- タイトル
- Blue Moon
- アーティスト
- The Ventures
- ライター
- Lorenz Hart, Richard Rodgers
- 収録アルバム
- The Colorful Ventures
- リリース年
- 1961年
- 他のヴァージョン
- Julie London, the Marcels, Elvis Presley, Frank Sinatra, Bob Dylan, Bruce Johnston, Cliff Richard, Ten Tuff Guitars, Percy Faith, Paul Weston, Jimmy McGriff, Jorgen Ingmann, Santo & Johnny, Leroy Holmes, Sy Zentner, Sam Cooke
当地は今日も猛暑で、明日は仲秋の名月がきいてあきれます。しかし、仲秋の名月だからBlue Moonを、という発想自体が和洋折衷で、かならずしも当然とは云えないので、まあ、どうでもいいかあ、です。
それにしても、この暑さはどういうのでしょうか。天気予報では明日はさらに気温が上がるそうで、異常といっても限度があるだろう、Endless Summerなんてアルバム・タイトルならけっこうかもしれないけれど、現実の気候としてはぜんぜんけっこうじゃないぞ、です。
◆ 初期ヒット・レシピ ◆◆
歌もののBlue Moonはもう1ヴァージョン取り上げようと思っていますが、今日はインストを看板にしました。
ヴェンチャーズのBlue Moonは、4枚目のアルバム、The Colorful Venturesのオープナーであり、また、ドールトンからの6枚目のシングルとしてリリースされました。
ファンならどなたでもご存知のように、Walk Don't Runの大ヒットにあやかって、ヴェンチャーズはその後、Perfidia、Lullaby of the Leavesと、同じようなアレンジ、サウンドのシングルをつづけます。
どういうサウンドだなどと言葉で説明してもしかたないので、クリップをどうぞ。いや、いくらなんでもWalk Don't Runは省きましたが。
The Ventures - Perfidia
The Ventures - Lullaby of the Leaves
これまたファンの方ならご存知のように、かつてのツアーでは、Walk Don't Runからはじまって、この初期のヒット3曲を、ボブ・ボーグルがギター、ノーキー・エドワーズがベースと楽器を持ち替え、メドレーでやっていました。おかげで、ボブ・ボーグルはギタリストとしては困った腕の持ち主だということがよくわかったのですが!
◆ 四匹目のドジョウ ◆◆
Blue Moonは、このようなフォーマットに忠実にしたがった、ヴェンチャーズの最後のシングルといえるのではないでしょうか。ホット100にかすりもしないとあっては、もう同じフォーマットをつづけるわけにはいかなかったでしょう。
しかし、この時期のヴェンチャーズは非常にいいメンバー(もちろん、ツアー用ヴェンチャーズではなく、スタジオ録音メンバーのことである)で、つねにきちんとしたプレイをしていて、Blue Moonもハイ・レベルのパフォーマンスです。
サンプル The Ventures "Blue Moon"
この時期のヴェンチャーズのメンバーをどのように推定しているかというのは、すでに何度も書いていて、また書くのは恐縮至極ですが、話の運びの都合なので並べておくと、リード・ギター=ビリー・ストレンジ、リズム・ギター=キャロル・ケイ、フェンダー・ベース=レイ・ポールマン、ドラムズ=ハル・ブレインです。Surfin' USAのころのビーチボーイズと同じです(いや、そういう言い方をすると、「同じバンド」はたくさんあるのだが)。
◆ ハル・ブレインの署名 ◆◆
ヴェンチャーズのBlue Moonでいちばん興味深いのは、ハル・ブレインのドラミングです。基本的にはWalk Don't Runのパターンを踏襲しているのですが、そこは小さな工夫、大きな親切の人ですから、ちょっとだけパターンに変化を加えています。
いまさらWalk Don't Runでもないだろうと思ったのですが、やっぱり話の都合上、持ちださないわけにはいかないようです。
ライド・シンバルの叩き方に工夫があって、なかなか好ましいドラミングですが、それはさておき、左手の基本パターンは、2&4(2拍目と4拍目、つまりバックビートないしはダウンビート)のうち、2は4分ではなく、8分2打に分解し、4はただヒットするのではなく、リム・ショット(リムすなわちスネアドラムの縁とヘッドを同時に叩く)を使っています。この工夫が大ヒットに大きく貢献したとわたしは考えています。小学校六年のとき、はじめてドラムセットにすわって、まずリム・ショットをやってみましたものね。
さて、Blue Moonです。
奇数小節では、ハル・ブレインはWalk Don't Runと同じパターンを使っています。2は8分2打に割って、4はリム・ショットというパターンです。しかし、ここで半ひねりが入ります。偶数小節については、2の8分2打分割は同じですが、4はヒットせず、「ロール」させているのです。
ロールというのは、ふつう、1小節とか2小節とか、さらには4小節とか、長くやるもので、短くてもせめて2分音符分ぐらいの長さで、通常は両手でやるものです(片手ロールの名手はバディー・リッチ)。
しかし、ハル・ブレインは、ときおり、バックビートや、フィルインの最後の一打などで、ほんの一瞬の短いロールをやります。このプレイはハルの専売特許といえるほどで、他のプレイヤーとなると、ジム・ゴードンの一度きりのプレイぐらいしか知りません。
音が悪くてわかりにくいのですが、ハルがこのプレイを多用した曲として、すぐに思い浮かぶのはサム・クックのAnother Saturday Nightです。
この曲はコーラスから入っていますが、そこからヴァースへの移行部分でのフィルインの最後で、まず最初の「一瞬ロール」をやっています。そのあとも、タムタム、スネアおりまぜて、しばしばフィルインの最後の一打などを、ヒットせずにロールさせています。
すぐに思いつく例としては、ほかにママズ&パパズのGlad to Be Unhappyの、ファースト・ヴァースとセカンド・ヴァースのつなぎ目、ジョー・オズボーンのベース・ブレイクの直後、ハルが戻ってくる最初の一打が、やはりスネアの一瞬ロールとキックとのコンビネーションです。
涼しくなったら、改めてハル・ブレインの特集をやろうと思っているので、細かいことはそのときにということにします。とにかく、この「一瞬ロール」はハル・ブレインぐらいしかしないめずらしいプレイなのです。
言い換えるなら、この「一瞬ロール」が出てくるもので、50年代終わりから70年代半ばぐらいまでのハリウッド録音のトラックなら、ハル・ブレインのプレイとみなしても、100回のうち99回ぐらいはセーフなのです。
いま、事細かに書いてしまい、ここまで書いたら、あとでハル・ブレイン特集をやるときに困ると思い、全部削除しました。さらにくわしいことは、いずれまた、ということに。
とにかく、ヴェンチャーズのBlue Moonは、ハル・ブレインの奇妙なプレイがおおいに楽しめるし、また同時に、ヴェンチャーズの盤を録音していたプレイヤーはだれだったのか、という疑問を解決するうえで、重要なヒントになるのです。
◆ ひとりか二人か? ◆◆
最後に、ギターについてちょっとだけ。じつは、リード・ギターがひとりなのか、ふたりなのか、よくわかりません。ひとりでもこういうプレイは可能ですが、どちらかというと、二人でやっているのではないかという気がします。
二人でやる場合、低音弦のメロディーを弾くのは、ふつうと同じだから面倒なことはないでしょうが、高音弦をストロークするのは、一瞬、遅らせなければいけないので、面倒だろうなあ、と思います。ひとりでやったほうが簡単のような気がしますが、何カ所か、微妙にタイミングがずれていると感じるところがあるのです。
二人でやったとしたら、その理由はなんでしょうかねえ。コピーしてみないとわかりませんが、じっさいにはひとりではできない装飾音(メロディーを弾くポジションとはかけ離れたところでのオブリガート)を加えながら、ひとりでやったように聴かせたいため、いや、考え過ぎかも!
◆ リロイ・ホームズ ◆◆
今夜のもう1曲のBlue Moonは、悩んだすえ、リロイ・ホームズ盤にしました。
サンプル Leroy Holmes "Blue Moon"
リロイ・ホームズは、当家では過去にアル・カイオラとリズ・オルトラーニのHoliday on Skisの作曲者としてご紹介していますし、ジェイムズ・ボンド・シリーズの『サンダーボール作戦』の挿入曲の非常に魅力的なカヴァーSearch for Vulcanも取り上げています。
リロイ・ホームズは映画音楽のカヴァー・アルバムをいくつか出していますが、主な仕事は、MGMやUAのハウス・アレンジャーだったようです。映画会社の子会社であるレコード・レーベルで働いていた結果として、映画音楽のアルバムを数枚リリースしたのでしょう。したがって、録音はハリウッドが多いようですが、アル・カイオラとリズ・オルトラーニの共演盤の録音はNYのようで、UA時代には東海岸でも録音していたと思われます。
リロイ・ホームズのBlue Moonは、きわだった特徴のあるヴァージョンではなく、良くも悪くも「ラウンジ・ミュージック」、いや、昔の呼び名で「ムード・ミュージック」というほうがピッタリくるようなサウンドです。耳障りなところがないので、BGMには向いています。ただし、それ以上のものは求めても無意味です。ムード音楽なのですから!
Colorful