和風ハロウィーン怪談特集3 小林正樹監督『怪談』より「耳無し芳一の話」(東宝、1964年) その1

小林正樹監督の『怪談』は、今回の怪談特集で、唯一、公開のときに劇場で見た映画です。

子どもがよくこんな映画を見に行ったものだと思いますが、大作とプログラム・ピクチャーなどといった区別をしていなかったので、「いつもの東宝映画」のつもりだったのだろうと思います。つまり、「怖い話」という意味で、『マタンゴ』『ガス人間第一号』の同類と思っていたにちがいありません!

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小林正樹監督の『怪談』は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の短編四編を選んで映像化したオムニバスです。三時間の大作ですが、なかでも「耳無し芳一の話」はいちばん長く、ほとんどふつうの映画と同じほどの長さがあります。

◆ 滅亡のノスタルジア ◆◆
耳無し芳一の話というのは、どなたもご存知と仮定していいのだろうと思うのですが、記憶を新たにするという意味で、映画版を元に、できるだけ簡単にシノプシスを書いてみます。

平家が滅んだ壇ノ浦の近くの赤間が原(原作では赤間ヶ関)の、平家の人びとを弔うために建立された阿弥陀寺(現在の赤間神宮)に、芳一という盲目の琵琶法師が住んでいました。映画では説明されませんが、ハーンの原作では、芳一の琵琶と語りの才能はすばらしかったとされています。

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ある夜、和尚たちが通夜で寺を留守にしているとき、芳一は未知の侍のおとないを受け、近くの館で、わが殿のために琵琶を弾じてほしいといわれて出かけていきます。

目の見えない芳一は、そこは貴人の屋敷だと思い、心を込めて平家の話を語ります。翌る晩もまた迎えが来て、芳一はまた壇ノ浦のくだりを弾じ、語ります。

芳一のふるまいをいぶかしく思った和尚は、寺男たちに芳一のあとをつけさせ、安徳天皇や平家の武者を祀った墓所で、芳一がひとりで琵琶を弾いているのを見つけます。

これは平家の亡霊たちに魅入られたのだ、このままでは芳一は取り殺されてしまう、と危ぶんだ和尚は、芳一の全身に護符(いや、原作をたしかめたら、「般若心経」の一節となっていた)を書き、また今夜、迎えが来ても、ぜったいに返事をしてはいけないし、身動きしてもいけない、と固く言い渡して、弔いに出かけていきます。

これであとはクライマクスになるので、とりあえず、このあたりでシノプシスは切り上げます。

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◆ 土間の西瓜 ◆◆
雪女をはじめ、ほかのエピソードは忘れてしまったのですが、小学生のわたしは、「耳無し芳一の話」が怖くて、忘れかねました。

再見してみてまず思ったのは、アクションものでもないのに、小学生がよくこれほど長い映画を最後まで見たものだ、ということです。異様なムードの画面に圧倒されたか、こういう話柄に興を覚えたか、あるいはオムニバス形式なので、ひとつひとつの話は短いおかげか、そんなあたりでしょうか。

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怪談だから当然でしょうが、小林正樹監督、宮島義勇撮影監督、戸田重昌美術監督、青松明照明監督は、リアリズムとは手を切ったところで、なんとも不思議な画面をつくっています。

耳無し芳一のエピソードは、壇ノ浦の海の実写からはじまり、壇ノ浦の合戦のさまを様式的に描いたシークェンスが長々とつづきます。おおいに金をかけた豪華な場面なのですが、正直いって、ちょっと飛ばしたくなります。

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ご存知の方はご存知だが、ご存知ない方もいらっしゃるので贅言を弄する。昔、運動会で「赤勝て、白勝て」などといったが、「紅白合戦」とは源平の戦いから来ている。白旗は源氏、赤旗は平家である。たとえば「白幡神社」だの「白山神社」だのという名前なら、源氏所縁の社であることが多い。そういう関東でのことを敷衍していいのかどうかいくぶんか不安だが、平家の人びとを祀ったのが「赤間神宮」というのも、そういう意味ではないかと想像する。

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絵としては面白いのですが、映画というより日本舞踊でも見ているようで、わたしのように雑駁な人間は、早く物語に入って欲しいと落ち着かなくなります。

平家が滅び、安徳天皇をはじめ、多くの人がここで入水したことがナレーション(仲代達矢)で説明されると、阿弥陀寺の景がはじまります。ここでいきなり出てくる西瓜にギョッとします。

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西瓜の色も、照明も、手間をかけて工夫したのでしょう。とくに象徴性があるとは感じませんが(つまり殺戮の予感といったような意味合い)、強い絵なので、長い壇ノ浦のシークェンスでダレきっていたわたしは、ここで目が覚め、画面に引き入れられました。

◆ 魔物にいざなわれて ◆◆
初見のときとはちがって、いまではストーリーを知っているので、興味はいかにそれを表現するかという点に尽きます。じっさい、色彩も、空間表現も、独特のもので、文字でどうこう言ってもはじまらないような魅力があります。

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舞台劇を連想させる表現ではあるのですが、もちろん、舞台ではこのように自在に場を移動することはできません。頓狂な連想ですが、ふと『バンド・ワゴン』を思いだしました。

あの映画の終盤、舞台のショウ・ナンバーをつないでいくシークェンスがありますが、あれは、舞台の演技を捉えたショットではあるものの、現実には、あのような舞台は組めるはずがありません。背景がどんどん変化してしまうのです。テンポはずっと遅いものの、『怪談』にも、『バンド・ワゴン』のような、「現実には不可能な舞台劇の表現」の味があります。

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砧のステージはずいぶん広かったのだなあ、なんて感心してしまったのですが、じつは撮影所ではなく、飛行機の格納庫にセットを組んだのだそうです。それならこの広さはわかります。

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和尚(志村喬)たちが通夜に出かけた夜、芳一(中村嘉葎雄)は突然、高飛車な声に呼びかけられます。

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甲冑の武士(丹波哲郎)は、わが殿は壇ノ浦の古戦場を訪れ、おまえの上手であることを知って、ぜひにとおっしゃる、館へ来いといいます。かくして芳一は亡霊の群に引き寄せられるのですが、そのくだりは次回に。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……。

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by songsf4s | 2010-10-28 23:58 | 映画