『花と怒涛』の音楽(奥村一。この作曲家にはもうすこし面白いスコアがある)はそれほど印象的ではないのですが、いちおうサンプルをあげておきます。
「メイン・テーマ」(奥村一)および主題歌「花と怒涛」(作詞・杉野まもる、作曲・古賀政男)
スコア全体はとくにマイナーを強調しているわけではありませんが、小林旭の歌う主題歌はストレートな演歌です。なんだか、冒頭のメイン・テーマと歌とそのあとのセグメントのつながりがぎこちなく、「政治的配慮」の産物か、という気がしてきます。早い話が、歌が浮いていて、前後のスコアとの整合性が悪いのです。でも、どこかに歌を嵌めこむ必要があったのでしょう。
◆ 襖やら障子やら襖障子やら ◆◆
『花と怒涛』は、本体の話はいちおう前回でおしまいなのですが、木村威夫の日本間のデザインを中心に、少々落ち穂拾いをします。
もちろん、設定に左右されることなので、いつもそうできるわけではないでしょうが、木村威夫は障子や襖に凝るタイプの美術監督です。素直な障子のほうがすくないくらいで、たいていの場合、なにかしら工夫してあります。
まずは賭場から。小林旭は雨で仕事に出られない日に、飯場で花札をして仲間たちを裸にむしった金をもって賭場に行きますが、いい目が出ません。そこへ小林旭に岡惚れしている馬賊芸者の万龍姐さん(久保菜穂子)がやってきて、壺振りの隣、小林旭の向かいに坐って「加勢する」という場面です。
小林旭が博打で仲間から金を巻き上げ、賭場に行ったのは、金を増やして、みんなで芸者を上げて気晴らししようというもくろみでした。別室で仲間が騒いでいるのを聞きながら、万龍姐さんに世話になった礼をするところで、それがわかります。
◆ ドームに収めた(?)土間の造り ◆◆
小林旭はただの人足だったのですが、ひょんなことから「村田組」の小頭に取り立てられることになり、村田卯三郎(山内明)の家に行きます。この家がまた奇妙なのです。
広い土間に接した座敷の隣には、腰が海鼠壁になった土蔵のようなものがあります。いや、「ようなもの」ではなく、分厚い扉と壁が見えるショットがあるので、まさに土蔵なのでしょう。
そして、広い土間の一角には井戸があります。
ふつうなら家のなかにはない土蔵と井戸を、母屋ごとひとつ屋根の下に収めた、とでもいう造りなのです。こういう造りをする地方があるのでしょうか。それとも木村威夫の独創なのでしょうか。わたしには見当もつきません!
◆ さらに料亭 ◆◆
ふつうに見ていると気づかないようなところでも、木村威夫は変わった障子のデザインをやっています。小林旭が小頭に取り立てられたのを祝う宴席の、上座を狙ったショット。
同じ料亭のべつの部屋。久保菜穂子にしつこく迫っている宮部昭夫。いや、そういうことではなく、襖をはじめとするデザインをご覧あれ。
これまた同じ料亭の部屋という設定なのだと思いますが、手打ちの席でのイカサマ博打をめぐるもめごとで、山内明が宮部昭夫に詫びを入れるため、市会議員・嵯峨善兵のもとに長弘代貸が訪れる場面。
これだって、そうとう変わったデザインだと思いますよ。
◆ 最後はやっぱり居酒屋〈伊平〉 ◆◆
〈伊平〉の構造についてはすでにしつこく追求しているのですが、デザインのディテールについてはあまりふれなかったので、そういうショットを並べてみます。
以上で正真正銘、『花と怒涛』シリーズはおしまいです。次回はすぐにつぎの木村威夫作品にいくかもしれませんし、そのまえに、音楽ものをひとつふたつやるかもしれません。
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