先日、ギター・オン・ギター6 チャーリー・バード、タル・ファーロウ、ハーブ・エリスのSo Danco Sambaで、バッキンガムズのMercy, Mercy, Mercyのクリップを貼りつけました。
だれも弾くフリすらしていないひどい代物で、コードぐらい押さえりゃいいじゃないか、と腹が立ちました。そのときは客をナメているだけだろうと思ったのですが、あとからちょっと考えをめぐらせてみました。
他のバンドと同じく、バッキンガムズはスタジオではプレイしていなかったのですが、それでも、ツアーに出るときには、当然、新しいシングルのリハーサルはするでしょう。そこまでいけば、ギターもコードを知っているし、ベースもラインを覚えているはずです。
しかし、あのクリップはテレビ出演時のものなので、ツアーのためのリハーサルはまだしていなかったのではないでしょうか。だから、まだコードすら知らなくて、ただ漫然とフレットを握るだけになってしまったのかもしれない、なんてことを考えました。
でもねえ、曲はMercy, Mercy, Mercyですからねえ。ブルースみたいなもので、コード進行がどうしたとかいうご大層な曲じゃないわけで、キーさえわかれば、あとはコード・チャートすら不要でしょう。そんな高校生にもできることすらしない連中だったわけで、なにをかいわんやです。
まったく芸能ビジネスというのは、旨みも多いのだろうけれど、こういう連中に、「時間厳守」「笑顔を忘れるな」「人前で唾を吐くな」だのと、三歳児をしつけるようなことを毎日いいつづけ、ものごとを動かしていくというのは、じつにもう賽の河原の石積みのような難行苦行だろうなあと思います。
これだから、あの世界には美談があまりないのも無理はないと思います。ルー・アドラーが、ママズ&パパズが壊れてしばらくたって、ホームレスのようになっていたデニー・ドーハティーを見つけ、まっすぐにして、とにかくスタジオに押し込んでアルバムをつくった、なんていうのは美談に繰り込んでいいのだろうと思います。飲んだくれている昔のスターを見つけたら、気づかれて、小銭をせびられる前に逃げ出すのがふつうでしょう。
◆ 相方なしのギター・オン・ギター ◆◆
なにごとも適当なところで終わると味がありますが、今夏のようにくどいと、ゆく夏を惜しむ、なんて言葉も出なくなります。「ギター・オン・ギター」シリーズは、そろそろくどくなりつつあるので(というか、早い話が、書いている当人が飽きてきた)、予定したものをいくつかあまし、今回でいったん終わることにします。残りは、またそういう気分になったときに聴くことにします。
Eat a Peachの録音のとき、ドゥエイン・オールマンが急死したため、オールマン・ブラザーズのギター・プレイヤーはディッキー・ベッツひとりになってしまいます。これで終わりにならなかったところから、オールマンズのギター・オン・ギター・スタイルの裏側にあったのは、ドゥエイン・オールマンではなく、ディッキー・ベッツの好みだったのではないかと推測することができます。
曲作りからもそれがうかがわれるように思います。ディッキー・ベッツはポップ指向があったと思われるのです。それが、それまでのオールマンズとはずいぶん隔たった印象のあるRamblin' Manと、そのヒットに端的にあらわれたと感じます。
オールマン・ブラザーズ・バンド "Ramblin' Man"
前回聴いたBlue Skyと同様の行き方で、イントロ、オブリガートはギター・オン・ギター、最初のギター・ブレイクはふつうのソロという構成です。ひとりになっても、スタイルは変えていないのです。面倒くさがらずに、ひとりでオーヴァーダブをしたわけです。
すこしだけちがうのは、二度目のギター・ブレイクは、いわゆるソロ、インプロヴではなく、数本のギターをからませた、アレンジされたものになっていることです。ドゥエイン・オールマン生前よりも、コントロールの度合いが進んでいるのです。まあ、ひとりでやるほうが、こういうことは揉めず、簡単に話がまとまるのかもしれませんが。
◆ インスト・ギター・オン・ギター ◆◆
Ramblin' Manが収録されたアルバム、Brothers and Sistersにはもう一曲、ギター・オン・ギターのトラックが収録されています。こちらはインストです。
サンプル The Allman Brothers Band "Jessica"
ディッキー・ベッツは数回にわたってオーヴァーダブをしたと思われます。やることは規定演技ばかりですから、想像するだに面倒で、退屈で、こういうサウンドが好きじゃないとできないだろうと思います。
Brothers and Sistersは、Ramblin' Manがヒットしたおかげもあって、オールマンズとしてはもっとも世に知られたアルバムでしょう。当時はわりによく聴きました。
しかし、このへんが微妙なところなのですが、つぎのアルバムのときには、もうこのバンドには関心がありませんでした。シングル・ヒットがなかったということもありますが、それ以前にBrothers and Sistersというアルバムに奥行きがなく、飽きてしまったようです。
ウソかホントか、リトル・フィートのローウェル・ジョージが、グレイトフル・デッドのShakedown Streetをプロデュースしたとき、どうやったらシングルをヒットさせられるのだろうと、ジェリー・ガルシアとボヤきあったそうです。そりゃ、トップ40ヒットが欲しい気持はわかりますが、デッドが末永く愛されたのは、柄じゃないのにポップに傾斜するなどという愚かなことをしなかったからではないでしょうか。
◆ こっちの空も青い ◆◆
最後に、オマケといっては失礼かもしれませんが、面白いと思ったのは一曲だけで、単独では記事にならないレーナード・スキナードのクリップを加えておきます。
レーナード・スキナード Sweet Home Alabama
ラジオでイントロを聴いた瞬間、いいギター・サウンドだなあ、と感心しました。こういう路線で押してくれればファンになったと思うのですが、曲の出来もよく、ギターの重ね方も楽しい、なんていうのは、このSweet Home Alabamaだけだったように思います。ニール・ヤングの呪いでしょう! いや、ロック・バンドというのは、工夫のない、無考えなヘヴィー・サウンドという盆地へと安易に流れて、そこに沈殿してしまう性質を本来的に備えているのかもしれません。
それでは次回はまた映画に舞い戻るとします。
オールマン・ブラザーズ Brothers and Sisters
Brothers and Sisters
レーナード・スキナード Second Helping
Second Helping (Reis)