アル・クーパーのR&Bカヴァーとオリジナル その2 I Stand Alone篇

前回、エディー・ホーが大成しなかったことを嘆きましたが、それは彼の側に原因があったようです。ずっと以前に読んだショート・バイオによると、クスリでボロボロになってしまったとありました。

アル・クーパー&マイケル・ブルームフィールド Albert's Shuffle

(いうまでもなくSuper Sessionのオープナーにして、マイケル・ブルームフィールドの代表作だが、ミスはあるものの、エディー・ホーのソリッド・バックビートもおおいなる魅力。1打のみのアクセントや短いフィルインを多用するという基本方針を立てたセンスもすばらしい。むろん、考えてやるのではなく、直感的にそういう道を選んだのだろう)

ドラマーは薬物にやられる割合が高いように感じるのはひが目でしょうか。ジム・ゴードン、ダラス・テイラー、エディー・ホーといったわたしの好きなドラマーは、バックビートすらまともに叩けなくなって消えていってしまったのだから、ひどいものです。殺人を犯す前のジム・ゴードンはタイムが不安定だったというのだから驚きます。「タイムの不安定なジム・ゴードン」というのは、自家撞着を起こした、ありえない表現です。

そう考えると、ハル・ブレインのすごさがいっそう際だちます。クスリどころか、アルコールもいっさい飲まないというのですからね。まだスタジオ・ドラマーになる以前、駆け出しのころに酒のおぼれそうになり、一念発起して禁酒したというのです。そうじゃなければ、Open 24 HRSのプレイヤーにはなれないでしょうが。

ホリーズのボビー・エリオットはさらに興味深く、レコーディングやツアーの直前になると、禁酒するのだそうです。仕事のあいだはつねにクリスタル・クリアな精神状態を保たなければいけないわけですな。

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ボビー・エリオットはブリティッシュ・ビート・グループのドラマーのなかでもっともタイムが安定していた。それにしてもすっかりおじいさんになっちゃって……。

うーん、しかし、ラリパッパであれだけ精密なバックビートを叩いていたジム・ゴードンはやっぱり天才だったということを、ボビー・エリオットのスタイルが証明しているのかもしれません!

◆ アル・クーパーのWestern Union Man ◆◆
アル・クーパーのR&Bカヴァーの2回目、順番からいうと今回はLive Adventuresですが、都合であとまわしにし、アル・クーパーのソロ・デビュー盤I Stand Aloneに進みます。このアルバムの多くはナッシュヴィル録音で、R&Bカヴァーの2曲もナッシュヴィルです。

サンプル Al Kooper "Hey, Western Union Man"

ベーシックは、とくにギター(ウェイン・モス、ジェリー・ケネディー、チャーリー・ダニエルズの3人がクレジットされている)、ベース(チャーリー・マコーイ。ハーモニカなんかよりベースのほうがずっといい)に関してはいい出来だと思います。

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ドラムはちょっともたつくところはあるものの、バトリーにしてはマシなプレイというか、スネアのチューニングが腹の立つほど低くはないのが救いです(ただし、何度か使っているロールはあまりきれいではない)。管は問題外のひどさ。こんな金管の扱いはないでしょうに。ハリウッドのエース・アレンジャー、たとえばビリー・メイあたりが聴いたら、笑い死にしちゃうでしょう。

この曲の魅力は、つまるところ、ヴァースにおけるベースとギターの単調な繰り返しの気持よさと、コーラスで一転して明るく華やかになることだと思います。

I Stand AloneのCDは昔は日本盤しかなかったのですが、最近はアメリカでもセカンドとの2ファーがあります。ボーナス入りですが、Easy Does Itのハイライトにすぎず、未発表音源ではないでしょう。しかし、マスタリングについては、米盤のほうが好ましいかもしれません。

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◆ ジェリー・バトラーのWestern Union Man ◆◆
いまになると管をはじめ、不満足に思う部分も目立ってきましたが、子どものころはこの曲は大好きで、ときおり、元はどうなのだろうと気にしていました。オリジナルはインプレッションズのリード・テナーだったジェリー・バトラーが歌ったもので、バトラー自身がギャンブル&ハフと共作しています。

Jerry Butler Hey, Western Union Man


すごくエイリアンなサウンドとバランシングで、いったいどこで録音したのかと思案投げ首です。ギャンブル&ハフが噛んでいるということは、フィラデルフィア録音ということかもしれません(あとからいろいろ検索してみて、バトラーのPhiladelphia Sessionsという編集盤にこの曲が収録されているのを確認した)。

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左からリオン・ハフ、ジェリー・バトラー、ケニー・ギャンブル(2008年)

ベースはおおいに好み、ドラムは左手は最低ですが、右手は好みです。左手を自在に使えないドラマーというのはいっぱいいて、このプレイヤーも、ハイハットはきれいなのに、スネアの抑揚がガタガタで、ソフトにいくべきところで、ガンといってしまう不器用さです。イントロのスネアのひどさったらありませんぜ。赤ん坊が棒をもって遊んでいるみたいです。

弦も洗練されているとはいいかねますが、セヴンスのラインを弾いてしまうところなんかニヤニヤ笑ってしまいますし、Oh, western union man, send a telegramというコーラスでのラインのつくりは好ましいと思います。弦が面白いというところが、やっぱりフィリーですな。人数僅少なのはブラック・ミュージックではふつうのことで、予算の問題だから目をつぶります。人数僅少の面白さというのもあることですし(苦しい!)。

ウェスタン・ユニオンというのは、日本でいえばNTTの電報部門というあたりで、アメリカでは電話と電報はべつの会社の業務だったのです。まだあるのかと検索したら、ありました。電話会社の再編には巻き込まれなかったようです。

そのウェスタン・ユニオンの人間に「ヘイ」と呼びかけ、俺のベイビーに電報を届けてくれよ、というジョニー・マーサーならぜったいに書かないドアホ歌詞です。コーラスを日本語にすると「ヘイ、ウェスタン・ユニオン・マンよ、電報を送ってくれ、俺のベイビーに電報を送ってくれ、電報を送れ、すぐ電報を送れ、電報を送れ」といっているだけですからね。作詞家はオウム信者かもしれません。

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R&Bチャート・トッパー、ポップ・チャートでは16位までいっているのでちょっとしたヒットなのですが、ヒットしたときに聴いた記憶はありません。まだこちらがR&Bを聴く気がなかったのでしょう。

カヴァー対オリジナルの対戦は拮抗していますが、ベースと弦が好ましいオリジナルに軍配というところでしょうか。自分でどこかのパートをプレイするとしたら、アル・クーパー盤のギターをやりたいですね。こういうのを弾いているとメンフィス・アンダーグラウンド的トランス状態(あの曲を知っている人にしかわからない喩えだが)に入れます。

◆ アル・クーパーのToe Hold ◆◆
I Stand Alone収録のもう一曲のR&Bカヴァーは、Toe Holdです。

サンプル Al Kooper "Toe Hold"

この曲もやっぱり、ベースはいいけれど、管はちょっとなあ、です。だれの責任なのでしょうか。アレンジャーは3人、チャーリー・カレーロとチャーリー・マコーイとアル・クーパー。カレーロはNYセッションのみでしょうから、ナッシュヴィルはアル自身かマコーイなのでしょう。なんでこんな管にしようと思ったのか意図からしてさっぱりわかりません。プレイヤーも下手なのかもしれません。ひどいラインでも、超一流がプレイすると、いいラインに聞こえちゃったりしますからね。

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でもまあ、ケニー・バトリーもいつもよりはすこしタイムがアーリーで、なぜかチューニングはノーマルだから、とくに問題はなく、マコーイのベースはけっこうなので、グルーヴとしては悪くなく、それで子どものころは好きだったのだと思います。

◆ ウィルソン・ピケットとサム&デイヴのToe Hold ◆◆
どちらがオリジナルとはにわかに断じられないのですが、先行ヴァージョンとしてはウィルソン・ピケット盤とサム&デイヴ盤があります。ソングライター・クレジットはアイザック・ヘイズとデイヴ・ポーターとなっているので、サム&デイヴがオリジナルと考えたくなりますが、こちらはお蔵入りして、リリースされたのは後年のベスト盤でのことなのです。では、まずウィルソン・ピケットから。

サンプル Wilson Pickett "Toe Hold"

MG'sの音には聞こえないので、クレジットを見てみました。残念ながらこの曲についてはパーソネルはブランクでしたが、録音場所は「フェイム」となっていました。つまりマッスルショールズ録音ということです。ということは、ドラムはロジャー・ホーキンズ、ベースはデイヴ・フッドなのでしょう。録音時期が近いHey Judeではドゥエイン・オールマンがギターを弾いていたりするので、ほかのパートの推測はやめておきます。

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こちらのヴァージョンも、ベースは好きだけれど、管はなんなんだよ、です。R&Bはこんなもんでしょうかね。ハリウッドのオーケストラの洗練されたホーン・アレンジを山ほど聴いたあとだと、ナッシュヴィルもマッスルショールズも素人に思えてしまうだけのことで、あちらとしてはふつうにやっているのでしょう。

もうひとつは、また町を移動して、こんどはメンフィスのスタックスです。

サンプル Sam & Dave "Toe Hold"

こちらのドラムはどこからどう聴いてもアル・ジャクソンなので、MG'sと考えて大丈夫の三乗です。ウィルソン・ピケット盤同様、なかなかグリージーな味わいがあって、なんでボツにしたのかな、もったいない、と思う出来です。ウィルソン・ピケット盤を優先するという「政治判断」でしょうか(この時期、スタックス・レコードはアトランティックの傘下にあり、アトランティックのウィルソン・ピケットに対しても、スタックスとしては配慮する必要があったと思われる)

ウィルソン・ピケット盤同様、シンプルなアレンジなのですが、メンフィス・ホーンのほうはちゃんとした音に聞こえます。やっぱり、こちらの受け取り方の問題ではなく、マッスルショールズのホーンのレベルが低いのでしょう。

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手前より時計回りに、ウェイン・ジャクソン(背中を向けている)、アイザック・ヘイズ、サム・ムーア、デイヴ・ポーター、ドナルド・“ダック”・ダン(バッフルの向こう)、デイヴ・プレイター、スティーヴ・クロッパー、ブッカー・T・ジョーンズ。

今回ははからずもR&B三都物語になってしまい、おやおやでした。あれこれ文句をつけたものの、メンフィスもマッスルショールズもフィリーも、やっぱり血の騒ぐ音をつくっていて、もうそういう年じゃないなあ、と思いながらも、並べて聴けばグッと盛り上がり、グルーヴに乗ってしまうのでした。R&Bの愉しみはそこにあるわけですからね。

次回の分も、次々回の分もすでに何度も聴いて、いよいよ血がたぎってきています。この数年、ハリウッドのクールなソフィスティケーションにどっぷりつかっていましたが、戻ろうと思えば、ほんの数日で子どもに戻れるものだなあと感心しています。次回はいよいよ、大好きなあの忙しい曲が登場します。盛り上がるのですよ、これが。


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by songsf4s | 2010-11-15 23:58