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ギター・オン・ギター5 トッド・ラングレンのLove of the Common Man
タイトル
Love of the Common Man
アーティスト
Todd Rundgren
ライター
Todd Rundgren
収録アルバム
Faithful
リリース年
1976年
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時系列でいえば、これ以前に、へえ、と思ったギター・アンサンブルはあるのですが、ちょっとジャンプして1976年のトッド・ラングレンのトラックに進みます。

時系列順序にしたがって取り上げた、前回のモビー・グレイプのRounderが、「ギター・オン・ギター」サウンドとしては中途半端というか、不完全燃焼気味で、今回はこれ以上のものはヴェンチャーズのLolita Ya Yaしかないという、歌伴のギター・オン・ギターとしては最高峰、ほとんど完璧な出来のトラックを取り上げたくなったのです。

先日のアンドルー・ゴールドのIn My Lifeの記事で、トッド・ラングレンの完コピ・アルバムであるFaithfulにも言及しましたが、そういうトラックはLPのA面に集めてあり、B面はふつうの曲になっています。そのFaithfulの、べつに面白くもないB面における鶏群の一鶴、一曲だけ目立っていたのがLove of the Common Manです。

サンプル Todd Rungdren "Love of the Common Man"

2本のエレクトリックによるハーモニクスを使ったイントロ・ギター・リックも、派手ではないものの、さすがはトッドというアイディアで、これはまじめにつくった、いいトラックかもしれないと、瞬時にリスナーを身がまえさせます。

アコースティック・リズムを使ったヴァースのコードもけっこうです。そして、ヴァースの最後、Too late tomorrow/And everyoneのところで、左右に配した複数(右2、左1か?)のエレクトリックによるオブリガートが入ってくるところで、これだ、この音だ、と思います。

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LPを手放してしまったので、記憶で書く。たしか、デザインはこのように90度傾いていた。盤の取り出し口がそういう位置にあったのである。Faithfulの古いアメリカ盤LPをお持ちの方がいらしたら、確認してご連絡をいただけたらと思う。また、最近は文字の比率を大きくしたCDがあるようだが、LPはこれくらいの比率だったと思う。ゲーリー・バートンのDusterもそうだが、文字サイズの比率だけいじるようなこそくなデザイン変更は醜悪だ。そんなことをするなら、デザインを一新するほうがいい。まあ、まもなく盤自体が消えるのだろうから、どうでもいいが。

こういう展開できたのだから、間奏も当然、複数のギターによるもの以外にはありえません。きちんとデザインしたうえで、きれいに重ねた、お手本のようなギター・オン・ギター・サウンドです。ヴェンチャーズのLolita Ya Yaにまったく引けをとりません。まあ、あちらは全編がギター・オン・ギター、こちらはオブリガートと間奏だけなので、技術難度も、かけた手間もちがいますが、音の手ざわりは同質のすばらしさです。

◆ マルチ・トラック・レコーディングの血 ◆◆
トッド・ラングレンは、初期に、Runt: Ballad of Todd RundgrenとSomething/Anything?という二作で、多くのトラックをほとんどひとりで録音しています(前者ではベースをトニー・セイルズがプレイし、ダブル・アルバムSomething/ Anything?のD面をのぞく3面のトラックをすべてひとりで録音している)。

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エミット・ローズがすべてひとりでやったアルバムを1970年にリリースしていますが、なんだか精気のない寂しいサウンドで、わたしはあまり好きではありませんでした。トッドは、エミット・ローズよりずっと豊かで、にぎやかなサウンドをつくっています。キャラクターのちがいに由来するのかもしれませんが、音楽的に見るならば、楽器を重ねることに対する考え方のちがいが生んだ結果といえるのではないでしょうか。

Runt: The Ballad of Todd Rundgrenには、目立ったギター・アレンジはなかったと思いますが、Something/Anything?には、すでにLove of the Common Manの萌芽があります。

トッド・ラングレン I Saw the Light(スタジオ録音)


YouTubeの音ではわかりにくいかもしれませんが、キャロル・キングのパスティーシュのようなこのI Saw the Lightのギターによる間奏も、やはり一本ではなく、二本のギターで同じフレーズを弾いています。

ひとりで多重録音をしていれば、いやでも音の重ね方ということを深く考えざるを得なくなり、神経がとぎすまされていったのだろうと思います。トッド・ラングレンはすぐにひとり多重録音をやめてしまいますが、このときの経験はのちのプロデューシングに生かされたと感じます。その結実がLove of the Common Manですが、彼がプロデュースしたグランド・ファンク・レイルロードLocommotionのヴォーカルの厚みにも、そうした嗜好が仄見えます。

もう一曲、1972年のSomething/Anything?から、C面収録のトラックをひとつ。ギター・オン・ギター的観点からはイントロにすべてがあります。

サンプル Todd Rundgren "Couldn't I Just Tell You"

こちらは複数のアコースティック・ギターで同じリックをプレイし、そこにさらに、途中からエレクトリックも重ねて(こちらも複数だと思われる)、豊かなギター・サウンドをつくっています。とくに面白い曲ではないのですが、ギターのコンビネーションだけで十分にグッド・フィーリンを実現しています。

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トッド・ラングレンの面白さは、ギターにかぎらず、「音をいかに重ねるか」にあります。ギター・オン・ギターという文脈で持ちだしたので、ギターの重ね方に興趣のあるトラックを選びましたが、もっと広い意味でいえば「サウンド・オン・サウンド」ということをつねに強く意識して盤をつくったミュージシャンのひとりといえます。

表面的な音は異なるのですが、音に対する考え方の本質において、トッド・ラングレンは、、サウンド・オン・サウンドの始祖レス・ポール、その完全なる完成者フィル・スペクター、そして、それをべつの文脈にパラフレーズし、洗練を加えたブライアン・ウィルソンといった人びとの系譜につらなっているのは明らかです。たまたま、ギターを弾くことの多いプレイヤーだったので、いくつか典型的な「ギター・オン・ギター」サウンドのトラックを残しましたが、それ以前に、もっと大きな意味で、つねに「サウンド・オン・サウンド」を追求したミュージシャンだったといえるでしょう。

ここまでくるともう極北、あとは薄味にならざるをえないのですが、まだ興味深いギター・オン・ギターの例が70年代にはあるので、もうすこしこのシリーズをつづけることにします。


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Faithful
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by songsf4s | 2010-08-25 23:52 | Guitar Instro