(仮)埠頭に死す by 伊部晴美(日活映画『赤いハンカチ』より その2)
タイトル
埠頭に死す(仮題)
アーティスト
伊部晴美
ライター
伊部晴美
収録アルバム
N/A(『赤いハンカチ』OST)
リリース年
1964年
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説明の都合上、『赤いハンカチ』のプロットを書きます。いま、一度タイプした「簡単に」という文字を削除しました。簡単にはいかないにちがいありません! いっそ、プロットに添ってサンプルを並べて音を聴いていく形にするか、と方向転換しました。

忘れそうなので先に書いておきますが、「赤いハンカチ」という曲が何度も出てくることをのぞけば、この映画のタイトルが『赤いハンカチ』である理由は見あたりません。「あの娘がそっと涙を拭いた」ものも、拭かないものも、赤いハンカチの端っこすら画面には出てきません。

もうひとつお断り。トラック・タイトルは、「赤いハンカチ」をのぞき、すべてわたしが恣意的につけた仮のものです。

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◆ お豆腐やさーん! ◆◆
冬の夜、神奈川県警の三上次郎(石原裕次郎)と石塚武志(二谷英明)という二人の刑事が、横浜港の埠頭で麻薬の運び屋(榎木兵衛。この人もまた顔を見せてくれないとさびしく感じる日活脇役のひとり)を逮捕しようとしますが、逃走されてしまいます(冷静に考えると、捜査の山場で容疑者の逮捕が予想されるときに、刑事二人しかいないというのは変なのだが!)。

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逃げる男、榎木兵衛

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追う男たち、石原裕次郎と二谷英明

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消えたバッグ

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おでん屋

運び屋は逃走の途中でトラックにはねられてしまいます。事故現場には麻薬が入っていたはずのバッグが見あたらず、二人の刑事は近くで商売していた屋台のおでん屋のオヤジ(森川信)が怪しいとにらみ(じっさい、人通りがぜんぜんない場所で商売するのは奇妙!)、署に連行して尋問します。

サンプル 埠頭に死す

朝になっても森川信はなにも話さず、ただ「娘が心配しているだろうな」と呟きます。それを聞いて、裕次郎がひとりで森川信の家に向かいます。

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以下は、刑務所のような長い煉瓦塀に沿った道で豆腐屋が商売をしているところに、路地から浅丘ルリ子があらわれる、この映画における彼女のファースト・ショットの音です。ささやかな断片にすぎず、たいした意味はありませんが、わたしの趣味でアップしておきます。

サンプル お豆腐屋さ~ん

この石原裕次郎が路地を歩くショットは印象的です。なんだか変な感じがするので、よく見ると、画面奥に向かって裕次郎がキャメラから遠ざかる形で歩いていくだけでなく、キャメラ自体も移動車に載せて画面手前に向かって後退させているのです。つまり、倍の勢いで裕次郎がキャメラから遠ざかる絵になっているのです。

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若い監督の「野心」なのか、変わったことをしようという間宮義雄撮影監督の提案か、そのへんはわかりませんが、このショットを特別なものにした意味は想像がつきます。舛田利雄としては、このシークェンスは重要なポイントなのだと、観客の注意を促したかったのでしょう。

なぜ重要か。アクション映画、犯罪物語の形式をとっているが、これはじつはラヴ・ストーリーなのだ、という宣言ではないでしょうか。だから、ヒーローがヒロインに出会う瞬間、ひと目で恋してしまう瞬間を強調したのでしょう。

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「わたしのおみおつけ、とってもおいしいんですよ」

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「うまい! へそまで温まる」

裕次郎は森川信の家の勝手口に立ったまま、浅丘ルリ子に豆腐のみそ汁をごちそうになり、出勤するする彼女についていきます。

サンプル 道すがら

ヒロインもまた、ヒーローのことを好ましい男と感じたことがこのシーンに表現されています。いやまったく、この一連のシークェンスの浅丘ルリ子はすばらしく、ヒーローといっしょに男の観客もみな彼女に恋をしてしまいます。『渡り鳥』シリーズで、いつもヒーローを見送って、滝さん、といって涙をこぼしていたのは、もう昔のことなのだということも強く感じさせます。

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◆ あなたは自分を赦せるんですか? ◆◆
裕次郎が出かけているあいだに、二谷英明は、あいつは大学出のエリート警官で、射撃もオリンピック候補の腕前、出世のためには強引なこともする、だが、俺はたたき上げだ、おまえの気持はわかる、などと慰めるようなフリをして、森川信の不安をかき立てます。

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拘留許可が下りたのか(このへんは昔の映画なのであやしい。不当逮捕の可能性も感じる)、森川信は移送されることになり、二谷英明に付き添われて護送車に乗ろうと歩いている途中で、二谷を突き倒し、その銃を奪って逃走しながら発砲します。

起きあがった二谷は森川信に向かって突進し、石原裕次郎は銃を構え、森川信に狙いをつけます。二谷が森川信にタックルした瞬間に、裕次郎も発砲します。その弾丸は容疑者の心臓を撃ち抜いてしまいます。

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査問の結果、過失と判断が下され、石原裕次郎と二谷英明は、容疑者の娘、浅丘ルリ子をその勤め先に訪ね、謝罪します(ここで、二人とも地方に飛ばされることになった、というが、神奈川県警管轄の「地方」とはどこなのか、神奈川県民としては気になる!)。

サンプル お悔やみ

このシークェンスの浅丘ルリ子も、やはり、昔とはまったくちがう女優なのだと感じさせます。そして、このときはじめて浅丘ルリ子を見た二谷英明もまた彼女に恋をしてしまったことが、目つきと表情でわかります。

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「過失? そういえば、あなたは自分が赦せるんですか?」

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「わたしは赦しません。父を殺したのはあなたです」

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かくして状況はできあがり、ここからがほんとうの意味でのドラマのはじまりです。

◆ 北国の春もゆく ◆◆
それから四年、とあっさり時間がたって、石原裕次郎は雪の舞う山でダム工事をやっています。東北か北海道か、そういう設定のようです。ここだけは「赤いハンカチ」の「北国の春もゆく日」というラインに義理立てしたのではないでしょうか。

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サンプル 赤いハンカチ(飯場ヴァージョン)

それにしても、なぜ日本人はさすらうときに北の地を選ぶのか? アメリカだと、どこかに逃避行といえば、古来「国境の南」と決まっています。『長いお別れ』のテリー・レノックスもそうしたし、シナトラもdown south of the border, down in mexicoと歌っていますし、スティーヴ・マクウィーンとアリー・マグロウも、サム・ペキンパーの『ゲッタウェイ』でメキシコを目指して必死で逃げました。カナダやアラスカにさすらうのは稀な例外でしょう(『アラスカ珍道中』をその例としていいのかどうかちょっと迷う)。

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日本の場合、南にさすらってしまう話はあまりないと思います。獅子文六の『てんやわんや』がどこか四国の暖かいところに逃避する話でしたが、あれは自身の戦争中の体験をもとにしたからでしょう。佐世保まで流れる『東京流れ者』や、『大海原を行く渡り鳥』(雲仙)、『波涛を越える渡り鳥』(香港、タイ、ラオス)といった渡り鳥シリーズの一部が、南の土地に流れますが、多数派はやはり北にさすらいます。

なにか「国民的暗黙の合意」のようなものが、この裏側にあるような気がするのですが、では、その実体はなにかというと、よくわかりません。『赤いハンカチ』に表現されたように、きびしい風土によって「みずからを責め苛む」ためでしょうか?

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『赤いハンカチ』は金子信雄の代表作でもある。いきなり裕次郎の茶碗酒を奪って飲んでしまう、楽しい初登場シーン。

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神奈川県警の土屋という警部(金子信雄)が北の地の飯場を訪れ、裕次郎に、その後、二谷英明がスーパーマーケットを開き、金持ちになったことを話します。しかし警部は、その資金の出所は四年前の事件と関係があるのではないかと疑っています。彼は裕次郎をテコにして、古い事件にまつわる疑惑を解明しようとしているのです。

サンプル 警部の挑発

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「でも、あの金はいったいどこから出てきたんだ?」

いままでの映画と違って、今回は音楽が鳴っているところはすべて切り出し、MP3にしたので、なかなか前に進みません。まだ、この伊部晴美の『赤いハンカチ』スコアでいちばん好きなトラックにはたどりついていませんが、本日はここまで、以下、次回に続きます。

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by songsf4s | 2010-01-12 22:43 | 映画・TV音楽