人気ブログランキング | 話題のタグを見る
スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話

半村良の『回転扉』を再読していたら、まだ幼かった弟が映画館の外にあるスティル写真を見ていて家族とはぐれたことを回想し、語り手は、スティルを見ていて、といっても、もういまでは意味がわからないだろう、といっています。

たしかにあれは古い習慣で、しかも、東京のロードショー館などではやらない、いたって下世話な宣伝方法でした。地方では必須、東京の場合、有楽町、日比谷的ではなく、浅草的センスというあたりでしょうか。

多数派は外壁の一部にショウウィンドウのようなものをつくり、そこにスティルを飾っていました。

昭和30年の所沢の映画館

もうひとつは、ベニヤ板にラシャ紙を貼りつけ、そこにスティルを並べてビニールで覆ったものを入口の付近に立てておくスタイルです。おそらく、ショウウィンドウのスペースでは足りないほど多数のスティルが、会社から送られてきたために生まれたスタイルでしょう。

最近の浅草名画座

よくまあ、古い映画のスティルがあるものですねえ。改めて考えると、どうやって確保しているのか気になってきました。

スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話_f0147840_23544476.jpg

学齢前から小学校にかけて、近所の映画館を毎日のように巡回していました。最盛時、子どもが歩いていける距離に8軒の映画館があり、昔は一週間で写真替わりなので、すべての映画館のスティルを仔細に眺め、あれこれ空想していると、フル・レングスの娯楽になったのです。

さんざんスティルを見たあとで、じっさいにその映画を見ると、たいていの場合、想像したものとはぜんぜんちがった話であることがわかりました。しかも、スティルは映画のコマを切り取ったものではないということを知らなかったために、しばしば、スティルにはあるのに、ついに映画には出てこなかったシーンがあり、それはどこに消えてしまったのだろうと不思議に思いました。

いつも映画の記事に過剰なまでにスクリーン・ショットを貼りつけるのは、たぶん、幼児のころの習慣の延長線上にあるのでしょう。映画館のスティルにはキャプションなどついていなかったことを考えると、当家もよけいなことは書かないほうがかえっていいかもしれないと、改めてわがふりを客観的に眺めて思いました。

スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話_f0147840_23554292.jpg

しかし、人間は進歩しないどころか、退歩するのかもしれないとがっかりしました。幼児のころのわたしは、十数枚の写真を綿密に観察することによって、自分で映画をつくっていたのです。それを1館あたり2本、8館で16本、毎週それだけの「映画」を視覚と想像力だけを頼りに自前でつくっていたことになります。ボケッとPCの前に坐ってポカーンと映画を見ている現在のわたしなど、この映画スティル狂の幼児にくらべたら怠惰な愚か者です。

それにしても、貧しい時代にはいろいろな娯楽があったというか、日常の楽しみを骨までしゃぶる方法を、幼児でさえ工夫したのだなあ、とちょっと感心してしまいました。いま、昔のようにそこら中にスティルがあふれたとしても、もう熱心に眺めることはないでしょう。

スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話_f0147840_23555235.jpg

◆ 上手く下手に歌う微妙な技術 ◆◆
以上のような枕で『シャレード』のつづきを書くつもりだったのですが、連投が長く、ちょっとバテが来たようで、書きかけで投げてしまいました。

意味なく、脈絡もなく、いまQCDプレイヤーに載せてあるものを書き並べるというお気楽なことをやります。

まずグラム・パーソンズのThe Complete Reprise Sessionsのディスク3全曲。ディスク3はオルタネート・テイク集です。というか、正確にはボツになったアーリー・テイクスです。

スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話_f0147840_0531546.jpg
Gram Parsons "The Complete Reprise Sessions"

グラム・パーソンズ自身がボツになったシンガー、ボツになった人格みたいなものなので(これがこの外道を子どものころから愛している理由だといま思いあたった。お互い、ボツになった人格なのだ)、外しっぱなしのボロボロ初期テイクにも彼らしい味があり、なんだか、頭のなかで正と負が逆転して、裏返し世界をかいま見ることになります。ピッチが安定してはグラム・パーソンズのアイデンティティーが揺らいでしまうのです。

しかし、それでもなお、テイクとアウトテイクには出来の善し悪しの明快な差があり、ボツはやはりボツらしい姿形をしていることが確認できます。「うまく下手に歌えた」テイクがリリースされ、「下手に下手に歌ってしまった」テイクはボツになったのです。

スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話_f0147840_4281464.jpg

それにしても、Brass Buttonsってのは、どうしてこんなに死にたくなるのでしょうかね。何度聴いても、そのたびに死にたくなります。生きていることが正しくないように思えてくる歌です。Brass buttons, green silks and silver shoes/Warm evenings, pale mornings and bottle of blues.このラインがいけないのでしょうね。暖かい夕べ、蒼白の朝、憂鬱のつまったボトル、と来れば、あとは首をくくるか頭を吹き飛ばすぐらいしか、やることはないでしょう。

◆ ウィルソン・ブラザーズのAnother Night ◆◆
ほかにウィルソン・ブラザーズのAnother Nightもアルバムを丸ごと載せています。出来がいいのは半分ぐらいですが、アルバムの半分も聴けるなら上々なのはご存知の通り。

タイトル・チューンはたいしたものではないので、YouTubeで十分でしょう。

ウィルソン・ブラザーズ Another Night


つぎはトッド・ラングレンのCan We Still Be Friendsのカヴァーです。



トッドのオリジナルよりポップで軽いレンディションで、これはこれでよく聴きました。トッドのオリジナルももちろんよく聴きましたが。Yeah, we've been through hell together!

トッド・ラングレン Can We Still Be Friends


いままでだれにもいったことがありませんが、この曲のインストゥルメンタル・ブレイクは、ブライアン・ウィルソンのGod Only Knowsへのオマージュだと信じています。

非常に出来のいい曲のひとつは、スティーヴ・ルカサーのギターが癇に障るのが珠に瑕のこの曲。

ウィルソン・ブラザーズ Take Me to Your Heaven


わたしはギター・オン・ギターのファンではありますが、こういう高音でキンキンいうのが二倍、三倍になっても不愉快さが倍増、三倍増するだけです。子どもっぽくて、馬鹿っぽくてやりきれません。ドラムもスネアのチューニングが異常に低くて、あ、あいつだ、とすぐにわかります。わたしが嫌いなナッシュヴィルのドラマー、一時期、ディラン・セッションの常連だったあいつです。

最上の曲を自前サンプルにします。

サンプル The Wilson Brothers "Ticket to My Heart"

ドラムとギターがちがうプレイヤーだったら、最暗黒の70年代末期を代表するアルバムといいたくなるところですがねえ。惜しい。いや、それほど惜しくもないですがね。あくまでも、なにも聴くものがなかった時代に楽しんだアルバムというだけで、たんなる「繰り上げ当選」です。不毛の時代にはちょっと毛が生えていると豊穣に見えたのです。

もう一枚、チェット・アトキンズのChet Atkins in Hollywoodもアルバム丸ごとプレイヤーにドラッグしてありますが、詳細については他日に譲ります。なんだかものすごい脱力感で、しばらくレギュラー・プログラムには戻れず、与太話とサンプルでしのがねばならない日がまだまだありそうな気がするのです。

スティル写真物語、グラム・パーソンズ、ウィルソン・ブラザーズ、その他の無駄話_f0147840_064060.jpg
ハリウッド&ヴァインにはキャピトルの本社、キャピトル・タワーがある。RCAがよくこんなフロント・カヴァーのLPをリリースしたものだ。このアルバムがリリースされた1959年にはまだキャピトル・タワーは建っていなかったのかと思い、確認したが、すでに56年に竣工していた。ヴァイン・ストリートは丘に向かっていて、その右手にタワーがあるから、この写真はタワーに背を向けて撮られたらしい。それでRCAとしてはOKか?



metalsideをフォローしましょう


グラム・パーソンズ The Complete Reprise Sessions
Gram Parsons "Complete Reprise Sessions"
Complete Reprise Sessions


The Wison Brothers - Another Night
ウィルソン・ブラザーズ「アナザー・ナイト」
アナザー・ナイト

チェット・アトキンズ Chet Atkins in Hollywood
Teensville / Chet Atkins in Hollywood
Teensville / Chet Atkins in Hollywood
by songsf4s | 2010-11-13 23:56