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リー・タマホリ監督『マルホランド・フォールズ』(邦題・狼たちの街、1996年) その1

シリアスな映画を見て分析するのは「獲得形質」みたいなもので、本性ではないから、二本もつづけるとくたびれてしまいます。そのまえの怪談というのもあまり笑いがなく(ホラーは馬鹿笑いするものがあるが)、三木のり平のように「社長、今夜はひとつパアーッと」なんていいたくなります。

いきなり盛り上がるアクション映画なんかがいいなあ、と思って記憶まさぐると、一発で覚えたテーマ曲が浮かんできました。曲の頭がきれていますが、ほかに適当なクリップがなかったので以下を。

デイヴ・グルーシン マルホランド・フォールズのテーマ

(このFBI捜査官は、あとでニック・ノルティーにブラック・ジャックで半死半生の目に遭わされる。ズート・スティックも怖いが、いきなり出てくるブラック・ジャックはもっと怖い)

紹介もなにもなしでいきなりですが、映画のエンド・タイトルから切り取った同じ曲をサンプルにしました。近ごろのものは映画から切り出しても、悪くない音質です。

サンプル Dave Grusin "End Credits from Mulholland Falls"

オールドタイマーの観点からは、80年代からこっちの映画音楽は、挿入曲だけが楽しく、スコアはあまり面白くなくなっていくのですが、この映画はめずらしくスコアが気に入りました。

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単独で聴いてもすばらしいのですが、ハスケル・ウェクスラーの絵と一緒だと(もちろん、音と絵のすり合わせは、双方の編集者たちの手腕にも左右される)、もっと気持がいいのです。とくに最初にこの曲が登場するところはうなりました。

ご注意申し上げておきますが、以下のクリップの冒頭に出てくる証拠物件の8ミリ・フィルムにはかなり露骨なベッド・シーンがあります。あとでこの物語の全体の構図がここに提示されていたことがわかるようになっていて、わるくない構成なのですが。

マルホランド・フォールズ(邦題『狼たちの街』)冒頭部分


シカゴから出張ってきたギャングをぶっ叩いて、「マルホランド・フォールズ」に連れて行くまでのテンポのよさ! アクション映画の愉悦ここにあり。

「LAには組織犯罪はいらない。シカゴに帰るんだな。マルホランド・フォールズを忘れるなよ」と虫の息のシカゴ・ギャングを脅した直後に、絵より先に音だけでオカマ声のHarbor Lightsが流れて、エアロン・ネヴィルみたいじゃん、と笑って、顔が見えるとやっぱりエアロン・ネヴィル本人なので、また笑いました。ビング・クロスビーなどの古いヴァージョンを再利用するのではなく、新たに録音するのも、それはそれでひとつの行き方だと思います。

この酒場のシーンが終わって、また車のシーンになると、こんどはテーマと同じメロディーのスロウなヴァリアントが出てきますが、このあたりの緩急もじつにけっこうで、ハスケル・ウェクスラーの流麗な移動撮影と協力して、渋滞なく、気持よく話を進めるのに寄与しています。映画はこうありたいものです。いや、このあとの死体はすんげえものなので、気持悪いのですが。

◆ 地面にめり込んだ死体 ◆◆
さて、順序が逆になったというか、アヴァン・タイトルのようにはじめてしまったので、ここらで順序立てます。

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『マルホランド・フォールズ』は、時は1953年、場所はLA、LAPDのなかの独立愚連隊のようなチーム「ハット・スクォド」(実在した)が、奇怪な事件を解決する物語です。

チーフは演じるのはニック・ノルティー。この俳優のものならなんでも見ますが、撮影監督はハスケル・ウェクスラー(ウェクスラーが撮ったものとしては、当家では過去に『夜の大捜査線』を取り上げている)なんだから、見て損のあるはずがない保証付きの映画です。

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郊外の造成地で若い女の死体が発見され、ニック・ノルティーたちが出張って行きます。文字で読むのもお嫌でしょうが、こんな会話が交わされます。

「これだけガイシャを地面にめり込ませられるほど重い機材がここらにあるのか?」
「ローラーかな」


また、あとでその場にいなかった人間に向かって、刑事はこういいます。

「俺たちは女の死体を見つけたワケよ。で、こいつが30ピースに分解されていてな、拾い集めることさえできないとくるんだ」

というわけで、崖などないところに、とんでもなく高い崖から飛び降りたような死体が発見され、チーフのニック・ノルティーはその顔を見て愕然とします。親しい女(ジェニファー・コネリー)だったのです。

この事件に関連して、被害者の女性が写されたフィルムがニック・ノルティーのもとに送りつけられます。そこにはパーティー、軍人たち、原爆実験、病室の患者、そしてどこかのベッドルームの男女などが脈絡なく捉えられています。

◆ ハット・スクォド ◆◆
これでだいたい、謎解きの材料はそろっているといっていいほどで、この8ミリに添って映画は展開していきますが、そのあたりは次回に先送りにします。

「ハット・スクォド」というのは、40年代から50年代にかけてLAPDにじっさいにあったチームで、後年、さまざまなフィクションの材料になっています。映画では『LAコンフィデンシャル』に登場したならず者チームがハット・スクォドを元にしています。もちろん、ジェイムズ・エルロイの原作にも登場します。

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ハット・スクォドは対組織暴力部隊として発足し、戦中から戦後にかけてブーム・タウンとして沸き立ったLAに橋頭堡を築こうと、他の都市からやってくる先兵たちを締め上げ、LAから追い払うことを使命としました。

よそ者でしかも犯罪者だし、加えて、法廷に引きずり出すことは目的ではなく、心胆さむからしめて、二度とLAには行きたくないと肝に銘じさせることが目的なので、法規逸脱は日常茶飯事、これほどアクションものの主役にふさわしい素材もそうはないでしょう。ハット・スクォドのダーティーさにくらべたら、ダーティー・ハリーはクリーン・ハリーです。

「マルホランド・フォールズ」というタイトルは、上掲のクリップに描かれたように、LAの西北の丘陵地帯を走る道路、「マルホランド・ドライヴ」から来ています。デイヴィッド・リンチにそのものズバリ『マルホランド・ドライヴ』という映画があるのはご存知でしょう。

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上掲クリップにあったように、ギャングをこのマルホランド・ドライヴに連れて行き、「逆落とし」すなわち「フォール」させるので、「マルホランドの滝」と呼んでいるというしだい。

このときの会話が笑えます。

ギャング「まさか、そんなことができるはずがない。ここはアメリカだ」
刑事「(笑いながら)ここはアメリカじゃない。LAだ」


ギャングっていうのは、やっぱり法律が自分を守ってくれると信じて悪事をしているんですね。法律を無視する法執行者という存在は、彼らにとっては悪夢なのでしょう。まるでlicense to killです。


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"(The) Ventures in Space"のフロント・カヴァー。マルホランド・ドライヴで撮影された。

そして、この怖いものなしのハット・スクォドが、思わず「こいつは相手が悪い」(We're in troubele)といった難敵に挑むのが『マルホランド・フォールズ』という物語です。以下、次回に。


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by songsf4s | 2010-11-06 23:56 | 映画