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ジョン・ミリアス監督『ビッグ・ウェンズデイ』(1977年)その1

映画の記事は大ごとになるときがあるので、ちょっと賭金の低いところに移動しようと、絵より音のほうに面白みを感じていた『ビッグ・ウェンズデイ』を選んだのですが、あにはからんや、今回は音よりドラマのほうに気をとられました。7、8年前にも再見しているのですが、それくらいの時間でも、ときには見方がずいぶん変化してしまうことがあるようです。

ビッグ・ウェンズデイ 予告篇


◆ South Swell ◆◆
『ビッグ・ウェンズデイ』は1962年にはじまって74年に終わる(とびとびの)年代記的構成をとっています。こういう構成は必然だったのでしょうが、ストーリーテリングの足を引っ張っているとも感じます。ただし、だからといって結果が悪かったと断ずることもできず、微妙なところです。そのへんのことはのちほど、というか、後日検討します。

タイトル


このクリップのナレーションは以下のようになっています。

「In the old days, I remember a wind that would blow down through the canyons.
It was a hot wind called a Santa Ana and it carried with it the smell of warm places.
It blew the strongest before dawn across the Point.
My friends and I would sleep in our cars and the smell of the offshore wind would often wake us.
And each morning, we knew this would be a special day.

「昔のことを思うと、峡谷を抜けてやってくる風のことが頭に浮かぶ。それは〈サンタナ〉という熱風で、暖かい土地のにおいを運んできた。〈ザ・ポイント〉のあたりでは、サンタナがもっとも強まるのは夜明け前のことだった。海辺に駐めた車で眠っていたぼくたちは、しばしばオフショアの風のにおいで目を覚ましたものだった。いつだって、今日は特別な日になるぞ、と信じていた」

映画のナレーションというのはむずかしいもので、しばしば拙劣な状況説明であったり、いらぬお節介であったり、馬鹿馬鹿しい気取りだったりするものです。また、(主として一人称の)小説風味わいを生むことを目的としたものもあって、『ビッグ・ウェンズデイ』はそのタイプであり(いま、ほかの例を思いつかないのだが、『チャイナタウン』がそうだったような気がする)、ほとんど唯一といっていいほどの、めずらしくも好ましく感じるナレーションです。

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なお、「サンタ・アナ」ないしは「サンタナ」というフェーン風については、以前、「Santana by Nelson Riddle」という記事にくわしく書いたので、ご興味のある方はそちらをどうぞ。モハーヴェ砂漠に発し、サン・ゲイブリエル山地を越えるあいだにフェーンとなって、サンタ・アナ一帯を中心に南カリフォルニアに吹きつける風です。これで、この映画の舞台が南カリフォルニアに設定されていることがわかる仕組みになっています。

オープニング・シークェンス


I remember the three friends best.
Matt, Jack, Leroy.
It was their time.
They were the big names then.
The kings.
Our own royalty.
It was really their place and their story.

「なんといっても忘れられないのは三人の友だちだ。マット、ジャック、リロイ。あれは彼らの時代だった。あのころ、三人はすごく有名だった。キングだ。彼らはわれわれの仲間の王族だったのだ。あれは彼らの場所であり、彼らの物語だった」

海とサーファーの画面で、このナレーションなので、マット、ジャック、リロイという三人のサーファーの物語なのだと、おおよその設定がわかります。ただし、このナレーターはだれなのだかわかりません。三人より年少だった少年が大人になって回想しているという設定でしょう。

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三人の背景はほとんど説明されません。ジャック(ウィリアム・カット)だけは家と母親が登場しますが、彼の父親がどうなったのかは言及されず、マット(ジャン=マイケル・ヴィンセント)とリロイ(ゲーリー・ビューシー)の家庭についてはまったくわかりません。映画がはじまる1962年、彼らが何歳かも説明されませんが、1965年に徴兵検査を受けるので、そこから逆算して、高校生なのでしょう。むろん、学校も登場しません。

◆ ジュークボックス・サントラの時代 ◆◆
1962年の章は、「ザ・ポイント」(「岬」の意味もあるが、サーフィン用語としては「サーフ・ポイント」の意味)での三人のライドではじまり、浜辺での仲間たちとのおしゃべり、そしてその夜のジャックの家でのパーティーとつづきます。

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たぶん『アメリカン・グラフィティ』からはじまったのだと思いますが、ノンストップでポップ・ミュージックを流す映画音楽というのがあります。『ビッグ・ウェンズデイ』のパーティー・シークェンスも、このノンストップのジュークボックス的サントラになっています。ただし、わたしの解釈では、このジュークボックス・スタイルは、伏線ないしは「撒き餌」というところで、あとで意味をもつことになります。

ともあれ、このシークェンスでどういう曲が流れるかというと――。

Little Eva - The Loco-Motion (1962)
The Shirelles - Mama Said (1961)
(以上の二曲はカフェテリアで流れる)
Barrett Strong - Money (That's What I Want) (1959)
Little Richard - Lucille (1957)
Chubby Checker - (Let's Do) The Twist (1960)
The Crystals - He's a Rebel (1962)
Ray Charles - What'd I Say (1959)
The Shirelles - Will You Love Me Tomorrow (1960)

といったあたりです。リトル・リチャードのLucilleだけはちょっと古めですが、あとは最新のヒットや、ちょっと前のヒットで、当然、1962年らしさをあらわすために選ばれた曲だということは一目瞭然。

無茶苦茶なパーティーがWill You Love Me Tomorrowでのチークで終わると、つぎのショットは真っ昼間で車が走っています。望遠を使った美しいショットです(ある意味で撮影監督のブルース・サーティーズがこの映画のトーンを決定したと感じるほどで、印象的な場面をたくさんつくっている)。そして、そこで流れるのが、4シーズンズのSherry (1962年8月)です。

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この暗から明、ミドルからアップへの転調はなかなか印象的で、耳タコのSherryがじつに新鮮にきこえます。浜辺でリロイが「もう夏も終わりだ」というので、8月末のことと推測されます。Sherryは8月リリースなので、じつに微妙なタイミングで流れるのです。Sherryのビルボード初登場は8月25日付65位です。いきなりこの位置というのは大ヒットのパターンで、じっさいにそうなったのはご存知の通りです。

さて、こうしたポップ・ヒットの連発は、たんに『アメリカン・グラフィティ』的なノリにしたということではなく、のちのシークェンスにつながる伏線、餌撒きだと思えるのですが、その点については次回ということで、今回はほとんど予告篇、あまり前には進みませんでした。


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by songsf4s | 2010-05-26 23:49 | 映画・TV音楽