About It Baby

(これもすばらしい! しかし、こう渋くては、二十歳そこそこの子どもが戸惑ったのも無理はないといまにして思う)

しかし、マイケル・ブルームフィールドにすばらしいヴォーカルを期待する人はいないから、そのへんはたんなる付帯条項、ギターを聴けばいいだけです。アル・クーパーは、伝統的なギターとヴォーカルのやり取りにおいては、ブルームフィールドはすぐれているとかばっています。

わたしは、歌の伴奏としてギターがあるのではなく、逆に、すばらしいギター・プレイの「伴奏」として歌が必要なだけ、と考えればよいと思っています。じっさい、このMary Annなんかインストゥルメンタル・イントロが、小節数をカウントしたくなるほど長く、ヴォーカルとインストゥルメンタルの構成の比率がひっくり返っています。32小節のヴォーカルのかわりにギター・プレイがあり、8小節の間奏のかわりに歌があるのです。

アル・クーパーのBackstage Passesによると、例によってブルームフィールドの状態は最悪で、リハーサルからずっと不眠症(アル・パチーノの映画のおかげでみな不眠症を英語で「インソムニア」ということを覚えた!)がつづいていたそうですが、それでも独特の艶のあるトーンはちゃんとでています。とくに二度目のソロ、そのままエンディングにつながるパートの高音部のプレイがすばらしい。

オリジナルはこれまたレイ・チャールズ。

サンプル Ray Charles "Mary Ann"

この曲はあまりいじらずにやったことがおわかりでしょう。レイ・チャールズ盤にあるラテン的楽天性は引き継いでいませんが、スキップ・プロコップはサイドスティックとタムタムのコンビネーションで、レイ・チャールズ盤に類似した雰囲気をつくっています。

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ドラマーがスキップ・プロコップだったのは幸運でした。近年、この数カ月後にNYで録音された、Fillmore East: The Lost Concert Tapes 12/13/68という、Live Adventuresの続篇のようなものがリリースされましたが、ドラムのひどさたるや、言語に絶します。

アル・クーパーが、あれをリリースした理由はただひとつ、マイケルのギターだ、といっていたのは、つまり、それ以外の点では話にならない、だから当時はお蔵入りにしたという意味でしょう。

Live Adventuresのような、ちょいちょいとやったステージをダブル・アルバムにして売りまくるとはいい商売だなと思いましたが、Lost Tapesを聴くと、Live Adventuresがすぐれたアルバムだということが改めて実感されます。

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そして、その出来を左右しているのは、ひょっとしたらアル・クーパーやマイケル・ブルームフィールドではなく、スキップ・プロコップとジョン・カーンなのではないかと思いました。ミスはあるし、そのフィルインはちがうのではないかといったプレイ・デザイン上の不満はあるものの、ステージ・プレイヤーとしては、これだけ安定したグルーヴを提供できれば立派なものです。

◆ In a world filled with so much sorrow ◆◆
Mary Annのつぎの曲は、モータウンLAのボス、フランク・ウィルソンが、彼が見つけて契約したモータウンLA最初のアーティスト、ブレンダ・ハロウェイのために書いた曲です。Super SessionのMan's Temptation同様、マイケル・ブルームフィールドのギターである必要のないソウル・バラッド。

サンプル Michael Bloomfield & Al Kooper "Together 'til the End of Time"

なかなかキュートな曲で、モノトーンのブルーズ系統の曲が多いLive Adventuresに色彩をあたえています。アル・クーパーはピアノとオルガンを弾いていますが、ライヴはオルガンのみで、ピアノはオーヴァーダブでしょう。

二種類の先行ヴァージョンを聴くと、アル・クーパーの意図がよくわかります。まずはオリジナルのブレンダ・ハロウェイ。



つぎはスペンサー・デイヴィス・グループ時代のスティーヴ・ウィンウッドのヴァージョン、といって自前サンプルを置くつもりだったのですが、スタジオ・ライヴがあったので、まずそちらをいき、そのあとに自前サンプルをおきます。



これで話の流れが狂ってしまいました。ピート・ヨークがライヴでもきちんと叩いていて、当時のバンドのドラマーとしてはかなりいいほうだったことを確認できました。やっぱり、世代がひとつ上だけのことはある、まだプロフェッショナルが求められる時期にスタートした人だなあと思いました。芸能人である以前に、ミュージシャンなのです。

おかしなことに、スタジオ録音はもっと速いテンポでやっています。テンポの変化は、ふつうは逆なのですが。

サンプル The Spencer Davis Group feat. Steve Winwood "Together 'til the End of Time"

わたしが考えた筋道はこうです。アル・クーパーはスティーヴ・ウィンウッドのファンなので(たくさんカヴァーしている)、オルガンをフィーチャーしたSDG盤Together 'til the End of Timeが気に入ったのでしょう。でも、全体のムードとしては軽すぎるので、テンポはブレンダ・ハロウェイ盤を参考にした、とまあ、そう考えたのですが、スティーヴ・ウィンウッド自身、ライヴではテンポを落としていたので、あら、とコケてしまいました。

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それにしても、Live Adventuresは機材の不調に祟られたアルバムで(どうした、ウォーリー・ハイダー、らしくないぞ!)、この曲のようにクワイアット・パートがあると、ケーブルの不良と思われるノイズが聞こえてしまいます。まあ、それがライヴというものですが、惜しいなあ、と思います。

できれば二回でLive Adventuresを完了したいと思っていますが、いずれにしても、今回はここまで、とにかくディスク1のB面の途中まで来ています!


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アル・クーパー&マイケル・ブルームフィールド
Live Adventures of Mike Bloomfield & Al Kooper
Live Adventures of Mike Bloomfield & Al Kooper


レイ・チャールズ Definitive Soul: Atlantic Years(Mary Ann収録)
Definitive Soul: Atlantic Years
Definitive Soul: Atlantic Years


レイ・チャールズ Pure Genius: Complete Atlantic Recordings 52-59(以前はもうすこしコンパクトなアトランティック時代のボックスがあったが、いまはこれしかない。当然、Mary AnnもI Wonder Whoも、このアル・クーパー特集の他の記事で取り上げたI've Got a Womanなども収録されている)
Pure Genius: Complete Atlantic Recordings 52-59
Pure Genius: Complete Atlantic Recordings 52-59



ブレンダ・ハロウェイ
Greatest Hits & Rare Classics
Greatest Hits & Rare Classics



ザ・スペンサー・デイヴィス・グループ・フィーチャーリング・スティーヴ・ウィンウッド
The Best of The Spencer Davis Group featuring Steve Winwood
Best of Spencer Davis


アル・クーパー自伝増補改訂版
Backstage Passes & Backstabbing Bastards: Memoirs of a Rock 'n' Roll Survivor
Backstage Passes & Backstabbing Bastards: Memoirs of a Rock 'n' Roll Survivor


by songsf4s | 2010-11-22 23:56