アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その4 Easy Does It篇

アル・クーパーの3枚目、Easy Does Itはあまり得意なアルバムではありません。よくないわけではなく、そこそこなのですが、それ以上ではありません。あのアルバムはこの曲、という突出したものがなく、70点のどんぐりの背比べなのです。

悪い癖で、いや、ひょっとしたら好ましいことなのかもしれませんが、アル・クーパーはむやみに録音場所を移動します。記憶しているかぎりでも、NY、ナッシュヴィル、ハリウッド、ロンドン、アトランタ、すくなくともこれだけは移動しています。

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さらに悪いことに、同じアルバムのなかであちこちに移動するので、サウンドもプレイも凸凹になってしまいます。「変化に富んだ音」という言い方もできるのですが、プレイと録音に関しては、やはり「出来不出来の差が大きい」という印象です。前作のYou Never Know Who Your Friends Areの出来が非常によかったのは、NYの音で統一したからでもあると思います(わたしの観点からは、ダメなドラマーがいなかったというのも非常に大きいが)。

Easy Does Itは、ソロとしてはおそらくはじめてのハリウッド録音のトラックを収録しています(Super SessionはハリウッドのCBSでの録音だったと思う)。プレイヤーの選択にミスはないのですが、惜しいかな、スタジオの鳴りがあまりよくありません。おそらくCBSを使ったのでしょう。

アーティストは独立スタジオを使いたがり、会社は自社スタジオを使わせたがることになっていて、CBSの重役でもあったアル・クーパーとしては独立スタジオは使いにくかったのでしょう。ユナイティッド・ウェスタンあたりで録音したら、いい音になっただろうと思います。

ハリウッドでは二度のセッションをしたらしく、メンバーの異なるものがあります。ジョー・オズボーンがプレイしたのが一曲、アール・パーマー、ライル・リッツ、トミー・テデスコ、ルイ・シェルトン、ラリー・ネクテルなどがプレイしたのが二曲です。トミー・テデスコ・ファンなら、She Gets Me Where I Liveは楽しめます。

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1974年、ボトム・ラインにおけるマイケル・ブルームフィールドとアル・クーパーの共演。こんなのがあるとは知らなかった。ただし、続Live Adventuresという雰囲気ではなく、ブルームフィールドとよく知らないヴォーカルのライヴに、アル・クーパーとバリー・ゴールドバーグがゲストでプレイしている、というあたり。しかし、好不調の波がひどいブルームフィールドとしてはかなりいい日といえる。ラジオ・トランスクリプションなので、音質はまずまず。

◆ I've Got a Woman ◆◆
Easy Does Itはダブル・アルバムですが、R&Bカヴァーは1曲、I've Got a Womanのみです。

サンプル Al Kooper "I've Got a Woman"

このトラックについてなにかいうには、オリジナルや他のヴァージョンがどうなっているかを知っていただかないとぐあいが悪いので、そちらをどうぞ。オリジナルはレイ・チャールズです。

レイ・チャールズ I've Got a Woman


ジミー・マグリフはオルガン・プレイヤーなので、つぎのクリップはインストです。他のクリップがすべて超ビッグネームなのに、そこにマグリフを滑り込ませたのは、もちろん、面白いからです。

ジミー・マグリフ I've Got a Woman


エルヴィスのI've Got a Womanはいくつか種類がありますが、以下のクリップは50年代のサン・セッションのものです。

エルヴィス・プレスリー I've Got a Woman


ビートルズ(with John Lennon on lead) I've Got a Woman


まだいくらでもヴァージョンはあるのですが(クリフ・リチャード、ブッカー・T&ザ・MG's、ジョニー・リヴァーズほか)、ここにあげた4種類のように、ふつう、この曲はミディアム・アップまたはアップでやります。わが家にあるものを聴くかぎり、すべてそういうテンポでやっていて、例外はアル・クーパーのみなのです。

昔は歌が下手だとか、声が悪いだとか、いろいろいわれましたし、オルガンはともかくとして、ピアノはゲーリー・ブルッカーよりはうまいけれど、ぐらいの腕でしかなく、そっちが本職だというギターも、とくにすごいわけではなく、BS&Tを追い出されたのも、まったく理解不能とはいえません。

しかし、アル・クーパーが抜けたあとのBS&Tがゾンビのように思考力を失って、つまらないことばかりした事実が端的に示しているように、アルは目に見えないところで仕事をするタイプのミュージシャンで、ただやりました、というノータリンなトラックはありません。失敗成功はどうであれ、つねに頭を使っているのです。それがI've Got a Womanの特異なアレンジにストレートにあらわれたと思います。

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だれでも知っているといってよい曲をカヴァーするにあたって(しかも置き場所はディスク1のA-2、「アップテンポのオープナーを受ける、返しのバラッド」という重要な位置)、他のヴァージョンとは異なる方向を探ったのでしょう。あるいは逆に、アレンジのアイディアが浮かんだからカヴァーする気になったのかもしれません。

ダブル・アルバムで値段が高く、高校生は迷って先送りし、Easy Does Itを買ったのはリリースから2、3年後だったと思います。そのときにはすでにレイ・チャールズのヴァージョンを知っていたので、アル・クーパーのカヴァーを聴いたときは、ちょっと驚きました。出来の善し悪しということになると微妙になってしまいますが、他のヴァージョンにはまったく似ていないという一点は賞美できます。

しかし、いま聴き直して思うのは、やはり「眼高手低」か、ということです。意図はよくわかるものの、現実にできあがったものには不満があります。まず(またしても)リック・マロッタのドラミングが不出来です。スネアもタムタムもベタベタとヘッドに鳥もちをまぶしてあるような音がして、ガムを踏んづけたようなイヤな気分になります。しかもタイムも悪くて、ピンのあまい写真のようなビートです。

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ストゥー・ウッズは、ほかのトラックではまずまずのプレイをしているものがあるのですが、I've Got a Womanは、わたしにはいいプレイには思えません。ソロも退屈です。まあ、ベース・ソロなんて、だれがやっても退屈なものですが。

プレイヤーの選択を誤ったために、I've Got a Womanのアレンジのアイディアは十全なる実現には至らなかった、というあたりが当方の結論です。とはいえ、BS&Tのフレッド・リプシャスのテナー・ソロはまずまずです。

譜面は(たしかめずに書くが)またチャーリー・カレーロでしょうが、弦はさておき、ホーン・ラインは、「お、ここはいいな」と感じる瞬間が何度かあります。

◆ Baby Please Don't Go ◆◆
もう一曲、これはR&Bではなく、ブルーズなのですが、Baby Please Don't Goにもいちおうふれておきます。といっても、12分半の長尺で256でも23MBというサイズ、サンプルは略させていただきます。

いえ、いいものなら長さもサイズも気にしませんが、それほどのものでもないのです。ただし、I've Got a Woman同様、よくあるパターンに寄りかかるつもりはない、という気組みは伝わってくるアレンジです。

ストゥー・ウッズのプレイもこちらは楽しめます。むろん、リック・マロッタはやっぱり勘弁ですが。それでも、ハイハットだけなんていうところは、鳥もちベタベタのスネアが聞こえないので一息つけます。

この曲は、われわれの世代の場合、アニマルズのカヴァーで知った方が多いのではないでしょうか。

アニマルズ Baby Please Don't Go


イギリスではゼムのヴァージョンがヒットしていて、現在では、ヴァン・モリソンご幼少のみぎりの代表作という扱いですが、アニマルズ盤によく似ているので、クリップはやめておきます。

元をたどると、ジョー・ウィリアムズあたりに行き着くらしく、1930年代のフォーク・ブルーズですから、要するに、よくあるチューニングもピッチも狂ったモノトーンな語りのような代物です。戦前のフォーク・ブルーズが怖くてアメリカ音楽が聴けるか、覚悟はできている、なんていうお申し出があれば、サンプルをアップしますが、まあ、ふつうの方には御用のないものでしょう。

最後にすこしだけI've Got a Womanの補足をしておきます。プレイヤーに載せたものをぐるっと三周ばかり聴いて、強く印象に残ったのはクリフ・リチャード&ザ・シャドウズの1962年のライヴ盤です。

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録音もよく、シャドウズもクリフ・リチャードも好調で、おおいに楽しめます。クリップを探してみたのですが、64年のベルギーでの音の悪いものがあっただけなので貼りつけませんでした(64年なのにバーンズ。64年からとは知らなかった)。

朝の紅顔も夕べには白骨となる、明日の命はわからないのだから、ケチケチせずにサンプルをいっちゃいます。

サンプル Cliff Richard & the Shadows "I've Got a Woman" (live, 1962)

イギリスというのは、アメリカはいうまでもなく、日本にくらべても遅れていて、60年代後半に入ってもモノーラル盤がいっぱいあるのですが、これは62年録音(リリースは2000年)、しかもライヴだというのにステレオ、低音部もちゃんと聞こえて、突然変異のような録音です。シャドウズ・ファンなら聴いて損はありません。


このシリーズは2、3回やって、思いきりお客さんが引いたら、うやむやにしてしまうつもりでしたが、これまでのところカウンターは微増なので、次回はさらにNew York Cityへと進みます。


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アル・クーパー Easy Does It
Easy Does It
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Live at ABC Kingston 1962
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ジミー・マグリフ I've Got a Woman
I've Got a Woman
I've Got a Woman


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by songsf4s | 2010-11-17 23:56