アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その3 You Never Know Who Your Friends Are篇

前回、なにも説明せずに、アル・クーパーのオフィシャル・サイトのリンクを最後に貼りつけておきましたが、改めてご紹介します。

The Official Al Kooper Site

アルのエッセイないしは日記はちょっとやそっとでは読み切れないほどのテキスト量です。トップ・ページに新しいベスト・セレクションの紹介があり、ブックレットだけは無料でダウンロードできます(音のほうは配信のみ、盤はなし)。

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エッセイで、近ごろの若い者は、アルバムという概念に無縁なだけでなく、だれがなにをプレイしたなんてことにも興味を持たないと嘆いていたので、そういうことではいけない、配信にも詳細なデータとライナーを付すべきだと考えたのでしょう。きちんとデザインされたPDFです。

トラック・リスティングを一見して、へえ、といったのは、プロコール・ハルムのWhisky Trainのカヴァーです。最近、ライヴでよくプレイしているのだとか。ずいぶん以前のことですが、年をとるともうピアノはうまくならないが、ギターはまだうまくなるといっていたので、ギンギンに弾きまくっているのかもしれません。ちょっと食指が動きました。

◆ Too Busy Thinkin' 'bout My Baby ◆◆
今回はセカンド・アルバム、You Never Know Who Your Friends Areです。I Stand Aloneも悪くないアルバムでしたが、こちらはさらに出来がよかったという印象があります。

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タイトル曲のYou Never Know Who Your Friends Are、Lucille、First Time Around、The Great American Marriage - Nothing、Anna Lee、I'm Never Gonna Let You Downというオリジナル曲の粒がそろっているうえに、カヴァーも上々の出来なのです。

アル・クーパー本人も、もっとも気に入っているアルバムといっています。ソングライター自身から見ても、楽曲を揃えることができたという自負があるのではないでしょうか。

このアルバムに収録されたR&Bカヴァーはやはり2曲です。

サンプル Al Kooper "Too Busy Thinkin' 'bout My Baby"

この曲はリリース当時すごく好きでしたし、いまでもアル・クーパーがカヴァーしたR&Bチューンのなかでベストの曲、ベストのアレンジ、ベストのプレイだと思います。改めて聴き直して思ったのは、楽曲だけでなく、サウンド、アレンジ、プレイもハイ・レベルだということです。

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バーナード・パーディー

バーナード・“プリティー”・パーディー、アル・ロジャーズ、バディー・サルツマンという3人のドラマーのうち、だれなのか特定できないのですが、この曲のドラミングはおおいに好みです。

前作のケニー・バトリーなんかとは、スネアのチューニング、サウンドからしてぜんぜんちがいます。こういう乾いて軽やかなスネアの音を出すには、チューニングだけではダメで、左の手首がやわらかく、軽くスナップをきかせてヒットする必要があります。

左手がいい人は、当然ながら右手もきれいで、この曲の裏拍にアクセントを置いたハイハットの刻みも好みです。フィルインはごくわずか、ほとんどすべてがバックビートのみの「空の小節」ですが、いいプレイはバックビートだけで十分に楽しめます。

アレンジも、Hey, Western Union Manがウソみたいに、ノーマルな出来です。あくまでも平均点ですが、前作にはひどいものがあったので、このアルバムはやれやれと安堵します。

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アル・クーパーとチャーリー・カレーロ

◆ マーヴィン・ゲイのオリジナル ◆◆
Too Busy Thinking 'bout My Babyのオリジナルはマーヴィン・ゲイです。

サンプル Marvin Gaye "Too Busy Thinking about My Baby"

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リアルタイムでラジオから流れてきたマーヴィン・ゲイのヒット曲というのはあまり好きなものがなく、I Heard It Through the Grapevineなんて、なんなのこれ、と思っていました。

では、60年代終わりの低迷期を抜け出したあとのもの、たとえばLet's Get It Onのあたりが好きかというと、あれはあれで、なんだかなあ、と冷ややかに見ていました。Soul Trainで客の女たちと片端からキスしていて、なるほど、そういう売り方ね、と思っただけです。スプリームズのメアリー・ウィルソンが自伝で「あんな美しい男は見たことがない」と若いころのゲイについていっていますが、つまりそういうことなのでしょう。

しかし、トップ40ヒット集めの一環で編集盤を買い、それまで知らなかったマイナー・ヒットやノン・ヒットを聴いて、見方が変わりました。とくに、One More Heartache、Baby Don't You Do It、そしてToo Busy Thinkin' 'bout My Babyという、カヴァーで知っていた(ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド、ザ・バンド、アル・クーパー)3曲のオリジナルはおおいに気に入りました。

マーヴィン・ゲイ Baby Don't You Do It


ほんとうはピアノの左手がカッコよくて盛り上がるのですが、残念ながらこのクリップではよく聞こえません。

マーヴィン・ゲイ One More Heartache


メアリー・ウェルズやキム・ウェストンやタミー・テレルとのデュエットのようなふやけたところがなく、こういうほうに力を入れていれば、Too Busy Thinkin' 'bout My Babyの直後に行き詰まって苦しむことはなかったでしょう。いや、苦しんだからこそ、What's Goin' On以降の第2期の大勝利が生まれたのでしょうけれど。

モータウンは聴きすぎたこともあって、最近はあまり聴きたくありません。ダイアナ・ロスのベタベタ声なんか来世まで二度と聴かなくてけっこうです。昔は大好きだったリーヴァイ・スタブスの声も感興が湧かなくなり、テンプスはもともとそれほど好きではなく、スティーヴィー・ワンダーにもとことんうんざり(エディー・マーフィーのおちょくりもいけない!)、残ったのはスモーキー・ロビンソンとマーヴィン・ゲイの一部の曲です。人生、生きてみないとわからないものです。こういう風に変化するとはティーネイジャーのときには想像もつきませんでした。

◆ I Don't Know Why I Love You ◆◆
You Never Know Who Your Friends Areにはもう1曲、モータウンのカヴァーが収録されています。スティーヴィー・ワンダーのオブスキュアなI Don't Know Why (I Love You)です。

サンプル Al Kooper "I Don't Know Why I Love You"

こちらはそれほど好きなわけではないので、オリジナルのスティーヴィー・ワンダー盤はYouTubeでいいでしょう。

スティーヴィー・ワンダー I Don't Know Why (I Love You)


おかしなことに、この曲ははじめは45のA面としてリリースされたそうです。いや、それだけならたんなるフロップで、よくあることですが、B面がMy Cherie Amourだったというのだからのけぞります。リリースから数カ月後、DJたちがフリップしてくれたおかげでB面が大ヒットし、フロップになるのを免れたのだとか。

まあ、ポップ・ミュージックの歴史は、こういう大馬鹿な判断ミスの集積みたいなものだから仕方ありませんが、それにしても大タワケです。でも、わたしがA&Rだったら、I Heard It Through the Grapevineなんか、くだらねえ、こんなのアルバム・フィラーじゃんか、といって、ぜったいにシングルにしないでしょうから、引き分けということにしておきます。

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閑話休題。この曲に関しては、R&Bルーツは切り捨て、別種のコンテクストに移転してしまったアル・クーパー盤の圧勝でしょう。これで原曲の出来がよければ面白いトラックになったでしょうが、元が元だから、「アレンジ、サウンドは面白いんだけれどねえ、でも、だからなんだっていうの」です。

ルートに戻らず、螺旋状にグルグルするところが同業ソングライターとしては面白かったのでしょうか。でも、リスナーは実質主義だから、理屈では聴かないのです。このへんに作り手との乖離があります。

それはそれとして、この曲のアル・クーパー盤はまたしてもドラムが魅力的です。これは前述のベスト・セレクション、50/50に収録されているので、パーソネルがわかっています。ストゥールに坐ったのはバーナード・パーディーです。ということは、Too Busy Thinkin' 'bout My Babyもパーディーのプレイかもしれません。スネアが似ていて、同じプレイヤーに聞こえるのです。

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◆ Too Busy Thinking about My Babyの歌詞 ◆◆
最後に歌詞のことを少々。

Too Busy Thinking about My Babyの歌詞も馬鹿馬鹿しいものですが、前回のHey, Western Union Manとは別種の馬鹿馬鹿しさで、こいつは馬鹿馬鹿しくていいや、座布団一枚、といいたくなる愛嬌があります。

Ah-ah-aaah, oh yeah... Oh listen to me people

I ain't got time to think about money
Or what it can buy
And I ain't got time to sit down and wonder
What makes a birdie fly

And I don't have the time to think about
What makes a flower grow
And I've never given a second thought
To where the rivers flow

CHORUS:
Too busy thinking about my baby
And I ain't got time for nothing else

Said, I ain't got time to discuss the weather
How long it's gonna last
And I ain't got time to do no studies
Once I get out of class
Tellin ya I'm just a fellow
Said I got a one track mind
And when it comes to thinking about anything but my baby
I just don't have any time

CHORUS

The diamonds and pearls in the world
Could never match her worth, no no
She's some kind of wonderful, people tell ya
I got heaven right here on earth
I'm just a fellow
With a one, one track mind
And when it comes to thinkin' about anything but my baby
I just don't have any time

CHORUS

(yeah, she's never hard to find
'cause she's always on my mind)

金のことなんか考えている暇がないとか、この上天気はどれくらいつづくかねえ、なんてどうでもいいことを話している時間はないんだとか、いろいろいうけれど、それでどれほど重大なことを考えているかというと、「俺のベイビー」のことだけだっていうんだから、じつにもって暢気な話で、歌なんてこんなんでいいんだよな、と笑ってしまいます。

しかし、細部の処理にはさすがに見るべきものがあります。「And when it comes to thinking about anything but my baby」の「(ア)バウト」と「バット」の音の響き合いは、頭韻を踏んだような効果を生んでいます。こんなものが韻になるはずがないのですが、aboutではなく、'boutと発音しているから、というか、アクセント位置のせいでそう聞こえてしまうのが面白いところです。


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by songsf4s | 2010-11-16 23:56