週に一度ほどチェックする海外のブログで、鈴木清順のインタヴューを見つけました。形式はFLVです。
鈴木清順 in LA
映画を学んでいる学生の質問に答えたようですが、外国人が相手なので、ふだんなら省略するような、かつての日本映画界のありようにもふれていて、面白い談話になっています。また、おそらくは通訳しやすいようにという配慮なのでしょう、いつもの韜晦的言辞はすくなく、わかりやすく話しています。
「小津さん」については、年齢のせいか、海外の学生のあいだにもいるであろう小津ファンに配慮してか、おだやかに語っています。映画ではなく、書籍の『けんかえれじい』に収められた、エッセイとも自伝小説ともつかない松竹助監督時代の回想では、もっとストレートに小津を否定していますが、上記のインタヴューで語っていることが、レトリックを取り去った本音なのだろうと想像します。
音楽にたとえれば、小津安二郎は完璧主義者の「スタジオ録音の人」、鈴木清順はspontaneity、インプロヴ重視の「ライヴの人」、小津はポップ・ミュージックの作り方、清順はジャズ的嗜好だったというあたりでしょう。
このインタヴューの最後に収められている『東京流れ者』のオリジナルのエンディングについては、木村威夫が『映画美術』のなかで語っていますが、監督自身の言葉としてきいたのは、これがはじめてでした(DVDボックスのオーディオ・コメンタリーなどで話しているのかもしれないが)。
かつての『東京流れ者』の記事(その1およびその2)は、ちょっと拙速だったような気がして、改めてやり直したいとずっと思っています。でもまあ、とりあえずは、まだ取り上げていない映画をやるべきだろうと自重しています。
おおいに感じるものがあったので、このインタヴューには、枕ではなく、改めてきちんとふれたいと思います。人間は衰え、やがて滅するのが運命なのだから、やむをえないのですが、この人ばかりは長生きしてほしいと思います。健康を取り戻されんことをお祈ります。
◆ ロケーションでの美術 ◆◆
極端な言い方になってしまいますが、しばしば、映画はロケーションで決まる、と思います。とくに日本映画にはそのタイプのものが多いと感じるのだから、つまりは、自国の風土を知っているがゆえに、外国映画よりはるかに視覚的ディテールが気になるのでしょう。
『悪太郎』はまさにロケーションで成功したタイプの映画で、やはり半世紀前の日本には、古いものがよく保存された町があったのだなあ、と思います。まずいものが入ってしまう心配なしに引きのショットが撮れるというのはすごいものです。
ただし、木村威夫美術監督は、こういう場合にどういう措置をするか、ロケーションでの美術の役割についても語っています。
ほかの映画でも、このような消去、隠蔽の作業は必要でしょうが、『悪太郎』のように、近過去に時代を設定した作品では、きわめて重要になります。といっても、CGではないのだから、もとのロケーションがよくなくては、消去も隠蔽もあったものではなく、数カ所におよぶロケ地の選択(近江八幡、郡上八幡などらしい)が正しかったともいえるでしょう。
白黒だから成功した、というのも、そうだろうなあ、と思います(昔はモノクロフィルムのほうが安かった。鈴木清順は前述のインタヴューで、カラーの場合よりも1作品あたり300万円安くすんだといっている。トータルの予算は一本当たり2000万、カラーだとここに300万上乗せだとか)。カラーでは、じっさいの町にもともとあったものと、「材木」でつくったものとのちがいが明瞭に出てしまい、うまくいかなかったにちがいありません。モノクロを選択することに、そういう効用があるなどということは、この木村威夫の言葉ではじめて知りました。
◆ ヴィジュアル箇条書き ◆◆
このところ毎度、箇条書きのような記事ばかりですが、ここから先は「視覚の箇条書き」という感じで、スクリーン・キャプチャーやスティルを並べていくことにします。
以下は「今宵こそ」というか、tonight the nightとなった、京都の一夜。会話はありません。
そして、明くる日の同じ部屋。
なんだか、妙に「小津調」の絵作りになっていて、思わずニヤニヤ笑ってしまいます。ほんとうに、小津をちょっとからかうつもりで、『晩春』のパロディーをやったのではないかと勘ぐりましたぜ。小津なら切り返しますが、鈴木清順はツーショットで二人をとらえています。
和泉雅子の父(佐野淺夫)は医者という設定です。以下はその医院の診療室と待合室。かなり凝ったデザインです。
木村威夫がいうとおり、まったくこのシーンには魅了されました。万灯会[ばんとうえ]がほのかに見えるところがなんともいえない味があります。
短いシーンなので、時代劇のセットを流用できるという幸運がなければ、ここは簡略化されるか、室内のシーンで置き換えられてしまったのではないでしょうか。よくぞ撮ってくれたというシークェンスです。
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