木村威夫追悼 鈴木清順監督『花と怒涛』その2

前回は音楽がゼロなだけでなく、映画の話題としても超小型重箱のミクロな隅をせせるような話で、どうも恐縮です。お客さんは内容を見てからいらしているわけではないので、直接は関係ないのですが、とりあえず、今日のヴィジター数はいつもより多めなので、悪影響はなかったものとみなします(論理的じゃないなあ、と自覚あり。影響が出るのはもうすこし先に決まっている!)。

お客さんで思いだしましたが、今月は恒例の「検索キーワード・ランキング」をまだやっていませんでした。四月一日から昨日までの累積では以下のような順位です。

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いつごろだったか、夜だけ、なんだかむやみにお客さんが多い日があったのですが、翌日見たら、「古川ロッパ」がいきなり初登場一位になっていました。どこかロッパ・ファンがよくご覧になるところで、当家が紹介されたのかもしれませんが、だとしたらリンクしていそうなもので、検索キーワードにはならないような気もします。

how high the moonは上位常連、どなたか存じませんが、いつもありがとうございます。「芦川いづみ」は今月も上位。毎度申し上げるように、このキーワードで当家にたどり着くのは一苦労、ありがたさもひとしおです。でも、そうやって芦川いづみをキーワードにしてきてくださると、当家の検索結果出現順位も上がるので、今後ともよろしくお願いいたします。浅丘ルリ子、芦川いづみという序列を逆転して、もっとも好きな女優は芦川いづみにしようかと思っている昨今です(年をとっておべんちゃらを言うように相成り候)。

灰田勝彦新雪とi put a spell on youとお座敷小唄も長きにわたる常連、いつもありがとうございます。「北京の55日」は初登場かもしれません。ちゃんと歌詞を書かずに失礼しました。

今月初登場は川地民夫。このキーワードで当家にたどり着くのも、かなり手間がかかるでしょうに、どうもありがとうございます。わたしは川地民夫が大好きなので、川地ファンのご来訪は欣快事です。目下も川地民夫が重要な役を演じる『花と怒涛』を書いているところですし、今後予定している映画のなかにも、川地民夫がキーになっているものがあります。

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◆ 清順十八番、折檻シーン ◆◆
『花と怒涛』は、前回書いたように、小林旭と松原智恵子が川地民夫の刺客に狙われる話でもあるのですが、二つの組の争いに巻き込まれた、土方に身をやつした渡世人・小林旭の戦いの物語でもあります。ここに辰巳芸者を思わせる気っ風のいい「馬賊芸者」の万龍姐さん(久保菜穂子)や、「鬼刑事」(玉川伊佐男)、飯場の班長(深江章喜)などがからみます。

利権をめぐる争いから、対立する組の妨害を受けても、土方がやくざのまねをしてはいけないと仲間に説いていた小林旭も、野呂圭介の死をきっかけに、結局はでいりで大暴れし、見せ場をつくります。

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右翼の大物・滝沢修の仲介で、ふたつの組が和解したその手打ちのあとの花会で、小林旭は川地民夫のいかさまを見抜きますが、自分の親分である山内明の邪魔だてのために、証拠を押さえそこなってしまいます。

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めでたい手打ちを危うくしたとして、山内明は組に戻ってから小林旭を激しく打擲します。鈴木清順映画にはしばしば登場するタイプの場面です。

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また、傷のメーキャップも極端で、小林旭はお岩さんのようにされてしまいます。『関東無宿』のとき、小林旭がとんでもなく太い眉毛をつけてきたので驚いたと監督はいっていますが、その淵源はこの「お岩さんメーク」じゃないでしょうかね。お互い、やることが極端なだけでしょう!

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山内明は、仕置きを終わると、拳銃を投げ出し、これで向こうの親分をやって屈辱をはらせ、といいます。

小林旭はいわれたとおりに敵対する組に向かいますが、途中で久保菜穂子の「万龍姐さん」に出会います。久保菜穂子は、黒幕の酒の相手をしていて、惚れた小林旭を罠に落とす陰謀が進行をしていることを知り、それを知らせに来たのです。

こういうシークェンスでも、鈴木清順はノーマルな演出はしません。ケガでふらつく小林旭が、止める久保菜穂子をふりほどこうとして、二人がもつれにもつれて、あっちに転び、こっちにまろぶ、まるで濡れ場のような演出するのです! じっさい、久保菜穂子はそのつもりで小林旭に抱きついているのですが、袖がまくれ上がって、腕に「おしげ」と彫られているのを見て、自分の望みが叶わぬことを覚ります。

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この場面で驚くのは、背後の神輿が動きはじめること。

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いったいなにが起こるのかと思って息を呑んでいると、回想の祭のシーンになるという無茶苦茶さ! こういうところで面白いと感じれば清順ファンになるし、わからん! といえば経営者センスになってしまうという、踏み絵のようなショットのつなぎ。

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久保菜穂子に証拠の手紙を見せられ、やっと自分の立場がわかった小林旭は、自分の組にとって返し、山内明を殺します。

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渡辺武信が『日活アクションの華麗な世界』で、何度か、日活の任侠アクションと、東映任侠映画の根本的な相違にふれています。極端に簡略化すると、東映任侠映画のヒーローは「組」という擬制的な「家」、つまり「組織」の論理に身を添わせる男を描くものであるのに対し、日活任侠アクションのヒーローは、「私怨」つまりは「個の論理」にしたがって行動する、というように分析しています。任侠映画の形をとりながらも、日活任侠アクションは、依然として「日活アクション」の文脈のなかにあった、というのです。

『花と怒涛』も、監督や脚本家にその自覚があったかどうかは別として、ヒーローは「個の論理」にしたがって、山内明親分を殺します。このとき、世話になったとか、義理があるといった、東映任侠映画ならドラマにねじれ、たわみをあたえるはずの要素は、あっさり無視されます。自分を裏切って陥れようとした人間は、ただの虫けらであり、親分でも「親」でも、「義理ある人」でもないのです。

東映の「しがらみ」の粘り方と、日活のこの乾き方と、どちらが好きだったかといえば、わたしはつねに日活ファンでした。ここで「我慢」という位置エネルギーをため込んで、終幕で一気に爆発させる、という東映任侠映画のドラマトゥルギーを採用しないのであれば、べつのエネルギー源が必要になりますが、そのへんはのちほど、余裕があれば考えることにします。

◆ 小さな工夫の積み重ね ◆◆
小林旭は身重の松原智恵子のために、おそらくは杉山茂丸か頭山満がモデルと思われる、豪放磊落な右翼の大物(滝沢修)に、借金を頼みにいき、自首するのはやめて、満州に行けといわれ、それを承諾し、結局、その家にしばらくかくまわれることになります。

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小林旭の意を体して、高品格は、滝沢修に借りた金の一部を久保菜穂子のもとにもっていきます。借金漬けの万龍姐さんには何度も助けられているので、その礼として、この金で自由になってくれ、というのです。このあたり、ごく自然な伏線になっていて、あとで、うまいなあ、と思いだすことになります。

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このセットも味がある。六角形の赤い火鉢がいい。木村威夫デザインの日本間の建具については、できれば次回に細かく見たい。

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かくして、いかに司直の目をかいくぐって、小林旭と松原智恵子の夫婦が満州に脱出するかがクライマクスとなります。セット・デザインの話をするつもりなのですが、そのセットがクライマクスに使われるものなので、話の綾は全部書きます。ここから先、お読みになるのであれば、そのお覚悟をお願いします。まあ、話がわかっていても、十分に面白い映画ですが。

玉川伊佐男刑事は、小林旭が滝沢修の屋敷にかくまわれていることを察知していて、部下に滝沢邸を監視させていますし、もちろん、浅草の居酒屋〈伊平〉のおしげの動向からも目を離しません。

プログラム・ピクチャーは忙しいので、つねに会社からできあがったシナリオをわたされた、と鈴木清順はいっています。したがって、たいていの場合、話の大枠は監督の自由にはなりません。だから、つねに細部をどうするかを考えたということは、自身もいっていますし、木村威夫もしばしば、鈴木清順のシナリオ改変の発想と技に言及し、ときにはそれを鈴木さんの「天才性」とまで呼んでいます。

いや、監督自身は「ただ撮ってもつまらない、なにか工夫しなければいけない」といっているだけですが。それがみごとにあらわれたのが、前回、ご紹介した、居酒屋内部での芝居です。

滝沢修の家から人力車が出てきて、警官に制止されます。幌を撥ね上げると、なかは無人。帰り車だというので通されます。

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しばらく走って、この車夫が伏せていた顔をあげると、それが小林旭。やれやれ、もう大丈夫と立ち止まると、「俥屋!」と客に止められます。この客がなんと川地民夫。

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ここで、川地民夫が小林旭に気づいていて、俥の前とうしろの芝居をする、という手もあったかもしれませんが、話はもう煮詰まっているので、脇道に入りこまず、小林旭は途中で俥をとめ、旦那、ちょっと用を足させてください、といって川地民夫を置き去りにします。こういう、不必要なまでのディテールの工夫に、鈴木清順らしさを感じます。

今日はまだなにも書いていないも同然ですが、スクリーン・キャプチャーの時間を考えると、このあたりが限界のようです。クライマクスに突入するための助走でした。


鈴木清順監督自選DVD-BOX 弐 <惚れた女優と気心知れた大正生まれたち>
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by songsf4s | 2010-04-23 23:58 | 映画