本日も引きつづきディザースター話です。
前回、『ポセイドン・アドヴェンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』のような、災害とも呼べない、小規模な事故では、わたしの好みのディザースターではないということを書きました。どういうのが好きかということを短いリストにすると――。
1 地球規模の大災害であること。
2 じっさいに大災害が起き、人類は絶滅寸前になる。
3 わずかな生存者たちが知恵と勇気で敵対的環境に立ち向かう
ディザースター映画のサブジャンルとして「doomsday disaster」つまり「全世界滅亡ディザースターもの」というのがあるようですが、おおむねそのようなものです。
これに当てはまる映画で目立つものは、近年でいうと、『2012』と『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』の二本しか思いつきません。『日本沈没』(オリジナル、リメイクとも)はかなり近いのですが、日本から脱出さえすれば、文明世界で生活ができるというのが決定的に弱いと感じます。
しかし、『2012』と『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』というのも、ちょっとなあ、です。『2012』は例の「ノストラダムスの予言」にもとづくディザースター映画で、まあ、とにかく、これまでのこの種の映画でいちばん騒々しくて、いちばん忙しくて、いちばん派手であることはたしかでしょう。
『2012』では、地殻変動かなにかで、『日本沈没』のようなことが全世界規模で起こります。世界の国々は秘かに資金を出し合って中国でXXX(人によっては当たり前と思うだろうが、マヌケなわたしは意外に思ったので伏せておく)をつくっていて(やっぱりコストの問題でしょうな!)、これに間に合うか間に合わないかという、イヤな話になります。
大部分の人びとにとっては運と力と努力は関係なし、金と地位がすべてという前提です。いえ、主人公は運と努力をめいっぱい使って特権階級のなかに割り込むのですが、やはり、ひどく後味の悪いものでした。
さらにいうなら、危機に次ぐ危機のジェットコースター・アクションはけっこうなのですが、そりゃねーだろー、という無理矢理の連続で、サスペンスなんかゼロ、ただただ馬鹿笑いしてしまいました。
近ごろは『ダイ・ハード』の3、4をはじめ、アクションものはぜんぜんリアルではない(橋の上から船に飛び乗ったり、くずれた高速道路からVTOLの翼の上に落ちたり)のが流行で、その延長線上といったあたりなのかもしれません。
『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』のほうは、異常気象によってものすごい高潮が起きたあと、こんどは急激な気温低下によって世界中が凍りついてしまう話で、当然、破壊は『2012』より控えめです。カタストロフまでの時間的余裕がないので、特権階級のためのシェルターがないのはけっこうでした。
そして、この二本がともにローランド・エメリッヒ監督なんですね、これが。ディザースター映画に奥行きも味わいもあったものではないから、どうでもいいようなものですが、やっぱりこの人はドスンバタンするだけなのだなあ、と索然とします(ついでにいうと、エメリッヒの『インディペンデンス・デイ』も、『宇宙戦争』パターンのディザースター映画に分類できる)。
結局、どれも帯に短したすきに長し、設定はいいけれど仕上がりはいまひとつであったり、いい映画なんだけれど、好みとしてはもっと破滅の縁までいってくれないとダメ、億単位の人が生き残るようでは破滅とは云えない、などという調子です。
◆ ディザースター作家・小松左京 ◆◆
今日は小説のほうに目を向けてみます。日本でいちばんたくさんディザースター小説を書いた作家は小松左京ではないでしょうか。
ご存知『日本沈没』を書く以前、キャリア初期に、『復活の日』という細菌原因型ドゥームズデイ・ディザースター小説を書いていることはSFファンなら先刻ご承知でしょう。深作欣二監督、草刈正雄主演で映画にもなりました。
もちろん『日本沈没』は典型的なディザースターですし(『第2部』は読んでいないが、ディザースター小説のようには思えない)、やはり映画になった『首都消失』も、変形ディザースターといえるように思います。
(ディザースターとは関係ないのだが、いま著作リストを見ていて、「春の軍隊」を読み返したくなった。リストにはないが、もうひとつ、「お糸」というのは、連作にして欲しくなるようないい設定だった。江戸時代的並行宇宙の羽田空港というのがよかった!)
わたしは一度も小松左京ファンであったことはないのですが、かなりの量を読んでいることに気づき、いま驚きました。「SFマガジン」を創刊号から揃えて片端から読んでいたのだから、まあ、自然にそうなってしまったのでしょうが、しかし、ディザースター好きのせいで、そういう味を求めて手を出していたのかもしれません。
◆ 静かな破滅 ◆◆
小松左京が書いたディザースター小説のなかでいちばん好きなのは『こちらニッポン』(なんだか、記憶では末尾に三点リーダーがついて『こちらニッポン……』だったような気がするが)です。引越のときに手放したか、さっきちょっと探してみても見つからず、読み返さずに書きます。
『こちらニッポン』では、ローランド・エメリッヒ的な、ケレンたっぷりの破壊のかぎりを尽くした破滅はありません。主人公が目覚めたら、どこにも人間がいなかったのです。いえ、野っぱらに放り出されるわけではなく、東京のど真ん中で目覚め、首都から人が消えたことを発見するのです。
わたしはこういう設定だけでもう乗ってしまいます。無人都市と聞いただけで、ぜひ見てみたい、読んでみたいと、ディザースター好きの血が騒ぎます。都市から人が消えるなら、とりたてて破壊などなくてもかまわないのです。いちばん簡単なのは巨大な自然災害などで人をみな殺してしまうという設定なので、破壊ものが多いだけでしょう。
もう記憶が薄れかかっていて、アルジャーノン状態ですが、たしか、ビルの屋上から周囲を見まわして、煙が出ているのを見つけ、そこを目指してすっ飛んでいき、やっと他の生存者を発見、というくだりがあったと思います。
文明と人間の問題を考えつづけた作家の小説ですから、話はそういう線に沿って展開します。現代のインフラストラクチャーは、無人でもしばらくのあいだは自動的に運転される、なんていうのは、はじめて読んだときは、へえ、と思いました。だから、電気もガスも水道もしばらくは使えるのです。
そして、都市には膨大な物資が蓄積されているわけで、当面、生きていくことはできるとわかり、主人公は生存者を求めて東海道を西に向かいます。記憶しているのでは、無線を使って人を見つけたり、連絡を取ったりするところも出てきました。電話は不通になってしまったのでしょう。いまなら、しばらくは使えるかもしれません。
しかし、あの時代はウェブがないので、そのあたりのことは考慮されていませんが、いま、このインフラが消えたらきびしいでしょうね。まあ、当面の生存には差し支えないのですが。だれかが、無線を使ったPCネットワークの構築を考えるかもしれません。どなたか、『こちらニッポン第2部』をお書きになるなら、そのあたりはプロットの眼目になるでしょう。
なんだか、まだなにも書いていないような気がするのですが、時間がなくなってしまったので、今日はただスクリーン・ショットだけをごらんいただき、残りは次回に持ち越しとさせていただきます。
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