アル・クーパーは、レーナード・スキナードのプロデューサーを降りたことについて、ふだんはいい友人どうしだったが、レコーディングに入るととんでもない諍いになるので、友人でいたほうがマシだろうと考え、仕事の関係を解消したといっています。
レーナード・スキナードの大ファンというわけではなく、Sweet Home Alabamaだけで十分という人間なので、ポスト・アル・クーパーのレーナード・スキナードがどうなったかは知りませんが、いくつか聴いたものは、それほど興味深いものではありませんでした。どちらにしろ事故もあって、もう初期のバンドとは関係ないのでしょうが。
どうであれ、レーナード・スキナードの仕事が一区切りついたことで、アル・クーパーはレコーディング・アーティストとしての活動を再開し、Act Like Nothing's Wrongがリリースされます。
間髪を入れずに「秀作」と叫ぶことはできないのですが、それなりに好きなアルバムでした。This Diamond Ringのセルフ・カヴァーについては留保するところがありますが(人口に膾炙した古い自作を棚から下ろしてホコリを払うのは、たいていの場合、悪い兆候)、Missing Youはいま聴いてもいい曲だと思いますし、アップテンポでは(Please Not) One More Timeは好みでした。
◆ She Don't Ever Lose Her Groove ◆◆
Act Like Nothing's Wrongは3曲のR&Bカヴァーを収録しています。アップテンポのオープナーのあとを受ける「2曲目のバラッド」もR&Bカヴァー、She Don't Ever Lose Her Grooveです。
サンプル Al Kooper "She Don't Ever Lose Her Groove"
これはこのアルバムでいちばん好きなトラックで、アル・クーパーのR&Bカヴァー全体を見ても、とくに好ましい一曲です。
当時は南部には無縁だったので(いまも「自分の庭」ではない)、このトラックで聴くまで、リトル・ビーヴァーのことを知らなかったものだから、こりゃいいなあ、と思いました(盤がないので記憶で書くが、オブリガートはレジー・ヤング、ソロはリトル・ビーヴァーだったと思う。ちがう?)。好きなタイプのプレイヤーです。この曲の作者もリトル・ビーヴァー(ウィリー・ヘイル)で、ギターのプレイ・スタイルと直結したムードをもっています。
リトル・ビーヴァー Little Girl Blue
リトル・ビーヴァー I Love the Way You Love Me
リトル・ビーヴァー Groove On
ジョージ・マクレー(with リトル・ビーヴァー) Rock Your Baby
◆ 彼もやっぱりグルーヴを失わない ◆◆
作者リトル・ビーヴァーによるShe Don't Ever Lose Her Grooveは存在しないようで、オリジナルはグウェン・マクレーの(もちろんジェンダーを裏返した)He Don't Ever Lose His Grooveだと思われます。Pillow Talk(危ない歌詞だった)のシルヴィアのヴァージョンもあるようですが、そちらは聴いたことがありません。
サンプル Gwen McCrae "He Don't Ever Lose His Groove"
こちらのヴァージョンにも、作者リトル・ビーヴァーが参加しているのでしょうか。なんだかそういう雰囲気のギターです。
やはりオリジナルまでたどってみるものだと思います。サウンドとしては、圧倒的にアル・クーパー盤のほうがよくできています。グウェン・マクレー盤を聴いて、アル・クーパーがどういう工夫をしたのかがよくわかりました。マクレー盤もキュートで、悪くはありませんが、グルーヴはそこそこにすぎません。
リリースのときにはタイトルの意味が気になりました。ぜったいにグルーヴを失わないとはなんなのか? 全体を聴くと、keeps my fire burning, keeps my heart yearning for moreなんて、やや露骨なラインが出てくるわけで、こうなるとやはりgrooveも、そちら方向にシフトして解釈せざるをえません。いっそ、閨のあれこれを歌ったものと決めつけてしまったほうが、すっきりと理解できる歌詞です。
なにか適当な日本語を入れてみようかと思いましたが、気のせいか、なんだか下品に響いてしまいそうで……。○×をはずさない、なんていうのを思いついたのです。
関係ないけれど、シルヴィア(・ロビンソン)のPillow Talkも聴いてみますか? ジャケットからして危ないのですが。
「今夜は学校では教えないことを教えてあげるわ」って、おまえは古今亭志ん生か、です。
◆ ウィリアム・ベルとパーシー・スレッジ ◆◆
Act Like Nothing's Wrongにはほかに2曲、R&Bカヴァーが入っていて、どうしたものかと悩んでしまいます。すばらしければ、なにも考えずにサンプルにしますが、微妙な出来で、わたしは「ちょっとなあ」だけど、こういうのは好きという方もいらっしゃるだろうという感じです。
サンプル Al Kooper "I Forgot to Be Your Lover"
アル・クーパーにしてはめずらしく、ほとんどストレート・カヴァーだということが、オリジナルを聴くとわかります。
ウィリアム・ベル I Forgot to Be Your Lover
もう一曲のOut of Left Fieldは、アル・クーパー盤は略します。オリジナルはだれか知りませんが、わが家にあるのはパーシー・スレッジ盤です。
パーシー・スレッジ
カヴァー曲を選ぶにもいろいろな理由があるでしょう。歌詞で選ぶことだっておおいにありえます。プライヴェート・ライフに起きるあれこれ、とりわけ恋愛の結果として特定の曲がカヴァーされることがあるのは、前回の記事で軽くふれました。
この2曲の選択、とりわけOut of Left Fieldは理解できないのですが、ジャケットに登場している女性とからまって出てきた、なんて可能性はあるかもしれません。ヴァン・モリソンがTupelo Honeyのジャケットの女性(妻だったか)のことをアルバム何枚分か引きずったなんて例もありますし。
このあともアル・クーパーのソロ・キャリアはつづくのですが(今世紀に入っても新譜がある。Black CoffeeとWhite Chocolateの2枚。また、ベストとレアを組み合わせた編集盤はRare and Welldone。ホント、ダジャレが好きなんだから。つぎの盤はGreen Teaにしようか、なんて書いていた。わたしはPink Grapefruitがいいと思う)、当家としてはここまででその方向は終了させていただきます。あと2枚、あとまわしにしたセッションものを検討する予定です。
アル・クーパー Act Like Nothing's Wrong
Act Like Nothing's Wrong
グウェン・マクレー
Rockin Chair: Let's Straighten It Out
ウィリアム・ベル
Best of
パーシー・スレッジ
Platinum Collection