一対一のブルース by 西田佐知子(日活映画『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』より その2)
タイトル
一対一のブルース
アーティスト
西田佐知子
ライター
梅本たかし、望月弘
収録アルバム
西田佐知子歌謡大全集
リリース年
1960年
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前回もちょっとふれましたが、『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』のスコアを書いたのは山本直純です。コンダクトも作曲者自身である可能性が高いと思います。

テレビのレギュラー番組をもっていたり、CMに出演したりしていて、なんだかよくわからない印象のある人ですが、山本直純の日活アクションへの貢献は大きく、まだ評価があがっていくだろうと思います。

こういうことというのは半分は運不運なのですが、山本直純がたまたま鈴木清順監督の『殺しの烙印』のスコアを書いたというのは、いまになってみればきわめて重要です。『殺しの烙印』は、映画のみならず、スコアとしても海外にファンがたくさんいるからです。

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われわれの目から見れば、いくぶんバランスを失しているのですが、どうであれ、Naozumi Yamamotoの名前を忘れても、Seijun SuzukiのBranded to Killのスコアを書いた作曲家、といえば通じてしまうというのは、やはりおおいなる強みです。伊福部昭が海外でも有名なのは『ゴジラ』のおかげであるように、多くの人が見た映画のスコアを書いたというのは、名刺がわりになるのです。

もちろん、いくら有名な映画のスコアを書いても、それがつまらなければ一顧だにされません。まだ現在のようなフルスコアのCDがリリースされる前に、映画から音楽を切り出してブートの殺しの烙印OSTを配布していたサイトがありましたが、そういうファンがいても不思議はないほど、『殺しの烙印』のスコアは印象的です。フルスコアのCDのリリースは遅きに失したというべきでしょう。

◆ 山本直純とは何者ぞや? ◆◆
山本直純が不思議なのは、メディアを通じたパブリック・イメージだけではありません。スコアを聴いても、どういうバックグラウンドの人なのか、想像がつかないのです。『殺しの烙印』は、『死刑台のエレベーター』ほどではないにしても、ほぼ純粋な4ビートのスコアで、その点が海外でも人気が高い理由のひとつになっています。

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『殺しの烙印』のスコアを聴くと、もともとはジャズの人か、なんていいそうになるほど、4ビートの楽曲に違和感がありません。では、『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』はどうか? 基本的なトーンはラテンです。

この二本の映画スコアを聴いても、芸大で伝統音楽の作曲と指揮を学んだというバックグラウンドは浮かんできません。そのへんが、確固たる「自分の音楽」があり、それが映画スコアにも反映された武満徹とはまったくちがうし、伊福部昭ともタイプの違う映画音楽作曲家です。しいていうと、佐藤勝の系統というべきヴァーサティリティーの持ち主といえるでしょう。

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クラウンにルノーに果てはオート三輪とくるのだから、ロケ・ショットは車を見ているだけでも楽しい。

でも、佐藤勝にはまだ「本籍は伝統音楽」という感触があるのに対して、山本直純は「本籍なし」という印象を受けます。『殺しの烙印』と『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』の二本なら、なんとなくある「集合」に収まる感じがするのですが、ここに『男はつらいよ』なども加わるわけで、そこから芸大出の伝統音楽作曲家の像を結べといわれても困ります。

要するに、山本直純というのは「そういう人」なのでしょう。たまたま音楽を職業にするには芸大出身は便利だったのであり、たまたま上野の音楽学校には「ユニヴァーサル音楽科」という学科がなかったので、伝統音楽を選択しただけなのだろうと思います。そして、映画音楽ほど強い雑食性のあるユニヴァーサルな音楽ジャンルはなく、ちょうどうまくこの作曲家のキャラクターがはまりこんだのでしょう。

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『東京流れ者』同様、基地の町が使われているが、この映画では福生で撮影されたショットが出てくる。

◆ ラテン対位法 ◆◆
順番なので、スコアの一番手はメイン・タイトルです。

サンプル 「Main Title」

アヴァン・タイトルの撃ち合いに決着がついたところで、タイトルがはじまり、その文字の「下敷き」になって、赤木圭一郎が病院に搬送され、苦しみ、治療を受けている映像につけられた音楽です。この曲はラテン・タッチはなく、いわば「日活調」とでもいうべきムードになっています。

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タイアップというのはいまでも広くおこなわれているが、昔は露骨だった。香月美奈子が赤木圭一郎の前でストッキングを穿くと……。

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赤木圭一郎は香月美奈子が放り出したストッキングの袋を取り上げて引っ繰り返し……。

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「へえ、三枚入りかい」などとよけいなことをいう!

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「そうよ。一枚がダメになってもスペアがあるから便利なの」と香月美奈子。いまになると、こういう映画内コマーシャルも楽しく見られる!

二曲目は典型的なラテン、といっても、マンボなんだかチャチャなんだか、わたしにはよくわかりません。「疑似ラテン・ア・ラ・ニッカツ」といっておきましょうか。

サンプル スコア「Two Killers」(仮題)

映画から切り出したので台詞が多くて失礼。でも、台詞入りは台詞入りで楽しいのではないでしょうか。西村晃の中国人ギャングの命令で、宍戸錠と赤木圭一郎が、二本柳寛扮する日本人ギャングを殺すシーンの音楽です。

この映画のスコアのなかで、わたしはこの曲がいちばん好きです。曲の善し悪しよりも、こういう殺しのシーンなら、たいていの人は、遅めで、音数の少ない、サスペンスフルなサウンドをつけるでしょう。それなのに、山本直純は軽快なラテン・ミュージックを選んだわけで、こういう対位法こそが映画音楽のもっとも重要で基本的なテクニックです。

以前にも書きましたが、ヒチコックのたしか『逃走迷路』で、夫が死んだことをその妻に知らせに行くと、その家ではラジオから軽快なダンス・ミュージックが流れていて、訪問者はその音楽をバックに、ご主人が亡くなりました、と告げるシーンがありました。テレビ放映の日本語版では、ここに静かな音楽を入れていて、なにやってんだ馬鹿野郎、音楽監督の意図がぶち壊しじゃないか、と怒り狂いました。カウンターは芸事万般に通じる基本理念なのですが、それがわからない野暮天もたくさんいるのです。

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ピントが浅丘ルリ子ではなく、ジューサーにいっているこのショットもタイアップくさい。そもそもひとり暮らしの浅丘ルリ子がこんなにジュースを飲んではいかんと思う!

◆ 「ゼロの女」 ◆◆
こんどはスコアから離れ、もうひとつの挿入曲、西田佐知子の「一対一のブルース」をどうぞ。

西田佐知子「一対一のブルース」(映画ヴァージョン)


西田佐知子「一対一のブルース」(盤)


映画のクレジットでは「佐智子」となっています。まちがいではなく、初期はこの文字を使っていたようです。じっさい、この曲はごく初期の録音のようですが、どうも、三種類のヴァージョンがあるようで、わけがわかりません。ノーマルなスタジオ録音が50年代のものと62年のシングル用のものがあり、そのあいだに、1960年の映画ヴァージョンがある、ということのようです。いや、まちがっていたら、訂正をお願いします。わたしにはよくわからないのです。

おわかりでしょうが、この時点ではまだ「コーヒールンバ」も「アカシヤの雨」も生まれていなくて、要するにただの「西田佐智子」だったのであり、「西田佐知子」というスターになる以前の歌なのです。

わたしは、子どものころは歌謡曲が好きだったのです。その「歌謡曲」とは、たとえば、こういうムードの曲のことです。あの演歌なる代物はどこから湧いてきたのでしょうか。あれとビートルズが表裏をなして、わたしは音楽としての日本を「退去」するハメになりました。日活映画には、演歌がのさばる以前の正しいニッポン大衆音楽に出合えるという付録があります。

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あんまりジュースをつくりすぎたので……

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赤木圭一郎が飲みに来た、わけではなく……

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先日は失礼とわびに来たのだが……

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デート、のようなものに誘われてしまった。

それはさておき、いきなり話を小さくしますが、この「一対一のブルース」って曲は、なんともわからない歌詞になっていて、目がまわりました。

「一対一の恋をして」という以上、ほかに、「一対二の恋」とか「一対三の恋」とか「五対五の恋」とか「八対七の恋」とか、さまざまなパターンがあると、暗黙のうちに措定されているわけでしょう? それって「あり」なんでしょうか。わたしはいきなり混迷に陥りました。

やっぱり、ふつうは「八対七の恋」なんてものは存在しないと考えると思います。一対一ではないといっても、せいぜい「二対一」が関の山、「三対二」になると蓋然性のレベルはガタンと落ちます。なんだってわざわざ、一対一の恋などと、わかりきったことをいっているのでしょうか。

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西村晃扮する香港ギャングは銀座の洋装店の二階を根城にしているという設定が笑える。洋装店の名前が「ルガー」というのがすごい。そのとなりが中華料理屋というのはなんだか妙だが、ここに西村晃の子分である藤村有弘が巣くっていて、内部で二軒がつながっている。

ここで想像力と同情心をフルスロットルにしてみました。一対一とは「男女イーヴン」という意味かもしれません。でも、こっちの橋にも悪魔が待ちかまえています。「男女イーヴンではない恋」というのを措定しないと、この概念は成立不能です。恋において、男女がイーヴンではないとはどういう状況か、そこにたどりつくまえに、わたしの想像力は短絡しました。

それはともかく、わたしの耳は「ゼロの女」というフレーズにひっぱられて、ビヨーンと伸びましたね。わたしだったら、この曲には「ゼロの女」というタイトルを付けますよ。「一対一のブルース」なんていわれても、イマジネーションを刺激されません。

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潜入捜査官(草薙幸二郎)はトランペットを吹く! でも、背後を見ると、ドラムの配置が変。スネアが見えるところにあってはいけないし、ハイハットは20センチほど下げてもらいたい。

◆ ラヴ・テーマ、のようなもの ◆◆
さて、またまたrunning out of timeとなってきたので、以下、積み残したスコアをまとめてどうぞ。すべて映画から切り出したもので、台詞やらSEやらが入っていたりします。もちろん、タイトルもわたしが恣意的につけたものです。

サンプル スコア「Waterfront」(仮題)

サンプル スコア「Kinda Love Theme」(仮題)

サンプル スコア「Baby Let's Pretend」(仮題)

WaterfrontとKinda Love Themeは同じ曲です。一回で録ったもののべつの部分をそれぞれの場面に嵌めこんだのではないでしょうか。汎用性のあるムーディーな曲としてつくられたのでしょう。こういうクラリネットやハーモニカの使い方にも、日活らしいタッチが感じられます。なぜか、というところまでは考究しませんが。

ラズベリーズのヒット曲からタイトルを拝借したBaby Let's Pretendは、前出Two Killersと並ぶこの映画の代表的なラテン・タッチの曲です。チャチャ風のリズムとパセティックなトランペットの組み合わせが、いかにも日活らしいムードを生んでいます。

この曲の最後にバシバシ、バシッとSEが入っていますが、これは、恋人のフリをするために無理矢理キスをした赤木圭一郎を、浅丘ルリ子が張り倒した音です。ふつうなら一撃ですむはずが、二往復プラスだめ押しの一打という念の入れようで、しかも、一、二発ほんとうにあたったのではないかという、キツいビンタです。

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監督に指示されて、浅丘ルリ子は「そんなにぶつんですか?」と抵抗したのじゃないでしょうか。浅丘ルリ子ファンのわたしとしては、一発だけにしておいて欲しかったと思います!

日活アクションではめずらしいことではありませんが、『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』も、音楽が楽しい映画でした。いえ、日活アクションのスコアも、山本直純のスコアも、これが最後ではなく、またほかのものを取り上げることになるでしょう。

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by songsf4s | 2010-01-10 23:14 | 映画・TV音楽