岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』 その1

わたしは遅れてきた軍国少年だったので、兵器の実物にさわることと、戦争映画を見ることには熱心な小学生でした。いまでもそうですが、7月4日には米軍基地が一般公開されました。いまはなき空母フォレスタルのエレヴェーター(載せてくれる)や格納庫(入れてくれる)には興奮したし、もちろんF-4の座席にも坐り、操縦桿も握ったし、親指でトリガーカヴァーを跳ねあげたりもしました。

いまは兵器マニアの子どもというのはあまりいないのでしょうが、昔は異常なことではなく、ごく当たり前の性向でした。わたしが子どものころは、太平洋戦争は「オンリー・イエスタデイ」だったのです。

いま振り返って、みずからの「兵器マニア」ぶりをより細かく分類するなら、「兵器デザイン・マニア」という、兵器マニアのなかでもヴィジュアルに片寄った亜種だったと思います。美しい兵器がなによりも好きだったのです。『史上最大の作戦』を見たときは、映画がどうのこうのなんていう前に、ホンモノのメッサーシュミットが飛んでいるのに感動したわけで、小学校のとき、しばしば戦争映画を見たのも、兵器の視覚的美を探求するためでした。

◆ 夏の東宝戦争映画 ◆◆
戦争映画で困るのは、邦画はみな悲惨で暗い、ということです。わたしはシリアスなものは好きではないので、日本製戦争映画は避け、ハリウッド映画ばかり見ていました。それも、太平洋戦線はやはり腹が立つので(『戦場に架ける橋』だなんていう噴飯もののデタラメ映画に出くわしたりする。これはイギリス映画だったが)、欧州戦線をあつかったものを好みました。その典型が『史上最大の作戦』だったのです。

いまはもう題材にしにくいでしょうが、あのころは「もっとも最近の戦争」だったので、朝鮮戦争を舞台にしたものもありました(当時見たものとしては『第八ジェット戦闘機隊』というのがあった。理屈のうえでは『マッシュ』もそうだが、朝鮮戦争らしさなどかけらもない。ヴェトナム戦争のメタファーとしてつくられ、客もそれを承知で見た)。

とはいえ、日本映画にも多少は楽しい戦争映画がなかったわけではありません。とくに、あの時代には恒例だった夏の東宝戦争映画は、「戦争の悲惨さを強調した暗い反戦映画」ではないものばかりでした。『青島要塞爆撃命令』(第一次世界大戦を扱ったもの)や『キスカ』などは、だから日本製は嫌いだ、などとはならずにすみ、気持よく映画館を出ることができました。

古沢憲吾『青島要塞爆撃命令』


昔はわかっていませんでしたが、いまになると、『ナバロンの要塞』にヒントを得たように見えます。一升瓶みたいな爆弾を「マニュアルで」落とすシーンが、じつにのんびりしていてよかったという記憶があります。

丸山誠治『キスカ』


大がかりな鬼ごっこという感じの楽しい映画でした。この直前のアッツ島守備隊の玉砕ばかりが強調されますが、アッツの二の舞にならなかったキスカの脱出作戦を無視するなよ、といつも不満に思っています。

また、夏の大作戦争映画のラインではなかったと思いますが、東宝は『どぶ鼠作戦』(1962年、監督=岡本喜八、出演=加山雄三、佐藤允、夏木陽介)なんていう戦争娯楽映画もつくっていて(その先行作品である岡本喜八の『独立愚連隊』と『独立愚連隊西へ』はあとから見た)、国産戦争映画でも、東宝のものならうんざりする心配はなく、ほとんどすべて見ました。

岡本喜八『独立愚連隊』 trailer


岡本喜八『独立愚連隊西へ』


いま、記憶をまさぐってみましたが、ほかに日本製の「楽しい戦争映画」といっても、東宝以外の撮影所によるものでは、日活の『零戦黒雲一家』(1962年、監督=舛田利雄、出演=石原裕次郎、二谷英明。日活脇役陣が、ギャングと大差のないならず者兵隊になって総出演していたのが楽しかった。よく遊びに行っていた場所でロケがおこなわれ、兄がその話をしていたのを記憶している)ぐらいしか思い浮かびませんでした。

いや、大物を忘れていました。

増村保造『兵隊やくざ』 trailer


戦争は楽しいものだ、と云いたいわけではありません。戦争は悲惨です。でも、「戦争映画」はべつです。戦争映画も、映画である以上、楽しいものであるべきです。戦争映画だけは、他の映画とはちがい、悲惨でなければいけない、なんて理屈はありません。

Japan's Longest Day(日本のいちばん長い日) trailer


◆ 不都合なタイトル ◆◆
毎度、新しい映画に入るときは前置きが長々しいのですが、今回は一段と長くて、いやはや、です。しかし、フォン・クラウゼヴィッツもかの『戦争論』でいっています。「単独の理由で起こる戦争はない」のです。はじまるまでにあれこれややこしいイザコザがあるのが戦争というものなのです(これは男女間の「紛争」にも当てはまる。「開戦」に至る長い歴史を踏まえたうえでなくては、「男女間地域紛争」の解決もおぼつかない)。

まあ、戦争についてはいろいろ立場があるので、その点に配慮し、「戦争」を肯定するわけではない、「戦争映画」を肯定するだけだ、てなあたりでご了解いただけたものとして話を進めます。ま、小理屈ですがね。

さて、『日本のいちばん長い日』です。日本の戦争映画で、太平洋戦争を扱ったものとしては、『日本のいちばん長い日』は「楽しく見られたもの」の筆頭でした。原作の意図も、映画製作の意図も、「戦争は悲惨である」路線に添ったものだったのでしょうし、シリアスな作品なのですが、「それはそれとして」ボク除けの反戦は神棚に祀ってしまい、たんに戦争を背景にしただけのサスペンス映画として楽しみました。

『日本のいちばん長い日』は東宝創立35周年記念映画ということで、オールスター・キャストだったこともおおいに魅力的でした。いや、オールスター・キャストならいい、というわけではありません。オールスター・キャストゆえに失敗した映画のほうが圧倒的に多いでしょう。『日本のいちばん長い日』は、オールスター・キャストがうまくいった稀な映画だと思います。

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ともに第二次大戦を扱ったという共通点しかないのですが、タイトルが暗示するように、東宝は『史上最大の作戦』すなわち「もっとも長い日」(The Longest Day)を意識していたにちがいありません。『史上最大の作戦』は、オールスター・キャストがそこそこ機能した映画でもありました。

それにしても、『日本のいちばん長い日』の英訳題がJapan's Longest Dayとは困ったものです。海外の日本映画ファンは、タイトルだけ見て、『史上最大の作戦』のチープなニセモノか、と敬遠するのではないでしょうか。愚かなタイトルを付けたものです。Emperor's Decisionとかなんとか、いまからでも遅くないから別英題をつくったらどうでしょうか>東宝。どんなタイトルでも、『史上最大の作戦』のニセモノと誤解されるよりはマシです。

◆ 「俳優名鑑」の楽しみ ◆◆
『日本のいちばん長い日』の「日」は、8月14日から翌日の終戦詔勅放送までの24時間を指していますが、映画は7月26日の「ポツダム宣言」の発布から受諾にいたる経過を説明することからはじまり、8月14日正午ごろの御前会議のシーンになってタイトルが出るまでに20分以上かかります。史上最長のアヴァン・タイトル・シークェンスかもしれません。

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ということで、プロットとしては、ポツダム宣言受諾の詔勅が下ってから、じっさいにそれが国民に知らされるまでの、軍部を中心とするさまざまな人びとの動きを追い、無事に終戦にこぎ着けるまでの物語、といったぐあいに要約していいでしょう。

上掲の予告篇にも、「日本映画俳優名鑑」と出てきますが(いや、戦争映画なので女優はほとんど登場せず、「男優名鑑」というべきだが)、いまになると、製作から長い時間が経過した分、よけいに「オールスター」の度合いは高まって感じられます。物故したり、引退したりした人は、現役のときより重みが加わった印象になるものですし、その後の俳優活動で重みを増す人もいるからです。映画の見方としてちょっと奇妙かもしれませんが、しばらく、登場順にキャストを見ていこうかと思います。

『日本のいちばん長い日』は、オープニング・クレジットがなく、エンディングでキャストが出ますが、これがビリング順ではなく、登場順になっています。そのあたりも、エンド・タイトルでABC順にキャストを並べた『史上最大の作戦』に範をとったのかもしれません。オールスター・キャスト映画の場合、ビリングを決めようとするとトラブル続出になるからでしょう。

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宮口精二(東郷茂徳外務大臣)

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戸浦六宏(松本俊一外務次官)

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志村喬(下村宏情報局総裁)

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三船敏郎(阿南惟幾〔これちか〕陸軍大臣)

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笠智衆(鈴木貫太郎総理大臣)

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黒沢年男(畑中健二陸軍少佐)

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山村聡(米内光政海軍大臣)

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香川良介(石黒忠篤農務大臣)

『日本のいちばん長い日』は、大雑把に分けて、政府側の動きと、「抗戦派」ないしは「本土決戦派」の若い士官たちの動きを追った映画ですが、冒頭は閣議での「会議は踊る」状態を描いているので、まだ本土決戦派は黒沢年男しか紹介されていません。

ビリングをつけるなら、主演=三船敏郎、共演=山村聡、笠智衆というあたりで、中心となる俳優は冒頭で紹介されています。この3人については、文句のないキャスティングです。むろん、歴史上の人物だから、その人物にどういう評価を与えるかによって、キャスティングの考え方も変わるでしょうけれど。

とりわけ阿南惟幾は毀誉褒貶があると思います。この映画では、三船敏郎が演じているのだから、阿南大将を製作者がどう見ているかは明らかでしょう。たんに役としてみると、この陸軍大臣はきわめて微妙な立場にあり、ものすごくむずかしい役どころだと思いますが、さすがは三船、たいしたものだと思います。

しかし、つらつらおもんみるに(お盆も近いので抹香臭くなった)、1967年には、オールスター・キャストの重みもそれほどたいしたことはなく、物語のほうを楽しみました。キャスティングに味が出たのは、なかば以上、歳月のおかげです。東宝特撮映画を見ていても、キャスティングが楽しいのですが、これまた歳月のおかげ。古い映画を見るのは、新作を見るのとずいぶん異なった意味のあることに、改めて気づかされました。

キャストを並べるなんてバカみたいではありますが、次回もさらに顔と役と名前を見てみようと思います。


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by songsf4s | 2010-08-05 23:51 | 映画