- タイトル
- Journal de bord
- アーティスト
- Francois de Roubaix
- ライター
- Francois de Roubaix
- 収録アルバム
- Les Aventuriers OST
- リリース年
- 1967年
映画についてなにか書くのは、音楽の場合より「強い」作業なのだと、ブログで映画を取り上げるようになって思いました。
その描かれた世界に深く入りこみすぎる、というのは、音楽でも起きますが、映画の場合は、音楽よりずっと深く長い「旅」になる傾向があります。これまでに取り上げた映画でいえば、『乳母車』や『霧笛が俺を呼んでいる』がそうでしたが、先週の『八月の濡れた砂』はさらに吸引力の強い映画でした。じっさい、いまだに『八月の濡れた砂』の世界に「いた」記憶が尾を引いています。
しかし、妙なことが腹をくくるのに役立つことがあります。たとえば、不整脈、動悸、めまいといった、ちょっとした体調不良です。ふだんは自分の体が自分にはコントロールできない「他者」だということを忘れていますが、体が不調を訴えると、自分がmortalであること、有限の時間しかもっていないことを強く意識します。
われわれはつねに、いまこの瞬間にも命を絶たれる可能性を抱えて生きている(じっさい、先日とりあげた『サンディエゴ・ライトフット・スー』の作者トム・リーミーは、タイプライターに突っ伏して死んでいるのを発見された)のだと思えば、現在という時間にささやかながらも意味を感じることができるはずです。ただし、われわれの想像力というのは、なかなかそういう方向には働きにくいらしく、そのような思念はすぐに消え去ってしまうのですが。
今日の『冒険者たち』は、ブログで映画または映画音楽をやるなら、まっさきに取り上げてしかるべきだった作品です。当たり前すぎるような気がして、手を着けかねていましたが、そういっているうちに事故や病気であっさり鬼籍に入るおそれもあるわけで、よけいなことは気にせず、好きなものを書こうと開き直りました。
◆ 失敗また失敗 ◆◆
飛行学校で教えるパイロットのマヌー(アラン・ドロン)は、凱旋門の下をくぐり抜け、その様子をフィルムに撮影してほしいという依頼を引き受け、友だちのロラン(リノ・ヴァンチュラ)に協力してもらって、凱旋門を想定した練習飛行をします。
そのためにロランが家から出かけようとしたところに、オブジェを制作しているアーティストのレティシャ(ジョアナ・シムカス)がやってきて、廃品置き場のスクラップをゆずってくれないか、といいますが、ロランは忙しいので、仕方なくレティシャを車に乗せ、練習をする空き地に連れて行きます。ロランの住宅兼作業場が気に入ったレティシャは、その片隅をアトリエとして借りて制作をすることになります。
マヌーは凱旋門の飛行に挑戦しますが、旗に邪魔されて失敗したあげくに、市街地での低空飛行は禁じられているため、ライセンスを取り消されてしまいます。
ロランは新型エンジンの開発に取り組んでいますが、うまくいかず、試作エンジンは爆発してしまいます。
レティシャは個展を開きますが、新聞でこてんぱんにやっつけられてしまい、失意のうちにロランの作業場に帰ってきます。
マヌーは、凱旋門飛行の依頼主であるという日本映画輸入会社に連絡を取りますが、それで、これはまじめな話ではなく、かつがれたのだということがわかり、ロランと二人でこの話の仲介者をぶちのめします。このとき、相手の男が、コンゴの海に不時着したセスナ機に多額の現金が積んであるという話を漏らしたのですが、失意の三人はこの話に賭けてみることにし、コンゴに出かけます。
ここまででだいたい半分になります。あとのことはまた書くとして、とりあえずプロットを追うのはこれで切り上げます。
◆ 無機物のダンス ◆◆
『冒険者たち』で最初に強い感銘を受けるのは、凱旋門に擬した目標を通過する練習をしたあと、マヌーがレティシャを乗せて飛び立ち、ロランのトラックと「ダンス」するシーンです。
ロシア語かなんかに吹き替えられている(最悪!)うえに、肝心の場面が出てくるのは最後のあたりなので、おおいに不都合なのですが、ほかにこのシークェンスを手を加えずに収録したものがないので、ご興味のある方は以下のクリップをどうぞ。
複葉機=トラック・シークェンス
あくまでもこの映画が公開されたときに中学二年だった子どもの印象にすぎませんが、このような形で、音楽がなければ意味をなさないシーンというのは、このときにはじめて見たように感じました。
この「ダンス」シーンを無音にしてご覧になれば、どなたにも了解できるでしょう。さらにいえば、ここにサスペンスフルな音楽を加えると、あの当時でいえば、スパイ・アクションの一場面、セスナがトラックを襲っているように見えることでしょう。口笛をリードにしたリリカルな楽曲が、この場面の味を決定しているのです。
サウンド版が誕生して以来つねに、音楽と映像の融合というのは意識されていたのでしょうが、映画と音楽の両方が好きだった子どもの印象では、60年代なかばというのは、映像と音楽が重なったとき、どのような効果が生まれるかの実験がおおいなる成果をあげはじめた時期でした。この直後に、『華麗なる賭け』(音楽監督ミシェル・ルグラン)も出てくるし、『明日に向かって撃て』の自転車のシーンも生まれるし、やがて『ミッドナイト・カウボーイ』や『イージー・ライダー』の音楽=映像表現が出現することになります。
しかし、『冒険者たち』のすごいところは、実験であると同時に、すでに究極の完成型を示しているということです。ほかになにもつくらなくとも、フランソワ・ド・ルーベは、『冒険者たち』一本で世界映画音楽史でも屈指の作曲家と記録されたことでしょう。いえ、ルーベのフィルモグラフィーは大変なものです。『サムライ』『悪魔のようなあなた』『さらば友よ』『若草の萌えるころ』『オー!』『ラムの大通り』『ラ・スクムーン』と並ぶのですから。
まだ予告篇程度ですが、よけいなことを書きすぎて時間がなくなったため、あとは次回まわしとさせていただきます。最後に、そういうタイトルではないのですが、「テーマ」にあたる曲をサンプルにしておきます。この曲のタイトルの意味は「航海日誌」でいいのでしょうか。フランス語不自由なのでよくわかりません。そういえば、ルーベもルベのほうがいいような気がするのですが……。
サンプル Francois de Roubaix "Journal de bord"
冒険者たち DVD
冒険者たち [DVD]
Les Aventuriers OST
Francois de Roubaix: Le Samourai; Les Aventuriers