アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その5 New York City (You're a Woman)篇

前作のEasy Does Itもあれこれと留保のつくアルバムでしたが、4枚目のNew York City (You're a Woman)も、微妙な出来です。楽曲に飛び抜けたものがないのがマイナス点、いっぽうで、ひどいドラマーがいないうえに、キャロル・ケイとボブ・ウェストという大物がベースをプレイしているので、プレイの質は高いのです。

楽曲の出来が不満だというのは、後年の感じ方で、リリース当時はそこそこ好きでした。それが、どういうわけか、時間がたつにつれて、どの曲も感興が薄れていったのです。John the Baptist、Going Quietly Madなどは、高校生のときは好きだったのに、大人になってからは聴かなくなってしまいました。

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◆ Oo Wee Baby I Love You ◆◆
おかしなものですが、結局、このアルバムでいまでも好きなのは、アル・クーパーの書いたものではなく、R&BカヴァーのOo Wee Baby I Love Youです。このトラックだけは、あれこれゴタクも留保もなしで、イントロ(キハーダの歯が鳴っている!)から乗れます。

サンプル Al Kooper "Medley Oo Wee Baby, I Love You/Love Is a Man's Best Friend"

正確には、Oo Wee Baby I Love Youに、アル・クーパーとアーウィン・レヴィンのLove Is a Man's Best Friendをつなげていますが、どこからどこまでがどちらの曲という境目は不明瞭で、歌詞で判断するしかないも同然です。

結局、こういう「曲」というのは、グルーヴが決め手になります。「メロディー」といえるようなもの、つまり、一発で記憶できるフレーズという意味ですが、そういうものがあるとしたら、come back baby i love youとoo baby i love youという、主としてバックグラウンド・シンガーが歌っている部分ぐらいでしょう。

メンバーは以下のようになっています。

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アル・クーパーはいまだに勘違いしているようで、最新のベスト・セレクションでも、以前と同じようにポール・ハンフリーの名前が変です。正しくはPaul Humphreyで、最後にSはありません。

ポール・ハンフリーはデトロイト出身で、モータウンなどでプレイしていましたが、60年代終わりにハリウッドに移住したとのことです。モータウンはめったにクレジットがないので、ポール・ハンフリーの名前を見たら、十中八九ハリウッド録音とみなして大丈夫です。

ベースのボブ・ウェストは、ジャクソン5のABCやI Want You Backといった初期のヒットでプレイしています(相方のドラマーはエド・グリーン)。もっといろいろやっていますが、ポップ系はそれほど多くないので、記憶しているトラックがないのです。オフィシャル・キャロル・ケイ・ウェブ・サイトのどこかにボブ・ウェストの写真があります。

ポール・ハンフリーについては、わたしは留保するところがあるのですが、アル・クーパーのアルバムでプレイしたドラマーとしては、アール・パーマー、エディー・ホー、バーナード・パーディーのつぎに位置すると思います。いいときはいいプレイヤーです。

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ポール・ハンフリー

アル・クーパーのオルガンやワウワウ・ギターも控えめながら効果的に使われていますが、やはりこの曲の正味はボブ・ウェストとポール・ハンフリーのグルーヴであり、そこにバックグラウンド・シンガーたちが風味を加えている、というところでしょう。すばらしいグルーヴです。

この年でこういう曲で盛り上がるのは年寄りの冷や水そのものですが、いくつになっても、すばらしいグルーヴを聴けば血がざわざわします。

◆ フレッド・ヒューズのオリジナル ◆◆
Oo Wee Baby I Love Youのオリジナルは、フレッド・ヒューズというシンガーのものです。といっても、ハワード・テイト同様、わたしはこの曲しかもっていません。こういうマイナーなものをカヴァーしたがるところにも、アル・クーパーのテイストがうかがわれます。

作者のリチャード・パーカーという人も知らないので、Vee-Jayレコードの2枚組編集盤のブックレットを読んでみました(Oo Wee Baby I Love You自体は、サブ・レーベルのワンドからリリースされた)。なんでも調べてみるものです、そうか、やっぱりな、でした。

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リチャード・パーカーはヴィー・ジェイ・レコード・ウェスト・コースト・オフィスのA&Rの責任者だったと書いてあります。そして、パーカーが見つけて契約したのがフレッド・ヒューズだというのです。

それで「わかった!」と加藤武の等々力警部のような大声をだしました。

あとで自前サンプルも提供しますが、とりあえずYouTubeから3本どうぞ。このつながりがひらめいたのです。

フレッド・ヒューズ Oo Wee Baby I Love You


ドビー・グレイ The "In" Crowd


レン・バリー 1-2-3


仮にオーディオ・セットに「Brightness」と「Tempo」というスライド・バーがついているとしましょう。フレッド・ヒューズのOo Wee Baby I Love Youをかけて、BrightnessバーをBright側へ、TempoをFast側へスライドさせると、ドビー・グレイのThe "In" Crowdになるでしょう。

そして、こちらは昔からよくいわれていることですが、さらにThe "In" Crowdを速く、そして明るくすると、レン・バリーの1-2-3になります。Got it?

くだらない喩えはさておき、A&RもシンガーもLA在住だということは大事です。この曲について、シカゴの音がどうのとか書いているものがチラッと検索で目に入りましたが、そういうのを無考えといいます。

ワーナーだからバーバンク・サウンドだなんて、くだらないことをいっている人たちがいました。ものを知らないにもほどがあります。ワーナーの映画はバーバンクで撮ることが多かったでしょうが、それと音楽が一緒になるはずがないでしょうに。常識で考えたって、そんなことはありえませんよ。

昔の映画スタジオの録音機材は前近代的なものだったそうです。スコアはやむをえませんが(映写設備のあるスタジオでなければ録音できない)、盤の録音をそんなところでやったら、悲惨なことになります。ハル・ブレインがエルヴィス映画のサントラを、映画スタジオで録音したときの悪戦苦闘を回想記に書いています。インプットが足りなくて、ドラムにマイクが一本しか割り当てられないというのだから、ロックンロールを録音できるはずがないのです。

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『北京の55日』を録音中のディミトリー・ティオムキン(レンズに背中を向けて指揮をしている人物)。スクリーンを見ながらコンダクトする様子がよくわかる。

ヴィー・ジェイの本社がどこにあったって、そんなことは関係ありません。ウェスト・コースト・オフィスが契約したシンガーは、LAで盤をつくる可能性のほうがずっと高いのです。あの時代のハリウッドは最新の設備、巨大な産業基盤と就業人口をもつ世界一の音楽都市、そこから地方都市の設備の悪いスタジオに旅費をかけて録音に行くなんて、わたしがヴィー・ジェイ・レコードの会計主任だったら、ぜったいに出張旅費を認めません。

モータウンLAが契約したブレンダ・ハロウェイが、つねにLAで録音し、「デトロイトってどこにあるの?」といっていた(かどうかは知らないが!)ことを想起されよ。ヴィー・ジェイがA&RをLAに駐在させておいたのなら、それは盤をつくるために決まっています。だから、フレッド・ヒューズのOo Wee Baby I Love Youはハリウッド録音だと考えます。

◆ エコー・チェンバーは語る ◆◆
時間的順序を確認したいのですが、引越以来チャート・ブックを出していないのではっきりしません。The "In" Crowdだけは65年1月のチャートインとわかりました。

Oo Wee Baby I Love Youも、1-2-3もともに65年のヒット(レン・バリーは小学校のとき、買おうか買うまいか迷った鮮明な記憶があるので、65年というのは実感としてもそのとおり)で、先後がわかりませんが、これは無視して大丈夫です。後発の2曲は、The "In" Crowdを意識しただけであって、お互いのことは意識していなかったでしょう。

アル・クーパーのOo Wee Baby I Love Youも大好きなのですが、フレッド・ヒューズ盤をはじめて聴いたときは、アル・クーパーのあの曲のオリジナルだということにはすぐには気づかず、独立した曲として、このサウンドは好きだなあ、と惚れ惚れしてしまいました。

こういうmenaceな感覚はどのあたりに近似しているのだろうかと、あれこれ考えていたら、フィレーズ時代のライチャウス・ブラザーズに思いいたりました。フレディー・スコットにもこういうものがあったと思いますが(確認した。Hey Girl)、まあ、あれは意識的にライチャウス風につくったのでしょう。そもそも、フレディー・スコットのHey Girlはライチャウスの諸作にくらべればずっとドライなサウンドで、どこのスタジオでも録音できそうです。

フレディー・スコット Hey Girl


ライチャウス・ブラザーズ Hey Girl

(すんげえタムタムにのけぞった。アール・パーマー! コードが変なところに行くのが面白い。キャロル・キングにしてはめずらしい)

キャロル・キング Hey Girl

(ラス・カンケルやチャールズ・ラーキーのようなマイナーリーガーがいなければ、キャロル・キングも悪くないなあ、と見直した。いや、やっぱりピッチもタイムもよくないが)

ドビー・グレイのThe "In" Crowdは、フィル・スペクターのフランチャイズ、ライチャウスと同じハリウッドのゴールド・スターで録音されました。あれほどウェットな音がつくれるスタジオはそんじょそこらにはありません。直列4連のプレート・エコーをフルに活用したのでしょう。

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ゴールド・スターのフィル・スペクター

問題は、Oo Wee Baby I Love Youのサウンドもまた、ただごとではなくウェットだということです。余人は知らず、わたしの耳には、The "In" CrowdとOo Wee Baby I Love Youは同じスタジオで、同じエコー・チャンバーを使って、ほぼ同程度の深さで(Oo Wee Baby I Love Youのほうがいくぶん深い)リヴァーブをかけて録音したものに聞こえます。

The "In" Crowdを、より明るく、より軽快にしたのがレン・バリーの1-2-3であるように、Oo Wee Baby I Love Youは、The "In" Crowdをよりmenaceに、よりスロウに、よりノワールにしたヴァリアントとして誕生したのだと想像します。

◆ ドラマーの問題 ◆◆
遅くなりましたが、自前サンプルをいきます。

サンプル Fred Hughes "Oo Wee Baby I Love You"

イントロからヴァースに移行するときのタムタム、フロアタムへと16分で流すフィルインは盛り上がります。ハイ・テクニックは不要ですが、それでも、下手なドラマーは、こういうシンプルなフレーズをきれいに叩けないものです。むろん、深いリヴァーブはドラム・サウンドをドラマティックに変化させるものですが。

The "In" Crowdと同じドラマーかなあ、といいたくなりますが、これは追求しはじめると泥沼に陥ってしまいます。The "In" Crowdでダンエレクトロをプレイしたキャロル・ケイさんは、アール・パーマーだったように思う、とおっしゃっていますが、そうにちがいない、というほど明白にアールの特徴のでたプレイではありません。

そのフォロウ・アップであるSee You at the Go-Goはメンバーがはっきりしていて、ドラムはハル・ブレインです。それなら、そこからThe "In" Crowdも類推できるだろうとおっしゃるかもしれませんが、これがリヴァーブのせいで困難なのです。だから泥沼なのです。

ドビー・グレイ See You at the Go-Go


なんだか、The "In" Crowdとは微妙に異なるサウンドで、やっぱりあちらはアール・パーマー御大かもしれないと思います。でも、リヴァーブに耳を曇らされるじつにタフな聞き分けです。

◆ めぐる因果の小車 ◆◆
話を七面倒にしたいわけではないし、アル・クーパーからはさらに遠ざかりますが、もうすこしだけ風呂敷を広げます。

The "In" Crowdは、多くの人がモータウン的な音と表現しています。モータウンはあれほど深くリヴァーブをかけない、ということは非常に重要なポイントで、きちんと押さえておかないといけないことですが、モータウンの音を意識していたというのもまちがいではありません。

また、レン・バリーの1-2-3と、トーイズのLover's Concertoは、Dancing in the Streetあたりを意識した、モータウンの模作だとする立場の人もいっぽうにいます(この2曲はともにゲーリー・チェスターがストゥールに坐ったと考えている)。

いろいろなものがモータウンを指し示しているのですが、裏側ではもっと明快、直截にモータウンに接続しています。

f0147840_0214377.jpgThe "In" Crowdのアレンジャーはジーン・ペイジです。ジーン・ペイジの重要な仕事としては、ほかにYou've Lost That Lovin' Feelin'などのライチャウス・ブラザーズのヒットがあります。

さらに重要なことは、モータウンLAの多くのトラックをアレンジしたのもジーン・ペイジだといわれていることです。そのジーン・ペイジが、モータウンを意識してアレンジしたのだから、The "In" Crowdがモータウン的に響いてもべつに不思議はないのです。

裏側にこういうことがあるので、Oo Wee Baby I Love Youからはじまって、The "In" Crowdの周囲でぐるぐると環を描くような話になってしまったのでした。


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アル・クーパー
Al Kooper - New York City (You're a Woman)
New York City (You're a Woman)


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Hits From Vj
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ドビー・グレイ
Out on the Floor With the in Crowd
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レン・バリー
Very Best of
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by songsf4s | 2010-11-18 23:17