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池部良主演、本多猪四郎監督『妖星ゴラス』(東宝映画、1962年) その1

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ちょっと遅くなりましたが、やはり池部良追悼企画もやっておこうと思います。

池部良はどの映画がよかったか、などという話はよそでやっていらっしゃるでしょうから、当家では『乾いた花』も『昭和残侠伝』もさしおいて、とくに名作というわけでもない映画を取り上げることにします。

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いや、箸にも棒にもかからないわけではなく、十分に楽しめる映画です。少なくとも、小学生のわたしは満足した一本、怪獣のレスリングが出てこない(一匹だけのショボイ怪獣は出る!)東宝特撮映画『妖星ゴラス』です。

『妖星ゴラス』トレイラー


◆ ご存知天体衝突もの ◆◆
『妖星ゴラス』の設定はシンプルです。太陽系に向かってくる、大きさ(直径なのか体積なのかは不明だが)は地球の4分の3、質量は6000倍という黒色矮星が発見され、「ゴラス」と命名されます。そして、計算の結果、このままの針路なら、地球に衝突するか、ごく近くを通過することが判明します。

世界各国は利害の対立、軍事的諸問題を乗り越え、資金と技術を集めて、南極に巨大なエンジンを据えつけ、地球全体をひとつの宇宙船として、ゴラスを回避しようとします。話はこれだけのことでして、特撮によってこの巨大プロジェクトを見せるのが、この映画の眼目です。

なんだかありふれた設定だなあ、とお感じになった方もいらっしゃると思います。たとえば、比較的近年では『アルマゲドン』と『ディープ・インパクト』(ともに1999年)というハリウッド製の天体衝突ものディザースター映画がありました。

さらにさかのぼると、『メテオ』(1979年)というのも見た記憶があります。

『メテオ』


どんな話だったか忘れてしまったので、いくつかのサイトでシノプシスを読んでみました。アメリカとソ連が核ミサイルを発射して、「メテオ」(meteorの仮名書きとしては「ミーティオ」あたりが妥当だろうが)すなわち隕石を破砕しようとするものの、東西両陣営の政治対立がからんで困難を極める、というプロットのようです。

『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』が公開されたころ、だれか物理学者が、地球に向かって来る彗星や小惑星を破砕した場合、被害が大きくなることはあっても、抑制することはできない、と発言したのを記憶しています。

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『ディープ・インパクト』のエンディング。小惑星を破砕して万々歳というシーン。あの破片はどこへ向かっているのか?

そりゃそうでしょうね。マグナム弾で撃たれるか、散弾銃で撃たれるかのちがいにすぎず、弾丸が飛んでくるのは防げない、というのは、中学の物理で落第点をとりそうになったわたしでも、直感的にわかります。選択肢は、蒸発させるか、コースを曲げるか、こちらがよけるか、この三つしか思いつきません。

つまり、『妖星ゴラス』はon the right trackだけれど、『メテオ』『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』は失格という、意外な判定が科学的に下されるのではないでしょうかね。あらあら。

いちおう、爆破によってコースを変えるのだ、細かい破片による被害はやむをえない、としているものもありますが、破砕せずにまるのまま衝突したときと被害の大きさは変わらないのではないでしょうか。

『アルマゲドン』トレイラー


『アルマゲドン』の冒頭で、先触れの大流星雨が降り注ぎ、大きな被害が出ますが、巨大隕石なり小惑星なり、さらには黒色矮星(恒星がエネルギーを失って縮退し、電磁波を発しなくなって、電波望遠鏡では観測できない状態になったもの、なんて説明でいいのだろうか? どうであれ仮説にすぎず、観測されたことがあるわけではないそうな)なりを破砕しても、結局はこのような流星雨を引き起こすだけでしょう。「まあ、映画だからな」とリラックスして、大破壊場面を楽しむにかぎります。

◆ 石井歓のスコア ◆◆
映画の話が長引くと、音楽にふれる余裕がなくなる恐れがあるので、先に書いておきます。『妖星ゴラス』のスコアは石井歓によります。石井歓の父は舞踏家の石井漠だというので驚きましたが、まあ、それが音楽の出来に関係するわけではありません。

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石井歓の音楽は『妖星ゴラス』しか知りませんが、伊福部昭の映画音楽スタイルからそれほど遠くない、メインストリートを行く勇壮なオーケストラ曲がいくつかあって、なかなか楽しめるスコアです。

サンプルは、ひとつはタイトルの直後、白川由美と水野久美が、夜、海岸をドライヴしている場面で、ラジオから流れてくる曲です。

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曲のタイトルは「カーラジオ」となっているが、画面に出てくるのは車につまれたトランジスター・ラジオである。昔のトランジスター・ラジオは、カメラと同じように、こういう堅牢な革ケースに収まっているものだった。

「現実音」だから、ストレートなラウンジ・ミュージックで、こういうのがあるところが東宝特撮映画のスコアのうれしいところです。『妖星ゴラス』にはフルスコア盤があるので、以下のタイトルは正式のものですし、ステレオです(映画はモノーラル)。

サンプル 石井歓「カーラジオ」

すごく短いのが残念で、せめて一分ぐらいだったらよかったのにと思います。もう一曲はいかにも東宝特撮らしいオーケストラ曲です。

サンプル 石井歓「ジェットパイプ点火」

まだ面白い曲がありますが、ここまでちょっと書いた感じでは、『妖星ゴラス』は二回に分けることになりそうなので、今日は以上の二曲のみにしておきます。

◆ 破滅という名前のユートピア ◆◆
わたしはディザースター映画(かつて日本では「パニック映画」と呼んでいた)のファンです。当家では、最近の当たり前の映画は取り上げない方針ですが、見るだけはかなり見ています。近ごろでは『2012』が派手でした。まあ、あそこまでいくと、それは無理でしょうと(あのジェット機の離陸シーン!)、東宝特撮とは違う意味で笑ってしまいますが。

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『タワーリング・インフェルノ』が現代的なディザースター映画の概念を確立したといえるでしょうが、見ようによっては、東宝怪獣映画というのは、ディザースター映画の一サブジャンルともいえます。絵柄もしばしば似たようなものになりますしね。

『タワーリング・インフェルノ』がつまらないとか、嫌いだとかいうことはないのですが、ディザースター映画としては、あれでは不十分です。いかに大きかろうが、要するにひとつのビルの中の話、外の世界はなにも影響を受けません。

わたしが好むのは、できれば全地球規模、小さくてもせめて一国の全体が影響を受けるような災害(『日本沈没』)を前提とした映画です。そういう定義では、火山の爆発をあつかったもの(たとえば『ダンテズ・ピーク』)も、やはり地域が限定されることに不満を感じます。

なぜディザースター映画を好むのか、まじめに考えてみました。結論は「日常生活のモラトリアムまたは終焉」でした。

巨大な隕石が地球に向かっているとしたら、もはや勉強も仕事も資産も貯蓄もあったものではありません。日常は、すくなくとも停止されます。防ぎきれなければ、ラリー・ニーヴンとジェリー・パーネルの『悪魔のハンマー』(そう、小説もこの手のものは読むのです)のように、それまでの世界がチャラになってしまった、「ザ・デイ・アフター」の新しい世界のなかで生きる道を見つけることになります。

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大火球(「ボライド」「爆発流星」ともいう)が海に落下して、(たぶん)水蒸気爆発も起こす。その大津波が世界の都市を襲う。いずれも『ディープ・インパクト』より。

結局、わたしはこういうことが好きでディザースター映画ファンになったのだと思います。子どものころ、台風が接近して、ほんの一、二時間授業を受けただけで帰宅するなどということがあると、妙に浮き浮きした気分になりましたが、あれをフルサイズに拡大すると、わたしの「ずっとこれを待っていたぜ、うれし楽しの地球滅亡」になるような気がします。要するに、ふつうの日常のガチガチに固体化された空気が嫌いなのです。

さらにいうならば、『妖星ゴラス』のなかで水野久美が云うように「いっそのことゴラスが地球にぶつかって、みんな死んじまったほうが幸せなのかもしれないわ」という気分もチラッとあるようです。ひとりで割を食うのはゴメンですが、だれも逃れられない災厄なら、「それも悪くない」のではないでしょうか。

「日常」というのは、だれか不運な奴が貧乏くじを引いて、ひとりで割を食うことであり、地球規模の大災厄というのは、だれも割を食わずにすむユートピアだと、そのように感じるのです。

むろん、『ディープ・インパクト』や『2012』のように、特権階級や金持ちが生き残る確率は高いのですが、まあ、この世に完璧などありうべくもないので、それくらいの欠陥はやむをえないでしょう。

今日はディザースター映画だらだら考察で終わってしまったので、もう一回『妖星ゴラス』をつづけさせていただきます。


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by songsf4s | 2010-10-16 23:58 | 映画・TV音楽